資格

年末年始に寝そべりながらテレビを見ていると、ユーキャンのCMがやたらと目につくことに気が付いた。社会人対象の「資格取得」講座受講を勧めるCMだ。

■1年の計は元旦にあり?!
聞くところによると、新年や新年度は新たに勉強を始めようという人が多いという。確かに、自身を振り返ってみても、「ジョギングを始める」「間食は控える」等の目標の多くを元旦の朝日に誓ったものだ。資格取得のCMが新年に数多く打たれるのも、うなずける話なのだ。

もっとも、三日坊主とはよくいったもので、新年の誓いも日々の雑務に追われ、年末に振り返れば結局手つかずで終わってしまった、ということも多い。手が付けられなかった資格取得のためのテキストを、年末の大掃除で処分してしまったという経験をお持ちの方もいるのではないだろうか。ビジネスパーソンが本業以外のことにエネルギーを注ぐということは、案外難しいものなのである。

しかしながら、「芸は身を助ける」とはよく言ったもの。苦労した得た資格に助けられたり、資格が新たな仕事を運んできてくれるということはままあることだ。転職が珍しくなくなったいる昨今、転職市場における自身の価値を資格取得によって高めたいという人も多くいるだろう。また、老若男女を問わず「学びたい」という意欲は、根源的な欲求であるとも思われる。

手前味噌であるが、筆者は社会人となって以降、多くの資格を取得してきた。国家資格と民間資格併せてざっと8つほどである。取得難易度が高いとされるもの、そうでもないものなどさまざまであるが、日々絶え間なく発生する仕事や24時間休みなしの子育て等の合間を塗りつつ、モチベーションを保ちながら資格を取得できた裏には、徒手空拳では実現することのできない、確固たる戦略があったのである。「今年こそ何か資格を」とお考えのあなたのために、以下にご紹介したいと思う。ご参考になれば幸いである。

■資格取得のための戦略とは
結論から言えば、取得する資格は現職の延長線上におくべし、ということだ。現職は、現在最も意義があると感じていること等に置き換えていただいても構わない。たとえば「企業の人事労務担当者が自身のブラッシュアップのために社会保険労務士を目指す」「不動産業界に勤務する会社員が、宅建(宅地建物取引士)を取得する」などである。

筆者は、仕事柄メンタルヘルス不調となってしまった社員の姿を多く目の当たりにしてきた。自身が職場ストレスを感じた経験もあったことから、産業カウンセラーの資格取得を目指したのである。その過程で社員のキャリア開発・キャリア教育の重要性を認識し、CDA(キャリアコンサルタント)及び国家資格である2級キャリアコンサルティング技能士を併せて取得した。この過程において、出向先の役所では、公務員対象の心の健康に関する研修業務の企画並びに研修講師を命ぜられ、毎月のように数百名の受講生の前で登壇するという大変貴重な経験をすることができた。

人間は弱いもので、自身の生活と関連性が薄いものを攻略していくことは難しいものだ。「本業は銀行員で、大道芸人としてのパフォーマンスを披露することをライフワークとし、夜は医学部入学のための勉強にいそしんでいる」などということができる人は、ほんの一握りなのだ。我々一般人には、全力を注げる物事は1つか2つ、多くて3つが限界だというのが実感だ。「2足の草鞋」という言葉はまさに言い得て妙なのである。

日々忙しいビジネスパーソンとしては、1日8時間以上費やしている本業と何かしらの関連付けができる資格を目指すと、本業と自己啓発が車の両輪のように良い循環を生み出すことだろう。前例のように、本業と関連性が深い資格を取得できれば、会社でも重宝がられ、人事評価も高まるということもあり得る話だ。いやらしい話になるが、そういったインセンティブがなければ、仕事をしているうえに勉強まで、という苦行を達成するのは困難なのである。

■資格取得後の具体のイメージが持てるか
その資格を活かして活躍する姿を具体に想像できる、というのもやる気を出す重要なポイントだ。例えばあなたが転職を前提に資格取得を目指すならば、事前に求人サイトで資格名を検索するなど、実際の求人状況の下調べは入念に行うことをお勧めする。

筆者がしばしば警鐘を鳴らしていることであるが、例えば心理カウンセラーの資格については現状玉石混合である。中には「就転職に絶対有利、独立開業も!」等とうたっているスクールもあるが、実際の求人で求められるのは臨床心理士か産業カウンセラーくらいであり、怪しげなカウンセラー資格が立ち入る隙は無い。特に「ニーズは多いが国家資格がない」分野においては怪しげな資格が幅を利かせているケースが多いため、事前の確認は必須であろう。併せて、業界における給与等の待遇や休暇等の条件など、現職者にインタビューできればより具体のイメージが持ちやすいだろう。

■レールが一つだけの人は、危うい
さらにいえば、目指すべき方向が「自分の好きなこと」「自分の得意だと思うこと」「自分が意義があると感じていること」のいずれかであれば最高である。いかに現職と関連付けられた資格であっても、そもそも人事労務の仕事が愛せない人は社労士の勉強の意欲がわかないだろうし、経理の仕事が嫌いな人は簿記の勉強がはかどることはないだろう。

自身の現職に意義が見いだせないということであれば、自身の一番の趣味等でも良い。例えばスノーボードが3度の飯より好きな人であれば、インストラクターの勉強を始めることは、趣味と実益を兼ねた活動になるに違いない。その過程で得たスキルや人脈が、後々のキャリアチェンジにつながるということは、よくある話である。

実際、会社の仕事だけに全力を注ぎ、「会社で生きるしか自分に残された道はないのだ」と自分自身に言い聞かせる日々は、危うい。そのような思考の人は、一つのレールしかないと信じ込んでいるがゆえに、柔軟な行動がとりがたい。結果として、なにかにつまづいた拍子に心が折れてしまうということにもなりかねない。

もし会社を首になっても○○で食べて行こう、と思えるスキルを身に着けることは、我々に精神的な健康をもたらしてくれる。結果として、肩の力が抜け、仕事上も良い結果が出せるものである。理不尽なハラスメントなどのとんでもない事態が生じたとしても、奴隷に様に耐え続ける必要がなくなるかもしれない。

当然だが、好きなことに関連付けたとしても、資格取得にはそれ相応の時間と労力、お金がかかる。いずれも我々一般人にとっては貴重なものばかりだ。それらを無駄にしないよう、精力的かつ戦略的に資格取得に向けて活動してみてはいかがだろうか。

【参考記事】
■「未達成感」が育児ストレスを増大させるのでは。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/47075444-20151202.html
■元猿岩石芸人から学ぶべきスキルとは (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/46884848-20151113.html
■「俺、メンタル的にヤバいかも・・・」と思ったら。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/46714386-20151027.html
■山本耕史流アプローチがストーカーとならない理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/46042230-20150825.html
■組織トップのメンタルケアが急務な理由。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/45911315-20150813.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント

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