■日本の内向きなグローバル化 先日、産能大が2015年度の「新入社員のグローバル意識調査」をおこなったところ、「海外で働きたくない」人が2013年度と比べ増加したという結果が出た。2013年と2015年の調査サンプル数がほぼ同じなので、日本が少子化傾向にあることを考えれば、パーセンテージの増減より絶対数の増減のほうを注目すべきだ。その絶対数が増加傾向なのであれば、確かに今後の日本のグローバル化が本当にうまくいくか不安になる要素ともいえる。 記事によると、彼らが海外で働きたくない理由は、仕事における語学力や生活面が不安だということらしいが、これらの理由は決して今に始まったことではない。グローバル化がスポットライトを当てられてから長らく続いている問題だろう。しかし、「改善」が得意なはずの日本人がどうしてこの問題解決を進められないのだろうか?そこで今回は、語学力の側面から日本の英語教育システムに焦点を当てて分析をしてみたい。 キーとなるのは日本の海外進出人材育成教育が抱える2つの課題だ。 ■テストスコアへの偏向 まずは、テストスコアの”優劣”がその人のグローバル評価に繋がり過ぎていることが考えられる。もちろん、評価作業が可視化できるテスト自体の存在を否定しているわけではない。ただ、評価とは、その人が会社に貢献できる能力に対しておこなわれるものであり、英語テストだけで会社に直接的な貢献ができるとは言い難い。しかし、現実には「高得点だと評価が上がる」と考える人は多い。 アンケートにあった海外に対して消極的な人材が増えているというデータにも関わらず、TOEICのような英語テストでは過去10年で約4割近く受験生(そのうちの75%が30才未満-参照データ P7-)が増加しているところを見ると、次世代日本人の内向き英語学習が進行していることは間違いない。 海外業務の現場では、機械やテストではなく生身の人間とやり取りをする。高得点を取るための無感情・無反応の英語学習だけを推し進めても、学習した英語が通用しないとわかれば、今よりも海外に対して消極的になる可能性もあるのではないだろうか。 私を含め多くの国際業務経験者は、最初から高いレベルの英語力を保持していたわけではない。生身の人間との臨機応変な対応で徐々に培っていったものだと記憶する。自身を振り返ると国際業務を通じた学習にはいつもHOWという言葉があったように思う。「どのように話を進めるか」「どのように使うか」という意識が英語力を自然に向上させてくれた。一方で、日本の英語学習で「どうしてその単語を使うのか」を教えてくれる人は少ない。「そんな暇があれば暗記しろ」というWHAT学習から抜け出せないのだ。英語学習は長期間にわたるものでなければならない、だからこそWHAT学習だけではなくHOW学習を含めた次世代英語学習が必要だと思われる。 ■直訳からの卒業 もう一つの課題が、日本人に根付く直訳学習だ。英語学習にもテストのように”正解は常にある”と考えてしまうため、直訳という一語一句間違えずに訳すことを好ましいと感じている日本人は多い。事実、私が教える生徒の90%以上が、最初の授業のエクササイズでは直訳をしてしまっている。 これはグローバル人材育成という観点から考えると、看過できない問題だ。その理由は2つあって、1つめが、英語の直訳では、その真意が相手に伝わりにくいという点。文化の違う外国の人々に日本独特の表現を伝えてもピンとはこないのは当然のことだろう。例えば「展開する」という言葉を訳す必要があったとしよう。「展開する」自体は、非常に使い勝手の良い言葉で多くの意味を含むため、それを直訳すると逆に相手を混乱させてしまうこともあるのだ。 2つめが、直訳作業自体、近い将来機械に代替されてしまうという点である。グローバル人材の価値向上のためには、直訳ではなく生身の人間だからこそできることを考えなければならない。 では、我々は何をすればよいのだろうか? それは、何を訳すかの”WHAT”から、どう訳すか・どう伝えるかの”HOW”への意識転換だろう。もう少し具体的に言うと、相手が真意をくみ取れないのが文化の違いによるものであれば、原文にこだわらずに原文の真意をくみ取った「意訳力」が必要になるだろう。 先に示した「展開する」の場合、単語だけを辞書で調べるとdevelopという言葉が出てくる。ところが、「今後この商品を展開する」という文章だとdevelopより”promote”や”introduce”の方がしっくりくる。このように、前後の文脈から「展開する」の意味を理解し訳すことができるのは生身の人間しかいないのだ。 ■おわりに このように”WHAT”が中心の現在の日本の英語教育システムだと、英語学習が画一的になるため、目的にあったグローバル人材を生み出すことが難しくなるだろう。業種・職種・職位で求められる能力は違うことを考えれば、目的にマッチした英語教育が必要になってくるはずだ。そのためにも、まずは次世代グローバル人材には、自分がどうやって目的を達成するかの”HOW”を意識した英語学習を進めてもらいたい。 《関連記事》 ■歯車が崩れた時の人間の経済行動とは? 第2弾 JB SAITO ■人の感覚を狂わす新しい経済学 第1弾 JB SAITO ■「明日、ママがいない」から見た行動経済学 第4弾 JB SAITO ■ギリシャのイメージはどうして崩れた? 行動経済学 第3弾 JB SAITO ■JR九州「ななつ星」に学ぶ、おもてなしの心と経営判断。 JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |