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まず、台風18号で被災された方々へお悔やみとお見舞いを申し上げたい。

復旧にあたり現実的な問題として、被災した会社の雇用問題が挙げられる。

早急に通常勤務に戻れれば良いが、事業の再開まではしばらく時間がかかるという会社もあるであろう。そこで、被災地支援の一助になればというのはおこがましいかもしれないが、社会保険労務士として、考えられうる施策を提案したい。


■洪水による休業は無給が原則
まず大前提から述べておくと、復旧までの間、休業をして従業員を自宅待機させるという場合、従業員に賃金を支払う必要がない。これは、「ノーワーク・ノーペイ」の原則に基づくものである。

また、本来の賃金の代替となる休業手当も支払う必要もない。労働基準法第26条には、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」と定められているが、洪水のような天災の場合は、「使用者の責に帰すべき事由」に該当しないからである。

■有給休暇を「奨励」しよう
とはいえ、従業員にも生活がある。そこで、私が会社と従業員の痛み分けとして提案したいのは「有給休暇の奨励」である。

災害時であれ、有給休暇の取得を強制するのは違法であるが、「奨励」するだけならば違法とはならない。

従業員は会社の奨励を受け入れて有給休暇を取得したならば、本来無給であるところ、有給の日数は減るが、自分の持っている有給日数の限度で賃金は保障される。また、会社にとっても、このような形ではあるが、有給の消化を推進させ、有給残日数を減らすことができるわけだ。

しかしながら、経営の厳しい会社の場合は、「ない袖は振れない」という話になり、有給休暇を取得してもらっても、売上というキャッシュフローがなければ賃金を払えないという現実に直面するかもしれない。

■緊急融資を受けてキャッシュフローを確保
そのような状況の時に検討したいのは、公的および民間の緊急融資等の活用である。

政府も迅速に動いており、中小企業庁のホームページに9月11日付でアップされた情報によると、日本政策金融公庫や商工組合金融公庫が、災害救助法が適用された茨城県において、台風18号により被害を被った中小企業や小規模事業者に対し、通常の融資とは別枠で災害復興貸付を実施するということだ。

また、同県において日本政策金融公庫、商工中金及び信用保証協会は、既往債務返済条件の緩和等にも応じるということである。

民間の金融機関のほうでも、被災企業を支援する動きが出ており、9月10日付で茨城県に地盤を持つ筑波銀行が復旧に必要な運転資金等の緊急融資制度を実施する旨を表明している。

また、宮城県に地盤を持つ七十七銀行も、9月11日付で同様に「七十七災害対策ローン(緊急災害融資)」を大雨による被災企業に対して実施することを発表している。

このように、公的機関、民間機関含め、様々な形で金融支援が受けられる可能性があるので、従業員の雇用を維持するために、金融機関の緊急融資等を是非活用してほしい。

なお、さらに資金調達手段を考えるならば、代表者や会社が契約者となって生命保険に加入していたり、小規模企業共済に掛金を支払っていたりするならば、契約者貸付制度を利用することもできるであろう。

■雇用調整助成金を申請しよう
次に、これらの融資手段を使って雇用が維持できたとしても、すぐには被災前の水準まで仕事量が戻らない可能性も考えられる。

そのような場合は、勤務日を減らしたり、時短勤務を行ったりすることになるであろう。

洪水の影響に起因するので、引き続き休業手当の支払は不要だという考え方もできるが、一応事業は再開している前提なので、本当に払わなくて良いか法的判断は微妙というのが当職の私見だ。

それならば、従業員にも生活があるのだから、会社として休業手当を支払った上で、雇用調整助成金を申請するのが良いのではないだろうか。

雇用調整助成金とは、直近3か月の会社の売上高の平均値が、全円同期に比べて10%以上減少している場合、仕事量の減少のため休業した従業員に支払った休業手当のうち、3分の2(大企業は2分の1)が国から給付されるというものである。

受給するためにはその他いくつかの条件を満たす必要はあるが、今回の水害によって、長期にわたって売上高の減少が懸念される会社は、この雇用調整助成金の活用を検討してみてほしい。

■給料を払えないならば解雇のほうが従業員のため
最後に、ここまで述べてきた融資制度や助成金制度を使っても雇用の維持が難しい場合である。

この場合には、給与未払いのまま無理に雇用を維持しようとするよりも、解雇をしたほうが、会社だけでなく従業員にもメリットがある。

なぜならば、会社からは給料が未払いで、かといって失業しているわけでもないので失業手当ももらえず、結果的にどこからも現金収入がないというのが、従業員にとっては最も酷な状況であるからだ。

それならば、解雇で早期に決着をつけて、従業員は失業手当を受給したほうが、実利がある。

加えて、解雇による離職者は雇用保険法上「特定受給資格者」という扱いになるので、7日間の待期期間終了後直ちに失業手当の受給資格が生まれるし、年齢や勤続年数のよっては受給日数の優遇が受けられる場合がある。

また、解雇による離職者であれば、退職後に国民健康保険に加入する場合、保険料の軽減が受けられるというメリットもある(前年度の収入を実際の額の3割とみなして保険料を算定)。

なお、会社としても、全従業員または大半の従業員を解雇するという前提であれば、解雇予告手当の除外認定を受けられる可能性が高いので、解雇に伴うコストを最小化できることも申し添えたい。

■結び
会社と従業員が自分の権利を100%ぶつけ合っていては、災害からの会社の立て直しはうまくいかない。

会社は従業員の生活を守るために使える制度は積極的に活用し、従業員も譲歩できるところは譲歩する。

そうすることが結果的にお互いのメリットを最大化し、早期の生活の安定や、企業活動の復旧につながっていくのではないだろうか。

《参考記事》
■広島土砂災害は避難勧告の不適切さを責めるだけでは悲劇は繰り返される 榊 裕葵
http://sharescafe.net/40644590-20140903.html
■御嶽山噴火 自分だけ生き延びたのは、決して悪ではない。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41223195-20141007.html
■働く人が労災保険で損をしないために気をつけるべき”3つのウソ” 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41626385-20141030.html
■経験者だから語れる。パワハラで自殺しないために知っておきたい2つのこと。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/42167544-20141201.html
■マレーシア航空撃墜事件を機に考える。会社員は危険地域への出張を拒否することができるのか。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/39987873-20140723.html


あおいヒューマンリソースコンサルティング代表
特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵

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