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住宅に次いで人生で2番目に高い買い物と言われる生命保険。賃貸と持ち家のどちらが得かと同様、積み立て型とかけ捨て型の保険のどちらがよいかも議論がつきないテーマです。最近のマネー関連の本や雑誌を見てみると掛け捨て型を推す声のほうが強いようです。

■積み立て型の生命保険はローリスク・ローリターン
「生命保険は人生最後のラブレター」「社会人になったら保険に入るのは義務」といった言葉に象徴されるように生命保険について、感情的に考えている人は多いと思います。しかし保険も金融商品の一つとして考えるとすっきりするのではないでしょうか?

お金について考える際の基本は、リスクとリターンの関係を押さえることです。定期貯金は、金利が決まっていて将来、いくら利息を貰えるかはっきりしています。その代わりに利息額も少額です。つまりローリスク・ローリターンです。それに対して株式投資は多額の利益が見込める反面、元本を割る恐れがあるため、ハイリスク・ハイリターンといえます。

同じことが生命保険にも当てはまります。積み立て型の保険は、必ず保険金が貰える代わりに、払い込んだ保険料との差額が少額です。つまりローリスク・ローリターンとなります。保険料が安い反面、保険金を貰えるかどうか分からない掛け捨ての保険は、ハイリスク・ハイリターンといえます。

■生命保険の基本型は2つ
複雑だと思われる生命保険ですが、大きく分けて2種類しかありません。1つは定期保険です。保険料を払う期間を30歳から60歳までとします。60歳までに死亡したときに保険金が支給されますが、61歳で死亡しますと1円も支給されません。契約終了時にはお金が戻ってこないことが多いので、掛け捨て型の保険と言われています。

もう1つは終身保険です。言葉のとおりいつ死亡しても保険金は支払われます。また保険料を払う期間を30歳から60歳までと選択した場合、60歳を超えて解約しますと払ったお金を超える金額が戻ってきます。貯金の代わりにもなることから積み立て型の保険と呼ばれています。

積み立て型の保険のほうが良さそうに見えます。ただし、積み立て型の保険は、毎月支払うお金が高くつきます。例えば30歳で1000万円の保険金が支払われる終身保険に加入すると、60歳まで支払うとして毎月2万近くの保険料を支払わなければなりません。それに対して掛け捨ての定期保険でしたら3000円以下で加入できるものもあります。つまり、積み立て型の保険のほうが毎月、支払う保険料が圧倒的に高いのです。また結婚して子供が生まれたりしますと、万が一のことを考えて3000万円くらいの保険金は必要です。3000万を終身保険で賄うとすると、月の支払いは6万になってしまいます。高収入の世帯でも支払いは、厳しいものとなります。

■貯蓄としての機能は低下
「貯金を代わりに積み立て型の保険に入ったほうがよいですよ」と銀行や保険会社に勧められて、加入した人も多いかと思います。以前は、お宝保険とも言われる払い込んだお金の120%以上が、解約時に戻ってくる積み立て型の保険がありました。しかし最近は、終身保険につく利率が低くなっています。それに伴って解約時に戻ってくる金額は、以前より少なくなっています。

外資系の保険会社が販売するドル建ての終身保険の利率は高く、開業医などの富裕層に人気が高いです。正直、為替リスクやドルから円への換算時の手数料を考慮するとお金を貯めるという目的としては疑問です。解約時、加入時より円高になっていれば利息分が帳消しになる恐れがあるからです。

■終身保険の3つのメリット
貯蓄として役立たないのであれば、終身保険は不用かというと、個人的にはそうでもないと考えています。次の3つの局面で役立つからです。

一つ目は被保険者の死亡後、数日間で保険金が支給されるからです。入院費の精算や葬式代の支払いなど亡くなったときのまとまったお金が必要となります。死亡届けを出すと故人の銀行口座が凍結されてしまうため、いくら貯金があっても、お金を降ろすことができません。凍結された口座からお金を下ろすには、故人の誕生からの戸籍を揃える必要などがあり、1ヶ月前後かかってしまうこともあります。

二つ目は契約者貸付といって、支払った保険料の額に応じてお金を借りることができる点です。利息はつきますが、会社を辞めて起業したりしますと、金融機関からまとまったお金を借りることが難しくなることがあります。

三つ目は相続税を軽減することができます。生命保険には、非課税枠が設けられていて一定額が減額されます。現状では500万円×法定相続人の人数が、相続財産から引かれることになります。

低金利が続く昨今、積み立て型の保険はお金を増やすという目的には向かないと思います。しかし生命保険の加入や見直しをされる際、終身保険ならではのメリットを考慮に入れて検討されたほうがよいです。

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佐藤敦規 FP・社会保険労務士

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