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生後16日の長女をごみ箱に閉じ込め窒息死させたとして、その両親が逮捕された。両親は長女を閉じ込めていた間、スマートフォンのゲームなどに興じていたという。大変痛ましい事件であり、生まれたばかりで亡くなった赤ちゃんには罪はない。ご冥福を心からお祈りするほかない。

■事件の概要とは
報道によれば、長女がごみ箱に閉じ込められていた時間は約1時間半。「子どもの声がうるさかった」などと供述しているという。23歳の父親と17歳の母親と年齢が若いこともあり、「子どもが子どもを産んだ結果だ」等と多くの批判がなされている。

両親が自らの子を死に至らしめた、という行為に関して、筆者は肯定するつもりは毛頭ない。ただし、本件を「若い両親の愚行」という一言で片づけてしまうのはいささか早計ではなかろうか、と考えている。

本件の家族の状態については報道のみでしか知る由もないが、祖父母や行政サービスによるサポート体制はどうだったのであろうか。一部報道では、妻が夫によるDVを警察に相談した際、本件が発覚したということから、何かしらの支援が必要な状態であったことが伺える。

さらに、両親は犯行後、子どもが息をしていないのに気付いて119番通報したといい、もしかすると本当に殺す気まではなかったのかもしれない。想像力の欠如という批判は免れるものではないが、純粋に一時でも育児から解放され、好きなことに没頭したいという意識だったのであろうか。


■育児ストレスの原因は未達成感にあるのでは
確かに、特に生後間もないころの育児は24時間体制である。産後で体調が不安定な母親は特に疲弊する時期だ。赤ちゃんも生後数か月は表情がなく、不快なことを鳴き声で知らせることしかできない。細やかなケアをしようとすればするほど、夜間の授乳等に追われ、十分な睡眠をとることすら難しくなる。

もっとも、経験則とはなるが、育児の最もつらいのは疲労感ではなく、「未達成感」にあるのではなかろうか、というのが実感だ。たとえば、赤ちゃんが泣きやまなければ、特に育児が初めての親は、抱っこしたまま離れることもできず、日常の家事もままならない。流しに置きっぱなしの汚れた食器や洗濯機にいれっぱなしの洋服、メイクもできない疲労の色濃い顔に、伸びっぱなしの髪・・・。今まで意識しなくとも回っていたすべての物事が業務停止状態になるあのつらさは、それまで自由を享受していた親たちの心を、容易に蝕み得るものであろう。

確かに、「ゲームがしたい」という理由で子どもをゴミ箱に投げ入れるという行為は、断じて許されるものではない。ただ仮に、若くして子どもを授かり、必要なサポートを何らかの原因で受けることができていなかったとしたら。今まで若さの勢いで自由な生活をしていた若者が、突然24時間体制での育児に直面し、社会から孤立していたとしたら。子どもをとにかく目の届かないところに追いやってしまいたい、というある種の衝動にかられてしまうことは、やむを得ないような気もするのだ(念のため繰り返すが、筆者は今回の行為は決して肯定はしない)。

■未達成感を抱えながら働いていくためには
また、育児における「未達成感」は、子どもが成長してからも続く。子どもをどうにか保育園に預け働いている両親も、子どもが熱を出したら、都合をつけてすぐに駆けつけなくてはならない。お迎えの時間があるから、終わらなかったら残業すればいいや、といった無制限な働き方もできない。やむを得ず書類を自宅に持ち帰れば、子供がクレヨンでグジャグジャにしてしまう(ただし無邪気な子供の顔を見れば怒る気にもなれない)。これは共働き世帯やイクメンがスタンダード化している現在、男女を問わない現状であろう。

そんな中、職場において「あの人はすぐ帰るから」「仕事に穴をあける人材には重大な仕事は任せられない」といった体で彼ら彼女らを扱うとどうなるか。効率性を重視している人ほど、モチベーションは激減するに違いない。

子育て世代のビジネスパーソンは、大なり小なり未達成感を感じながら日々の仕事と格闘している。今後の人事管理や人材育成政策は、そんな感情を慮りながら実施していく必要があるのではないか。無制限な働き方に同調できない人材は無用という姿勢を取り続けることは、会社にとっても社員にとっても不幸な結果を生むだろう。

職場にいる時間(量)ではなく、仕事の中身(質)で評価する、会議は勤務時間内に設定するなど、基本的な施策を実施するだけでも、未達成感を抱える子育て世代社員のモチベーションは保ち得る。一方で、子育て世代社員側も、業務の効率化を推進しつつ、成果を上げていくことが望まれよう。とはいいながらも、子育て世代社員も支援が必要なときは声を上げ、助けてもらうことをためらうことはない。家庭でも会社でも、ストレスを過度にためずに、自身が健康で過ごすことが最も肝要なのである。

【参考記事】
■元猿岩石芸人から学ぶべきスキルとは (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/46884848-20151113.html
■山本耕史流アプローチがストーカーとならない理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/46042230-20150825.html
■組織トップのメンタルケアが急務な理由。(後藤和也 産業カウンセラー・キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/45911315-20150813.html
■「話があるなら、聞くぞ。」と気軽に言ってはいけない理由~岩手中2いじめ自殺問題で考える~(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/45498694-20150710.html
■所沢市「第2子出産で保育園退園問題」に関する保護者バッシングが危険な理由(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/45313644-20150625.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント

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