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■終わりの見えない東芝の不正会計問題
東芝の不正会計事件だが、展開が2002年のエンロンの不正会計事件のようだ。エンロン事件では、監査をおこなったアーサーアンダーセンは、その後粉飾隠蔽で解体に追い込まれた。今回の件でも、東芝の当時の決算監査をおこなった新日本監査法人の責任追及は免れることはできないだろう。予想通り、金融庁が業務改善命令の処分を下すことになった。

「東芝担当の新日本監査法人、処分へ…金融庁」(読売新聞)

また今後、東芝本体に対して海外機関投資家から集団訴訟を受けることも覚悟しなければいけないだろう。まだまだこの事件は先が見えない。

■アメリカ型不正と日本型不正の特徴
アメリカの不正のケースの大半は、個人の貪欲のために実行するポテトチップ不正理論が多い。この名前は、ポテトチップスを食べるような軽い気持ちで、不正行為に手を染めてしまったらいつの間にか病みつきになってしまう人間の習性から付けられたようだ。
一方、日本の不正の場合、企業風土型が多いらしい。言い換えると、パワハラ等従業員が上司に逆らえない環境の下、経営の方向性が経営者の姿勢(Tone at the top)で決定されてしまうというものだ。東芝のケースはまさにこれに当てはまる。

ちなみに、欧米では”パワハラ”という言葉は存在しない。欧米人は上司に逆らうことができるからだ。

■日本版SOX法は、抑止力があったのだろうか?
実は、日本には経営者の姿勢(Tone at the top)からの従業員の粉飾会計抑止のための法律がある。2006年に成立した日本版SOX法(J-SOX)だ。これは、エンロンやワールドコム破綻後に成立したSOX法(Sarbanes-Oxley Actもしくは企業改革法)を日本での企業文化や業務に合わせて作られたものである。

その目的は、投資家保護のためで、経営者が「“内部統制”を実行し正確に財務情報開示をしたと報告する」ことなのだが、このJ-SOX自体が粉飾会計防止に効果があったかどうかが疑わしい。
というのも、今回の東芝をはじめ北越紀州製紙やLIXILなど、内部統制報告で「自社の内部統制に問題はない」としておきながら不祥事をおこしても、いとも簡単に訂正ができてしまっているからだ。J-SOX自体の存在意義に疑問を持たざるを得ないし、このような形骸化された法律では、今後も投資家からの信用を得ることは難しいのではないだろうか。

■SOX法とJ-SOX法の大きな違い
SOX法は、投資家保護のために経営者に正確な財務情報開示をさせることを目的にしており、もし不正会計などの企業不祥事が発生した場合には、会社を代表する経営者が禁固刑などの厳罰を受けることを定めたものだった。

以下にSOXの特徴を示す。(その他細かいものもあるとは思うがここでは割愛する)

① 監査法人への監視を強化するために独立の監視機関を設置する。監査法人に同一顧客への非監査業務の提供を禁止する (SOX Act –Sec 201-209)
② 経営者は財務諸表が正確であると宣誓し(Act 302)自ら、財務諸表に関わる内部統制をおこなうと同時にその運用をおこなう(Act 404)
③ 経営陣による、粉飾決算には、最長20年の禁固刑(SOX前は最長5年の禁固刑)と民事制裁金500万ドルを課し、インサイダー等の証券詐欺は25年とした(SOX前は最長5年の禁固刑)。(Sec 807)
④ Section 21C(c)(3) of the Exchange Act として、「投資家への不正収益を返還させるために、45日の暫定的な資産凍結を可能にする」と追加される。(Sec 1103)

参照 https://www.sec.gov/about/laws/soa2002.pdf


一方、J-SOX自体個別に存在するものではなく、「金融商品取引法における内部統制報告制度」をJ-SOXと呼んでいる。これは「内部統制報告書を正確に作成し、監査を受けて提出する」制度で、前述したSOXの②を包括したものと考えてもらえればよいだろう。また、SOXをベースに作られたものなので類似点は多い。しかし、③の罰則という点でSOXとJ-SOXは大きな差がある。以下はJ-SOXの罰則規定だ。

現行J-SOX法---企業の経営者が作成する「内部統制報告書」を偽った場合は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、もしくは両方の罰則が科せられる。
(http://www.fsa.go.jp/common/diet/164/02/youkou.pdf)


罰則という点では、両国の企業経営者の責任の重さにかなりの隔たりがある。個人的な印象だが、日本のそれが驚くほど軽いと感じてしまう。また、J-SOXの場合、内部統制報告書に虚偽の記載があった場合にのみ違反とされてしまうため、経営者が罰則を意識せず無責任な命令を下すことができてしまうのではないだろうか。日本の不正会計が企業風土によるものであれば、尚更この点を見直す必要があると思われる。

■今後の対策
ACFE(公認不正検査士協会)の2014年度の報告書によると、不正が発覚するのは、内部通報が42.2%とダントツに高い数字だ。(内部監査14.1%(3位), 外部監査3.0%(7位))
これは監査等単体による不正会計発見の限界を示唆している。つまり、不正会計抑止のためには、自発的に企業内風土が正しい方向性に向く仕組みが必要なのだ。 

結論としては、J-SOXでの刑罰は、アメリカ並みにもう少し厳しくするべきと考える。実際アメリカでは、SOXで厳罰が決められて以来不正会計に対して高い意識(警戒心)を持つ経営者が多くなったようだ。(実際SOX成立後に、エンロンサイズの粉飾会計事件は起きていない。)
それに、刑罰を厳しくしても、”経営判断の原則”に則り、免責などの軽減措置を用意すれば経営者自体も萎縮することのない経営ができるだろう。これにより、少なくとも日本型粉飾会計がおこることも軽減するのではないかと考える。

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JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師

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