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軽減税率を導入するための財源として、子育て給付金の廃止が決まりそうです。

子育て世帯の負担軽減策として支給している「子育て世帯臨時特例給付金」(子育て給付金、2015年度は子ども1人当たり3千円)について、政府・与党は、16年度から廃止する方針を固めた。公明党が継続を求めていたが、軽減税率をめぐって公明党に譲歩したことなどを理由に自民党が取り合わなかった。 2015年12月16日 朝日新聞デジタル


とされており、軽減税率を実行するために子育て世帯の負担軽減策が無くなるといった趣旨の報道がなされています。負担軽減策が無くなるという事は実質的には負担増となる訳で、子育て世帯については、軽減税率を導入するために負担を強いられるといった格好になりそうです。

とはいえ、世代間での負担の議論はともかくとしても、軽減税率が実施されれば子育て世代にとっても負担軽減につながるのではないかと考えることもできます。

■肝心の軽減税率の負担軽減効果は

さて子育て世代の負担がどれぐらい減るのかを考えるためには軽減税率の負担軽減効果と、廃止される子育て給付金の額を比較する必要があります。

そして、軽減税率の効果ですが、これはある程度正確に見積もることができます。国が出している統計を用いて

平均的な世帯(世帯人数2.41人)の消費支出は月額25万1千円であり、そのうち、食料品に60,272円支出される。(単身世帯は月の消費支出16万2千円、食料品に38,539円支出)

「家計調査報告 平成26年平均速報結果の概況」(総務省統計局) をもとに筆者作成


といった形で軽減税率の対象となる食料品関係の支出が把握できます。

この世帯平均の食料品へ対する支出額に対して税率の軽減分の2%をかければ月いくら負担額が軽減されるのかがわかります。

この場合、大体60,000円の2%ですからひと月あたり1,200円程度が軽減されます。

■子育て世代の手取りはどうなる

これに対して、軽減税率のバーターとして廃止になる子育て給付金は、子ども一人当たり月3,000円です。

このように軽減税率の効果に多少の誤差があったとしても、子育て世代は負担増になるといった計算になるのです。『軽減税率』という美名の下、子育て世代の負担は実質的に増えるというのが今回の大きな流れなのですね。

■一方高齢者へは

一方、低所得の高齢者には3万円を給付するといった案が浮上しています。報道では

お年寄りら1250万人に来年1人3万円を配る政府の「臨時給付金」案について、自民党の厚生労働部会などは17日午前に開いた合同会議で了承した。前日の会議では「高齢者優遇」といった批判が相次ぎ、給付金を含む今年度補正予算案の了承を保留していた。2015年12月16日 朝日新聞デジタル


とされており、この案通りに政策が実施された場合、高齢世帯に3万円が配付されるのです。(比較を容易にするため月額に直すと2,500円です。)

国の都合では色々な制度がありますが、生活者にとっての財布は同じですので、世代や置かれた経済状況によってかなり受け取る人と取られる人の差が広がりそうですね。

■事業者はコスト増

さて、このような一連の流れですが、軽減税率を実現するためには大きなコストが発生します。

まず、軽減税率を実際に運用するためにはレジのシステムを改修しないといけません。旧型のレジを使っているような中小零細の小売業などはレジの入れ替えも必要になるでしょうし、帳簿への記録の手間も増えると考えられます。

さらに、最近ではあまり報道されなくなってきていますが、将来的にはインボイスの導入も必須であると言われています。自民公明両党では2021年4月にインボイス方式を導入すると方針を固めています。

このように軽減税率を導入するためには大きなコストがかかりますが、そのコストは事業者が肩代わりすることとなります。

筆者は「税務署の代わりに消費税を集めて納税しているんだから、国もちょっとは感謝してもらいたいもんだよ」といった社長さんのボヤキをきいたことがありますが、今回のような軽減税率に伴うコストが沢山発生したとしても、国は「消費税は納税者から預かっているお金ですから」といった正論を言うだけでしょう。

■事業者の子育て世代は

このように、大きなコストをかけて導入する軽減税率ですが、子育て世代については、今までもらえていた給付金が廃止されるので狙い撃ちのように負担増が大きくなります。

その他の世代についてはもともと給付金などは無いため、そこまで大きな負担増にはならず、低所得の高齢者世帯については負担感の増大がかなり抑えられています。

という事は、事業を営んでいて、子育てをしているような若手世代はダブルパンチになるというわけです。

もちろん、高齢者の負担感を和らげる事も大切だとは思います。しかし、限りある財源をどのように使うかについてはもっと先を見越した使い方があると考えられます。

例えば、地方部では事業を営んでいる若い世代の人が、消防団に加入し地域の安全を守り、地域の文化を守るための行事を率先して行うなど、地域を支える貴重な働き手になっています。

そういった人たちに増税+子育て給付金の廃止+事務コストの増大などといった、社会のツケを一気に押し付けるような施策はあまり望ましくないと感じるのですがどうでしょうか?

せめて、このように負担増が一気に押し寄せるような人たちについては負担感を軽減できるような施策を考えていく必要があると考えられますし、そのようなことを考えるのが私たちの代表者である政治に携わる人たちの仕事なのではないのでしょうか。

【参考記事】
■軽減税率で一番損なのは誰か、分かりやすく解説してみました。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/47171441-20151211.html
消費税の軽減税率という小規模事業者に負担を強いる案の代案として給付金方式が提案されました
http://keieimanga.net/archives/8957376.html
■合理的でない消費税の還付制度をするくらいなら、還付額を増やした方がよい(岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/46198325-20150908.html
■耳触りの良い『軽減税率』導入に伴うコストはだれが負担するのですか?(岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/39890391-20140717.html
■お店を経営している人も生活者ですよね?消費税をめぐる報道を考える 岡崎よしひろ
http://sharescafe.net/38555851-20140430.html

中小企業診断士 岡崎よしひろ

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