本が売れないと言われてから久しいものがあります。2014年の書籍・雑誌の推定販売額(電子書籍を除く)は前年比約4.5%減の約1兆6000億円。10年連続減少しています。昨今では、比較的好調だったビジネス書の売れ行きにも陰りがさしているようです。そんな中で売れ続けている本があります。人が亡くなった後に必要な書類や年金の請求方法などを解説した実用書です。

■9月時点での累計発売部数は27万部以上
「身近な人が亡くなった後の手続きのすべて」(自由国民社刊)は、司法書士、税理士、社会保険労務士の士業3人による共著です。必要な手続や届出を以下の3種類に分け、まとめています。
1.直後に行うこと
2.落ち着いたら行うこと
3.必要に応じて行うこと

各項目の冒頭には、全員に必要な手続きなのか、該当する人だけが必要なのか明記されているので、必要項目だけを選択できます。

私は生命保険の営業に役立つのではと考え、発売直後に購入しました。読んでみて、取扱説明書のような印象をいだきました。その本が発売から9月経過した8月の月間書籍売り上げのベスト10に入っているのは、驚くべきことです(日版 8月31日調べ)。10位以内には、又吉直樹氏の「火花」、東山彰良氏「流」、羽田圭介氏の「スクラップアンドビルド」など芥川賞、直木賞という出版業界最大のイベントの受賞作が連ねているからです。

音楽に例えるなら、レコード大賞の候補者としてEXILEやAKB48と並んで、知る人知るジャズボーカリストがノミネートされたようなものです。いずれにせよ、1万部で結構売れた、3万部売れたら昔の10万部に相当すると言われている出版界で27万部売れたというのは大ヒットです。最近では類書も何冊か発行されています。


■背景には相続増税
本書が売れたのは、今年から相続税の基礎控除が縮小され、相続税の課税対象者が増加したことが大きな要因だと考えられます。5000万+(1000万×法定相続人数)だった基礎控除の対象額が1月1日から3000万円+(600万×法定相続人数)に削減。その結果、4%から6%に増加しました。

さらに東京、大阪、名古屋という三大都市圏の路線価は2年連続して上昇。主な資産は持ち家だけという世帯でも、相続税がかかってくる可能性がでてきました。

こうした状況を反映して、相続関連の書籍を目立つところに置く書店が増えています。また週刊ダイヤモンドや東洋経済などの雑誌の特集として取り上げられたこともありました。その中で本書が紹介された効果もあったものと思われます。

■取扱説明書として徹したことが成功した?
人が亡くなった後の手続きには、複雑で面倒な上、時間的な余裕がないものがあります。たとえば、亡くなった方名義の銀行口座が凍結された場合の対処法です。葬式にかかった費用や病院への支払い、公共料金の支払いなどのため、一刻も早く解決したい問題です。また借金を引き継ぎたくないときに申請する相続放棄も亡くなってから3ヶ月以内という期限があるため、早急に行わなければなりません。

上記のような手続きは、提出書類に少しでも不備があったりしますと、銀行や裁判所は受けつけてくれません。再度、申請に出向くという二度手間になってしまいます。

本書では、必要な書類とその記入例が掲載されています。読者が不備のない書類を作成できるよう細かな注意点が記されています。押印の要不要など意外と迷うところですが、そうした点も漏れなくフォローされています。

■遺族年金の請求方法についても詳しく解説
相続関連の書籍が多数ある中、本書が他と異なるのは、遺族年金の請求方法が記されている点です。相続税の課税対象者は増えたといえ、全体の6%。誰もが対象となることではありません。

それに対して遺族年金の請求は、配偶者が亡くなれば必要な手続きです。年金制度自体、支給要件など複雑なものがあり、また細かな改正もあるため、一般の人々にとって分かりづらいものがあります。こうした悩みに対応したのが、売れた要因でしょう。

なお遺族年金は、他の相続と大きく異なる点があります。事実婚(内縁の妻)では、相続財産をもらう権利がないと民法(890条)で規定されています。しかし遺族年金については、内縁の妻でも受け取る権利があります。妻と別居し、愛人と長らく暮らしていたというケースでは、夫の年金を愛人が受け取ることができるときもあるのです。

ネットには膨大な情報がアップされています。検索すれば簡単に疑問を解決できます。しかし最低限の知識がないと、かえって時間をロスすることもあります。必要情報を短時間で知るためには、書籍のほうが効率的な場合があります。

【参考情報】
■終活もいいけれど・・・残された家族のためにも是非してほしいこと (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/44880501-20150524.html

■生命保険金が置き去りにされるトラブルが続出中!その理由とは?(加藤梨里 ファイナンシャルプランナー)
http://sharescafe.net/40387650-20140817.html

■1億円の借金で賃貸アパートを建てた老夫婦の苦悩 (中嶋よしふみ SCOL編集長)http://sharescafe.net/45556415-20150715.html

■贈与しまくりで破滅 バルザックの「ゴリオ」的人生は現代も起こりうるか
(野口俊晴 FP)
http://sharescafe.net/43562407-2015

■積み立て型の生命保険、終身保険は不用? (佐藤敦規 FP・社会保険労務士)
http://sharescafe.net/46343820-20150924.html

佐藤敦規 FP・社会保険労務士

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