少子高齢化による人口減少、空き家問題・・賃貸アパートの空き室率は、全国賃貸住宅経営協会が公表する平成26年度の民間賃貸住宅の空き室率によると、全国平均で22.7%、特に山梨県では34.2%で、3室に1室が空き室という状況です。 ■なぜか増える賃貸住宅の新築物件 賃貸アパートの入居者も減少し、今や借り手が優位に立っていますが、なぜかこのところ、賃貸アパートを新たに建てる不動産オーナーが増えています。 国土交通省の公表するデータ「新設住宅着工戸数」によると、賃貸住宅の新築着工数は、2006年にピークなった後、減少しましたが、このところ回復してきています。賃貸住宅は2012年から徐々に増え始め、昨年度も362,191件と前年比1.7%上回っています。 人口減少しているから建設しても入居者がいない、だから新築物件は減少、であれば誰でも理解できますが、実際には、新築物件は増えているのです。これは税金対策としてアパートを建てる人がたくさんいることが理由です。 ■アパートを建てれば相続対策になる? 今年27年から相続税法が改正され、税金のかからない基礎控除の部分が大幅に縮小されました。この増税をきっかけに相続の時に払う税金が安くならないかと対策を考える人が増加しています。 アパートを建てるメリットはズバリ相続税の評価をグンと減らせることです。アパートの価格は、市町村で決定する固定資産税評価額から借家権割合(一部の地域を除いて30%)を減額した金額になります。例えば、評価額が3000万円のアパートでしたら2100万円の価値ということになるので、不動産価値を900万円減らすことができます。また、アパートを建てる資金を金融機関から借り入れると、相続の時に借金も引き継ぐことができます。 「アパートを建設すれば相続税対策ができる」と建設を勧める業者が増え、アパートを建築するといった人が増加していったのです。 ■消費税8パーセントの駆け込み需要がアパート建築のきっかけに 昨年4月から消費税の税率が8%に上がりました。通常、平成26年4月1日以後に引き渡しを行った物件については消費税が8%かかってきますが、消費税率が上がる前段階の一時的な対策としてその前の年(平成25年)の9月30日までに請負契約を書面でかわしていれば、4月を過ぎて完成したとしても「消費税は5%の支払いでよい」ということになっていました。 相続税対策も税金が上がるからいずれは考えなくてはいけない状況下で、消費税が上がると建築費用が高くなってしまう。アパートを建てるなら今がチャンスと、9月30日までに駆け込みで建築会社と契約を交わした方が多かった時期です。 仮にアパートの建築費が5000万円とした場合、消費税が5%だと、250万円、8%で400万円です。確かに150万円の出費の差は大きいため、アパート建築を急いで決断するきっかけになりえる金額です。 ■アパート建築がさらなる空き家問題を増加させる しかし、空き室が多いのにアパートを次々と建築すれば、更に空き室は増えます。 このような供給過剰のアンバランスは、結局は空き室がいくら増えようとおかまいなしという相続税の税金対策や消費税の駆け込み需要を狙った政府の優遇税制が原因なのです。 本来、空き家が問題になっているなら、取り壊しの問題とともに将来近いうちに空き家になるアパートの増築をできるだけ減少させるべきです。消費税増税前の特別な措置は、建築業界の景気の冷え込みを考慮しての政策なのかもしれませんが、建設業界は潤うのは一時的な話で、長い目で見ると、将来空き家がさらに増え、問題化するという要因を抱え込んでいます。 景気云々という話以前にもう賃貸住宅は過剰で作り過ぎなのです。空き家問題を加速させているのは政府の歪んだ税制の結果であって、空き家問題を解決しようとする一方で自ら空き家問題を生み出している状況なのです。 もちろん納税者側からも、税金対策のためといって借金というリスクを負い、税金対策どころか、土地建物を手放さなければならなくなる最悪のケースもあります。「家賃をすべて保障」や、建設業者がシュミレーションしたような都合のいい収入の状況を鵜呑みにしてはいけません。 ■空き家が増えないように税制も変わるべき 平成29年4月には消費税が10%になることが決定しています。その半年前には8%の増税時と同じく特別な措置が講じられて、消費税の駆け込み需要を加速させるような状況が作られています。景気を良くすることも確かに必要ですが、近い将来廃墟と化したアパートが増加するだけです。 空き家問題を解消するのであれば、新築アパートも将来の空き家問題の一部になることを考慮に入れなければなりません。政府もこのような政策を方向転換しなければならない時期に十分来ているのではないでしょうか。 【参考文献】 ■アニメソングは非課税、歌謡曲は課税?難しすぎる税の判断基準。(浅野千晴 税理士) http://sharescafe.net/46462250-20151003.html ■最も滞納税額が多い税金はこの税だった!(浅野千晴 税理士) http://sharescafe.net/46098542-20150830.html ■脱税天国ギリシャは自営業がお得、日本はサラリーマンがお得?(浅野千晴 税理士) http://sharescafe.net/45568041-20150716.html ■終活もいいけれど・・・残された家族のためにも是非してほしいこと (浅野千晴 税理士) http://sharescafe.net/44880501-20150524.html ■消費税 軽減税率の問題点 (浅野千晴 税理士) http://sharescafe.net/40635462-20140902.html 浅野千晴 税理士 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |