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すでに身近になったアマゾンでの古本購入。ここに際立つ戦略を持つ地方企業がある。その企業の名は「株式会社バリューブックス」(以下、バリューブックス)。アマゾンで主に専門書を扱う一出品業者であるが、彼らの躍進の裏には、秀逸な競争戦略が隠されている。
 アマゾンで主にビジネス書、医学、法律関係の専門書を検索すると、古本の最安値かつ評価の高い業者にバリューブックスの名を良く見かける。バリューブックスはこれらのジャンルに圧倒的な競争力を持っているのだが、その背景には彼らが展開する競争戦略の一手が見え隠れする。今回はその戦略の全貌を読み解いてみたい。

■バリューブックスとは
バリューブックスは、東京と長野に拠点を構え、設立は2007年、資本金900万円の企業である。主に古本の仕入れから、その販売を手掛けるビジネスをアマゾン通じて行っている。古本事業は、主に商品の仕入れ、販売、発送業務とそれに加えて商品の保管業務が主な事業内容である。この業界では、この一連の流れの中でコストを落とし、オペレーションを工夫し、他社との競争に勝ち抜いていかなければならない。バリューブックスはこれらの業務に様々な施策を盛り込み、全体として非常に競争力ある素晴らしい戦略を描いている。

■バリューブックスの戦略ストーリー 
まず、1つめの強みは「立地とコスト」、長野県上田市に保有する買い取りセンターの存在である。この上田市という立地は、日本全国のアマゾン利用者に対しほぼ中心に位置し、発送拠点として、送料・納期の観点から非常にメリットのある立地であると言える。また、上田市は関東の首都圏に比べると非常に立地コストが安い土地柄であり、その地域で雇用される人件費も首都圏に比べ1-2割は低くなる。そのため、どうしてもスペースが必要な本の保管費用や人件費の面で、高いコスト競争力の源泉となっている。

■商品の仕入れ NPO/NGOを活用する「チャリボン」
 商品仕入れに関して、バリューブックスは他社に比べ非常に強力なコスト競争力と自社が注力する専門書分野の品揃えに強みを持っている。その背景にはNGO・NPOの存在があった。通常NGO・NPO法人は非営利団体としての活動を行っており、その活動を行うための資金が必要である。社会的には非営利のため非常に良いイメージを持つ一方で、活動資金集めに苦心している法人が少なくない。バリューブックスはこの社会的イメージと彼らの資金需要の2点に着目したのである。

 バリューブックスのスキームはこうだ。まず、バリューブックスがターゲットとする専門書は大学などの専門機関に多く存在している。そこにアプローチをしたいのだが、大学などが営利企業の活動に簡単に協力するとは思えない。また、その仕入れアプローチを行う営業コストもかかる。そこで、専門書の宝庫である大学へのアプローチはNGO・NPO法人などに行ってもらい、膨大な専門書を自らの人件費をかけずに集めることができる。大学などの機関も非営利団体であれば、社会貢献の一環として寄付などの形で非常に安価に提供するであろう。

また、大学同士の競争に疲弊し資金に困窮する大学では、営業活動ノウハウもない中、自らの資産である本がお金になるのであれば、卒業生などに本の寄付を募り、それを直接バリューブックスに引き取ってもらうことで大学の財政に貢献してほしいと謳うケースもある。ここでNPO法人などが仕入れた専門書をバリューブックスが引き取る。引き取る際には、実際に販売して売れたもののみを引き取るか、または売れる見込みがある商品のみを選別することで高い収益性を維持できる。

 これにより、バリューブックスは仕入れ業務を自ら行うことなく良質な専門書を安価に手に入れることができ、非常に強力なコスト競争力を得られるのである。これが販売価格に転嫁され、他社に大きな価格差をつけ、利用者には高品質低価格な本の提供を実現している。NPO法人らの社会的地位と資金需要のニーズをと自らの業務にマッチさせ、営業活動・仕入活動を無償で外部に委託し、良い商品を安く仕入れる源泉とする。これにより、バリューブックスが得意とする専門書分野においては、競争激しいアマゾンの中でも最安値の設定が可能となる。バリューブックスにはNPO法人などに支えられる圧倒的な価格競争力と商品力がその戦略の背景にある。

■不良在庫による社会貢献活動「ブックギフト」
 通常、販売で売れ残った商品は、在庫となりいくら立地コストが安い地方都市といえどもバリューブックスの負担になる。しかし、バリューブックスはその不良在庫についても、「ブックギフト」というスキームを通じ、活用する術を持ち合わせている。
ブックギフトとは、NPO・NGO法人や医療機関、保育所、老人ホームなどへ希望ジャンルの本を無償で提供する仕組みである。これは大きな社会貢献活動であり、その源泉は不良在庫という素晴らしいマッチングを確立している。また、この活動を推進することで、バリューブックスの在庫コストを減らすことにもつながっている。無償の地域貢献活動が、バリューブックスのコスト低減に寄与し、競争戦略の一端を担っているのである。

このように、バリューブックスの古本事業の裏には、利害関係者の動機をうまく組み合わせた仕入れ、地方立地による競争力ある保管・人件費コスト、不良在庫による社会貢献など、事業のあらゆる面において秀逸かつ論理的な施策が埋め込まれており、それらが絡み合い素晴らしい競争戦略を構築している。地方創生が叫ばれる昨今、地方に拠点を構える中小企業がこのような戦略を描く姿は、地方の同規模事業者に夢と希望を与える存在となり、地方を盛り上げるきっかけになることを願うばかりである。


【参考記事】
■ブルーボトルコーヒーに見る戦略ストーリー「人気のブルーボトルコーヒーは何を捨てたのか!?」(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/45855247-20150808.html
■ステーキけんの社長も間違える、マクドナルドの原価96.1%について
http://sharescafe.net/44569762-20150503.html
■ライザップと行列ができる本屋の共通点
http://sharescafe.net/44050998-20150331.html
■グーグルはなぜ新入社員に1800万円の給料を払うのか?
http://sharescafe.net/44175529-20150408.html
■KDDIがナタリーを買った理由~デジタルメディア・ビジネスデザインという24番目の利益モデルについて~
http://sharescafe.net/40893845-20140918.html

森山祐樹 中小企業診断士

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