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先日からステルスマーケティング、いわゆるステマに関する騒動がウェブメディア業界で続いている。

7月30日、ヤフー!ニュースのスタッフブログが記事のフリをしたノンクレジット広告、つまり「ステマ」の排除を明確に打ち出した(編集コンテンツと誤認させて広告を届ける行為(ステルスマーケティング、いわゆるステマ)に対する考え )

また、9月1日にはウェブメディアのハフィントンポストが同じくステマと疑われる記事の排除をするために調査・管理チームを立ち上げた。そして過去の記事でステマ、もしくはPRを目的とすることが疑われる記事を削除したこと報告した(ハフポスト読者の皆様へ 2015/09/01)。

ステマ排除の動きは、ネット広告に関する業界団体のJIAAによるガイドライン策定ですでに固まりつつあったが、月間100億PVを超える日本最大のニュースサイト・ヤフーニュースや、大手ウェブメディアのハフィントンポストが明確に排除に乗り出したことを表明して、この動きを決定づけたと言える。

ただ、現状ではステマという言葉が一人歩きをしてしまい、そもそもステマとは何か? そしてステマの何が問題なのか?という事すら置き去りにされ、魔女狩りの様相すら呈している。

シェアーズカフェ・オンラインというウェブメディアを運営する編集長として、そして一人の書き手として、この問題を論じてみたい。

■ステマはなぜいけないのか。
現在、ステマという言葉は本来の意味だけではなく、つまらない記事を批判する差別用語のような使われ方になっており、なんとも異常・異様な状況に見える。

当初、ステマとして問題視されたものはペニオク(ぺニーオークション)の詐欺事件による芸能人のやらせ(こんなに安く買えました!とブログに書き込むなど)や、一部口コミサイトで行われた、店舗運営者による自作自演の書き込みだった。ステマの本質である「広告であることを隠した広告」という問題のみならず、ペニオク事件では手数料を払わされるだけで実際には買えないという問題も重なり、大きな騒動に発展した。

ウェブメディアでステマを禁止する背景には、景品表示法など消費者を保護する法律が根拠になっている。つまり、広告で「この商品は質が良い」と読者・消費者に伝えることと、記事の中で同じ内容を伝えることには大きな違いがあり、より良い商品だと誤解させる可能性がある。これを「優良誤認」という。

法律を持ち出すまでもなくステマがろくでもない行為である事は言うまでもないが、これらの問題が起きた当時、消費者庁の資料では「関係性の明示」がうたわれている(第7回インターネット消費者取引連絡会・口コミサイトに関する課題より 2012/12/5)。口コミサイトにユーザーが期待する「利用者の声」が「店舗運営者による宣伝広告(つまり自作自演)」として偽装されていれば、消費者に不利益が発生するため許されない、という事になる。

現在はこの問題が口コミサイトからウェブメディアに舞台を変えて、店舗運営者が広告主や代理店・PR会社に姿を変えて、全く同じ問題が繰り返されているように見える。

■ステマ排除のガイドラインのつくりかた。
さて、ではステマを排除するためにはどうしたらよいのか。これはウェブメディア編集長として中々頭が痛い。

シェアーズカフェ・オンラインは外部の書き手が投稿する記事で成り立っているため、書き手に対するガイドラインはサイトの運営上、生命線となる。昨年末頃に作成して少しずつ改定しているが現時点のガイドライン・倫理規定は以下の通りで、公表もしている。

1.記事内で取り上げる企業・個人から金品の受け取ること。
2.三親等以内の親族が経営・勤務する企業を取り上げること。
3.企業・個人などから報酬の有無を問わず、依頼されて記事を作成すること。
4.執筆した記事を公開前にインタビュー相手や記事内で取り上げた企業に見せること。
5.自身・自社の取引先を記事内で取り上げること(消費者としての取引は除く)。
6.出資・株の保有・融資など、利害関係がある企業・個人およびその商品・サービスを記事内で取り上げる事。
7.告知ページ以外で自身の扱う商品・セミナーを紹介・宣伝・売り込みを行うこと。
8.関連リンクで自身・他者を問わず商品・サービスのページにリンクを張ること。


●利用規約・広告表記について http://sharescafe.net/archives/31971848.html

一部例外などもあるが、上記のとおりかなり細かく規定している。一言で表現すれば「利害関係のある企業・個人を記事で取り上げること」を禁止している。特に3は通常のメディアが様々な企業やPR会社とつながりがある状況と比べれば、ありえないほど厳しい。

ただ、シェアーズカフェ・オンラインは主に士業や大学教授、経営者など専門家がマネー・ビジネス・経済等の情報発信をするメディアとして運営している。自分の経験から考えても専門家が記事を書く際に企業やPR会社、広告代理店との付き合いは一切必要ない。場合によっては有害ですらある。したがって、これらのルールはステマ防止であると同時に記事の品質を担保するためでもある。

例えばこのお店のおもてなしは素晴らしい、という記事は問題ないが、そのお店の経営者が書き手の親族や顧問先だったらどうか。この企業の経営手法は素晴らしい、という記事は問題ないが、もし書き手がその企業の株を保有していたらどうか。直接的に金品のやり取りが無くとも、到底客観的な記事とは言えない。

また、IT系のメディアならばメーカーから機器を借りてレビュー記事を書くことは普通にあると思うが、ウチのサイトの基準ではアウトだ。専門家が記事を書くために、企業から何かを借りる必要は無い。唯一献本による書評のみ特例で認めているが、これも献本である事を明記する必要があり、利害関係のある筆者の本は不可としている。

誤解を恐れずに言えば、記事の内容が中立・公正・公平である必要は無い。しかし客観性が無くなれば、それは有害な情報でしかない。各種メディアや報道機関、金融機関、上場企業等で働く人には、業務上に限らず日常生活であってもある程度の制限がかかる。それらを参考にした結果、こういったガイドラインになった。

メディアによって必要なガイドラインは異なると思うが、何をどのレベルまで禁止すれば良いか判断がつかないサイトには参考になる部分もあるだろう。そしてこのガイドラインの根っこにある考えは、「書き手以外の意思を記事に入り込ませない」ということになる。

※なお、上記ガイドラインは配信先の要請で作ったものでは無く自主的に作成したものであり、配信先の規約・ガイドライン・契約とも一切関係ない。

■アマチュアリズムがステマを排除する。
編集長である自分は、元々個人ブログを書き始めたことがウェブメディアへのかかわりのスタートとなる。「ブロガー上がりの編集長」という事で、他のメディア関係者とは出自がかなり異なる。なぜそんな人間が編集長をやれているのかと言うと、元々アマチュアであることがプラスに働いていると、最近になって気づいた。

個人でブログを書く際、何を書くか、どのように書くか、いつ書くか。これらは全て自分ひとりで決める。つまり記事に他人の意思が入り込む余地が無い。

個人ブログで蓄積したノウハウを元に立ち上げたシェアーズカフェ・オンラインも同じように運営している。書き手はガイドラインと編集長である自分の指示に従う限りは、何を書こうと自由だ。つまり、書き手には「書き手以外の意思」を記事には含めないように指導してきた。具体的にそのような表現でアドバイスをしたことは無いが、執筆指導や添削など、アドバイスの根っこには常にそういう考え方が無意識にあった。

■きっかけはインタビュー記事。
この無意識を意識したのが、書き手がインタビュー記事を書いた時だ。どのように書いているのかと思っていたら、書き手から「インタビューの相手に記事が問題無いか事前に確認をしてもらったところ、NGを受けた箇所があったので書き直している」という報告があった。この報告を受けた際、極めて強い違和感、もっと言えば不快感を覚えた。なぜ公開前の記事を見せる必要があるのか?と。

メディアによって、インタビュー記事を確認させるかどうかは異なる。どちらが正しいという事は無い。ただ、自分の「ブログ道」から考えると、相手にNGを受けて書き直す事は他者の意見が記事に反映される事に他ならない。これが行くところまでいけばインタビュー相手にとって都合の良いことだけが書かれた宣伝記事になりかねない(この件は書き手が悪いのではなく、ガイドラインの整備不足が原因)。

■「俺のブログ道」という編集方針。
記事に他人の意思が入り込むという状況を考えてもいなかった自分にとっては想定外の出来事だったため、この件を境に記事が広告にならないようにガイドラインを含めた倫理規定を作らねば、と考えるようになった。その結果出来上がったのが上で示したガイドラインだ。

つまりステマ騒動を受けてガイドラインを作ったのではなく「俺のブログ道」から外れる書き方は許さん、という極めて個人的な編集方針が結果的にステマ排除のガイドラインのベースになっている。ましてやお金を受け取った広告主の意思が記事に入り込むなどありえない、という事だ。この点を理解できない書き手は即刻クビにしている。

ステマと聞くとお金を受け取って記事を書いている、それを通常の記事として大手メディア等に配信している、というのが多くの人の理解だと思うが、やろうと思えば他にいくらでもやりようがある。より広く考えれば「読者のために書かれていない記事」を排除するには、ガイドラインや倫理規定としてここまで決めないといけないという事だ。

こういったガイドラインや編集方針が他のメディアや読者からどのように見えるかは分からないが、ステマは確実に排除できる。事細かに書いてあるので厳しいように見えるかもしれないが、自分にとっては当たり前の事しか書いていない。ステマは禁止です、と伝えても書き手が60人もいると正確に伝わらないため丁寧に書いているというだけのことだ。

以下の記事も参考にされたい。
■グーグルはなぜ新入社員に1800万円の給料を払うのか? (中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/43503648.html
■ライザップと行列ができる本屋の共通点 ~平凡な商品がバカ売れする理由~ (中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/43405362.html
■KDDIがナタリーを買った理由。 ~デジタルメディア・ビジネスデザインという24番目の利益モデルについて~ (中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://sharescafe.net/40893845-20140918.html
■就職活動を始めた大学生はNHKのお天気お姉さん・井田寛子さんに学べ。(中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://sharescafe.net/35672639-20131216.html
■就職活動中の女子大生のために、ゾゾタウンの企業研究を徹底的にやってみた。(中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://sharescafe.net/38259166-20140414.html

何かを褒める記事を書くと、必ずと言って良いほど「金でも貰ってんのか?」「ステマ乙」といったうっとうしいコメントがSNSで書き込まれる。これは単純にそういった書き込みを行う人が自分自身の(お金でも貰わないと他人を褒めないという)価値観を表明しているだけなのだが、ステマを実際に行うメディアや企業、代理店があることも当然原因の一つだ。真面目に運営をしているメディアや書き手まで疑われる状況は、明らかに異常だ。早期にステマが無くなり浄化される事を望みたい。

中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン編集長 ファイナンシャルプランナー

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