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ブルーボトルコーヒーが日本に進出してから半年が過ぎようとしている週末の清澄白河店舗では、相変わらずの行列が続いていた。ブルーボトルコーヒーの人気の秘密は緻密に計算された特異な戦略にあった。

ブルーボトルコーヒーとは
ブルーボトルコーヒーは、元ミュージシャンのジェームズ・フリーマンが2002年に米国西海岸で創業した。「第3のコーヒー」、「コーヒー界のアップル」と呼ばれ、すでにVCなどから3度にわたって合計1億1,600万ドルを調達している。この巨大な金額の裏には、ブルーボトルコーヒーが与えるコーヒー界へのインパクトの大きさと投資家の期待が込められている。

ブルーボトルコーヒーは、生産者に利益が回るフェアトレードの有機栽培豆を使用し、焙煎から48時間以内の新鮮な豆だけを使い、注文を受けてから1杯ずついれる手法をとる。コーヒー1杯を提供するために、手間も時間もかかるため、価格はスターバックスコーヒーなどのシアトル系より4割程度高いが、客は承知のうえで行列をつくって待つ。そんな光景から彼らの戦略を読み解いてみる。

ブルーボトルコーヒーの秀逸な戦略
ブルーボトルコーヒーの戦略は複数の施策が一貫したストーリーにつながっている。まず、ブルーボトルコーヒーは「忙しいビジネスマンをターゲットから捨てた」。これは出店した立地を見ても、清澄白河、青山とビジネスマンが集中するエリアではないことからも明らかである。ブランドイメージを高めつつも、ビジネスマンや高所得者が多く集まる丸の内や六本木ではないことで、立地コストの削減、それによる別目的の空間確保、他社とのターゲット・商品において完全なる差別化を創り上げている。

2つ目は、「メニューの多様な選択肢を捨てた=シンプル」。ブルーボトルコーヒーのターゲットは、コーヒーの味を楽しみたい人に限定しており、こだわりの味を妨げるような商品の提供を排除し、必要最低限の選択肢のみを提供している。そのため、スターバックス等で提供されている様々なトッピングを加えた商品バリエーションを有しておらず、ターゲット・商品を絞ることで差別化と投資の選択と集中を図っている。

3つ目は、「店内のくつろぎの空間を捨てた」。最初の清澄白河という立地から都心よりはスペースにかかる費用は少ないはずだが、店舗の客席はカウンターテーブル24席のみであり、店内でゆったりとくつろいでもらいたいという意図は全く感じられない。これは、カフェでのくつろぎ、友人との会話、景色、仕事などのためのスペースを提供することを意図しておらず、純粋にコーヒーの味を楽しみたい人のみをターゲットとしている。だから、おいしいコーヒーを渡した後は全くケアする必要がない。

顧客から頂いた対価に対する商品は1杯のコーヒーにつまっており、それが全てであるという意思表示でもある。ここがスターバックスとの大きな差別化のポイントである。スターバックスは平均店舗滞在時間で30分を目指し、店内の雰囲気と「空間」を提供することを売りとして、その他のコーヒーチェーンと差別化を行った。これは、顧客の回転率が利益に直結する飲食業界において極めて非合理的な考え方であるがゆえに、他との明確な差別化につながった。コーヒーではなく、職場でもない、自宅でもない、第3の空間を求める人々の支持を得て成長してきたスターバックスが第2のコーヒーと言われる所以である。

それに対しブルーボトルコーヒーが第3の波と言われるのは、既存の第1、第2のコーヒーショップが目指したターゲットではない、純粋にコーヒーの味を楽しみたい顧客をターゲットとした新しいポジショニングを目指したことにある。これにより、内装コストの削減、空間提供をしないことでカフェに空間や時間を求める顧客さえも排除し、コーヒーの味を純粋に楽しみたい人のみに強烈にターゲットを絞っている。また、この顧客のためのくつろぐ空間を持たないことで、焙煎スペースを施設内に捻出=焙煎から48時間以内の豆を提供するという品質強化とインパクトある差別化商品につながっている。

4つ目に、「短時間でのコーヒー提供を捨てた」=時間をかけてコーヒーを淹れる。コーヒーの提供に時間をかけることで、忙しい顧客を排除し、時間を気にせずブルーボトルコーヒーの出来上がりを待ってくれる顧客のみを選別している。また、この時間がブルー-ボトルコーヒーが考えるコーヒー品質には必須の条件となる。実は、ここがブルーボトルコーヒーにとってのクリティカルパスなのだ。時間をかけることで、ターゲットを選別すると同時に、その時間が商品を高品質に高めるための貴重な源泉となっている。これが成立することで、顧客の期待と提供商品のミスマッチを防ぎ、顧客満足度を上げ、リピート客をつかむという素晴らしい戦略ストーリーができあがっている。

 「全てはコーヒーの味・最高の品質のために
ターゲットをしぼり、人口密度が高いとは言えない立地に出店し、くつろぐ空間も提供せず、メニューのバリエーションもシンプル、コーヒーの提供までに時間をかけ、客の回転率を下げる。これら飲食業においては非常識とも取れる非合理な施策は、ブルーボトルコーヒーがこだわった品質・味を提供するというただ1点のためだけに存在している。その珠玉の1点に注力し圧倒的な強みを持つことが、他社との明確な差別化を図り、自社のターゲットに正確に訴えかける源泉となる。これこそがブルーボトルコーヒーの真の狙いであり戦略なのだ。


日本の喫茶店を参考にしたと言われるブルーボトルコーヒーであるが、参考にした喫茶店には少なくともくつろいでコーヒーを楽しむ空間や時間が存在する。ターゲットは同じく忙しいビジネスマンではない。しかし、この絶対的に品質の高いコーヒーを伝統的な喫茶店で楽しむ敷居の高さをブルーボトルコーヒーの創業者ジェームズ・フリーマンは認識していたのかもしれない。それこそが、このブルーボトルコーヒーがコーヒー業界に破壊的イノベーションを見出したきっかけであったのではなかろうか。うまいコーヒーを敷居の低い店舗で多くの人に提供したい、その思いが生んだ第3の波、それがブルーボトルコーヒーである。



【参考記事】
■ステーキけんの社長も間違える、マクドナルドの原価96.1%について
http://sharescafe.net/44569762-20150503.html
■ライザップと行列ができる本屋の共通点
http://sharescafe.net/44050998-20150331.html
■グーグルはなぜ新入社員に1800万円の給料を払うのか?
http://sharescafe.net/44175529-20150408.html
■KDDIがナタリーを買った理由~デジタルメディア・ビジネスデザインという24番目の利益モデルについて~
http://sharescafe.net/40893845-20140918.html
■就職活動中の女子大生のために、ゾゾタウンの企業研究を徹底的にやってみた。
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森山祐樹 中小企業診断士

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