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昨今、インターネットを見ていると、安心してセカンドライフを送るためには、貯蓄が3,000万円必要だとか、5,000万円必要だとか、そういった論調の記事をよく見かける。

20代や30代の若者に対して、老後に向けて節約や貯蓄を奨励するファイナンシャルプランナーも少なくないようだ。

また、「セカンドライフに向けて充分な貯蓄ができなければ、それは本人の自己責任であり、悲惨な老後が待っている」というような、自己責任論も声高に叫ばれるようになって久しい。

■老後の不安を過度に煽るのはやめよう
だが、私はこのような論調に違和感を覚えずにはいられない。さらに言えば、このような論調が人々に過度の不安を与え、我が国から活力を奪っているようにも感じるのだ。

今回の記事では極論を書くことをお許しいただきたいが、私は、我が国が活力を取り戻すためには、私たち日本人が大幅なマインドチェンジをすることが必要なのではないかと考えている。

■勝ち組、負け組が生まれるのは必要悪
私はサラリーマンとして8年、その後は社会保険労務士として多くの企業に接してきたが、その中で感じたのは、我が国の産業構造が一昔前とは大きく変わり、少なからずの人にとって、本人の自助努力だけでは、老後はもちろん、現役時代においても、安定した生活を送るこちが難しくなっているということだ。

より端的に言えば、産業構造上、一部の人が大きな富を手にし、その一方で、少なからず人は低賃金や不安定な労働条件で働かなければならないことが必要悪となっていることだ。

たとえば、私はサラリーマン時代は自動車製造の業界で働いていた。

自動車を作るにあたり、かつての生産ラインは、大量生産とはいえ熟練工が必要な場面も多かった。熟練工はもちろん正社員である。

だが、それが産業用ロボットにどんどん置き換えられ、生産ラインには、部品をセットしたり、取り出したりする単純作業者がつけば足りるようになった。

リーマンショックのとき、これらの期間工がバッサリと雇止めにあったことは記憶に新しいであろう。

自動車や生産ラインを設計する技術者や、本社機能を担う人材は正社員である必要があるが、製造現場にはもはや多くの正社員は必要ないのである。

完成車メーカーか、完成車メーカーと密接不可分な一次下請の会社に正社員として就職することができれば、最高水準の福利厚生が受けられ、退職金も数千万円単位で期待できる。

だが、期間工として就職したり、正社員であっても二次下請、三次下請となってくると、景気の波や、海外との受注競争に大きく影響を受け、不安定な就労を強いられかねない構図だ。

別の例を挙げよう。現在、私は教育関係の会社に取締役として参画しているが、昔は塾や予備校では、生身の先生が教壇に上がって講義をすることが当たり前のことであった。

だが、IT技術の発達により、業界の状況は大きく変わった。

人気のあるカリスマ講師の講義がビデオ収録されたり、衛生中継などで全国の校舎へ配信されたりして、一種の独占状態を作り出している。

だが、カリスマ講師が飛躍する一方で、教壇に立つ機会を失った講師も少なくない。そういった人はどうなるかというと、業界にとどまる限りは、チューターのような補助的な立場になったり、教材制作や模擬試験の採点などで日銭を稼がなければならない。

さらに言えば、小売業の世界である。

以前は駅前の商店街が栄え、地域に根付いた自営業者がたくさんいた。だが、これらがコンビニや郊外の大型ショッピングモールに置き換えられてしまった。

多くの自営業者が廃業し、労働の場もコンビニやショッピングモールのアルバイトなどに移っていったわけだ。

■生活保護は当然の権利である
このように、多くの業界において少数の勝ち組と、多くの低賃金労働者や不安定就労者が生み出される構図になってしまったわけだ。

では、この前提のもと、我々はどうすれば良いのだろうか。

私は打破すべきは、「平等を前提とした世の中だからこその行き詰まり」ではないだろうかと考えている。

逆に言えば、私たちは、不平等な世の中を真正面から受けれることで、新しい一歩を踏み出すことができるのではないだろうか。

近年、格差社会になったとはいうものの、心理的な意味で、江戸時代の武士と平民ほどの身分差は感じないであろう。

まだまだ一億総中流的なマインドが残っていて、根本的には平等だと思うからこそ、生活保護を受けることに対しても、「恥ずかしい」とか「情けない」というような気持ちになってしまうのではないだろうか。

不平等を真正面から受け止めた上で、負け組みになったとき生活保護を受けるのは当然の権利であり、また、勝ち組は負け組みを助けるのが当たり前だ、という文化を創っていく必要があるのではないだろうか。

勝ち組の人には良い意味で特権意識を持ってもらう一方、逆に、自分の置かれた環境の中で、一生懸命頑張った結果であれば、堂々と生活保護を受ければ良いと思う。

そして、勝ち組の人たちも、それを当然のことと認めるべきである。自分が勝ち組になったのは、負け組みの人がいるからこそなので、お互い様という考え方である。

■生活保護に対する補足意見
だが、以下2つの意見を補足しておきたい。

1つ目の意見は、生活保護は、できる限り現物給付で与えるようにするということだ。これならば憲法が宣言している生存権を守りつつ、モラルハザードをある程度は防ぐことができる。

現物給付ということは、ギャンブルなどに流用することもできないのはもちろんのこと、自分が選択権を行使する余地がないのだから、自由がほしければ、生活保護から抜け出せるよう再チャレンジするためのインセンティブにもなる。

2つ目の意見は、「働けない人を無理に働かせる必要はない」ということである。

働くことが難しい人に対して「生活保護はケシカラン」ということで、無理に就職をさせても、就職先の経営者や同僚の社員が迷惑を被ってしまう。また、本人が無理をしてメンタルを病んでしまってはそれこそ一大事であろう。

■生活保護が日本を活性化させる!?
だが、私が生活保護の心理的ハードルが下がることに一番期待している効果は、日本人が積極的なマインドを取り戻すことである。

失敗しても救いがあることがわかれば、夢を持つ若者は積極的に起業にチャレンジできるし、長生きのリスクに供えて何千万円も貯めなければならない恐怖からも開放されれば、近年国内で売れなくなっている自動車なども、大きく需要が復活するなど消費も活性化するのではないだろうか。

《参考記事》
■東名阪高速バス事故、11日連続勤務は合法という驚き 榊 裕葵
http://sharescafe.net/45556859-20150715.html
■職人の世界に労働基準法は適用されるか?
http://sharescafe.net/41988647-20141120.html
■経験者だから語れる。パワハラで自殺しないために知っておきたい2つのこと。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/42167544-20141201.html
■すき家のワンオペを批判するなら、牛丼にも深夜料金を払うべきだ。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41373749-20141016.html
■日テレ内定取り消しの笹崎さんに必要なのは「指原力」だ 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41885958-20141114.html

あおいヒューマンリソースコンサルティング代表
特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵

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