各報道の通り、軽減税率について自公で合意があった。軽減税率の対象となる品目が日替わりメニューにように目まぐるしく変わったが、結局のところ酒類と外食を除く飲食料品全般となった。しかし、本当にこの軽減税率は導入されてしまうのだろうか。 ■忘れてはならない、そもそもの消費増税の理由 社会保障と税の一体改革法案が国会に提出され成立したのは、平成25年12月。この時は消費税の増収分すべてを社会保障に充てて世代間を問わずみんなが安心して暮らせるようにしようという内容だったと記憶している。言わずもがな少子高齢化により社会保障制度が崩壊しないように財政的にも仕組みとしても安定化させることは急務だった。 平成26年4月に8%になり予定通り増税となったが、子育て世代、年金世代は恩恵があり、そして現役世代もゆくゆくは恩恵を享受できると理解が深まったためか国民的な反対論にはならなかった。そう、10%への増税も社会保障制度の維持のためと思えばまだ理解ができた土壌はできつつあった。しかし、10%への増税時期は平成29年4月に延期され、軽減税率が導入されればいよいよ必要な財源が確保できなくなってしまう。 ■消費税の仕組みのおさらい 消費税は間接税である。納税する人は事業者であるが、負担しているのは消費者なのでそう呼ばれている。事業者は、消費者に販売するために材料や商品を他社より仕入れている。平成29年4月時は、どの事業者も10%で仕入れることになる。 ということは、事業者は食品を8%で販売するので、仕入れにかかった消費税10%のうち差額の2%は消費者から預かることはできない。従って、仕入れ時に多く払い過ぎた消費税は還付を受けることになる。仮に90円で食材を仕入れ、食品として100円で販売したとしよう。 ・90円の仕入れにかかる消費税は9円。 ・100円の販売時に預かる消費税は8円。 事業者は、8円-9円=▲1円となるため、国からこの1円の還付を受ける。 ■軽減税率は誰のため? 果たして、今回の軽減税率はいったい誰のために行われるのであろうか?低所得者対策のために軽減税率は不可欠という理由がまかり通っている。実際に年間100万円(税抜)の食費を使っているとして、そのうち、外食が50万円(税抜)とすれば、残りの50万円(税抜)の食材・加工食品については、1万円分の消費税が手元に残ることがわかる。 50万円×(10%-8%)=1万円 しかし、この1万円が積もり積もって、そして国民全体で手元に残ることなると国に入る税収は、毎年1兆円少なくなるという。社会保障制度の安定化を図ることができずにどこかにしわ寄せがくるのは目に見えている。 目先の1万円に安堵して、子育て支援の勢いがなくなり、また、将来の年金が減額されることになっては本末転倒である。それだけではなく、小売業者の事務が大変になり、システムを入れられずに対応できない商店はもしかしたら廃業となるかもしれない。そして、1兆円の財源の補てんのためどこかで使う予定だったお金が補てんに回され、必要としていたところでお金が使えなくなってしまうかもしれない。 不足分の財源についてはこれから探すと言われているが、そもそも1兆円の穴埋めができるのであれば、10%への引き上げなんて必要ないのではないかと疑ってしまう。私が危惧するのはこの穴埋めのために、さらなる消費税率のアップが必要になってしまうのではないかということだ。国際社会からも日本の消費税を15%にというありがたくない意見がでているくらいなので、そう遠くない将来に増税論が浮上してもおかしくない。今回の軽減税率は、実は諸刃の剣である。 ■軽減税率なんて必要ない 今回の軽減税率の導入は、どうも実際問題、目先の利益確保という短期的な視野では良さそうだが、長期的に見れば問題ばかりのように見える。自公の中の集団的自衛権のお礼に導入するという政治の道具になっては絶対にいけないと思う。政治で税金を決めるのであれば、国の設計、国民の将来を見据えた俯瞰的な視野を持って決めてもらいたい。 【参考記事】 ■場外ホームランを打つよりこつこつ送りバントが本流!? 年末までにやりたい節税対策 (藤尾智之 税理士) http://sharescafe.net/47003543-20151125.html ■1分でわかる脱税、節税、租税回避の違い 藤尾智之 http://sharescafe.net/33617980-20131004.html ■国外財産5,000万円超の資産家は要注意!税務署の関心はあなたです 藤尾智之 http://sharescafe.net/33988789-20131015.html ■225円のために軽減税率なんていらない。~3400億円はひとり親支援に使え~(中嶋よしふみ SCOL編集長・FP) http://sharescafe.net/46861415-20151110.html ■アニメソングは非課税、歌謡曲は課税?難しすぎる課税の判断基準。(浅野千晴 税理士) http://sharescafe.net/46462250-20151003.html 藤尾智之 税理士 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |