組織・チーム2

本書は、構造構成主義の観点から書かれた初めてのチーム論である。(p10)

冒頭に記されたこの一文が、本書の趣旨を表しています。

著者は、東日本大震災時に日本最大級の支援プロジェクト「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を立ち上げた西條剛央さん。「ふんばろう~」の立ち上げ、運営の経験についても触れながら、チーム運営のための「原理」について解説しています。

ビジネスの場において、チームで取り組む機会がある方にとっては、参考になる1冊です。


<目次>
序章 『進撃の巨人』の“巨人”とは何か
第1章 なぜ未曾有のチームができたのか
第2章 どんなチームを作るのか―「価値の原理」
第3章 ブレないチーム運営―「方法の原理」
第4章 機能するチームとは―「人間の原理」


■原理とは何か
原理という言葉は良い意味で使われるとは限りません。「○○原理主義」といえば、「○○に拘泥する人」を指します。融通が利かない奴、という意味で使われることが多いでしょう。
一方で「原理・原則は大事だ」とも言われます。では「原理」とはどういうものなのでしょうか。

経験則や経験(エビデンス)の積み上げにより構築された「個別理論」は例外があるため一般化することはできない。しかし、批判的吟味を通して"例外なくそのように言える"と確かめられた"原理"は、経験に基づく個別理論と異なり、いつでもどこでも普遍的に洞察できる"視点"として活用することが可能になる。(p63)

いつでもどこでも例外なく妥当する、普遍性を備えた考え方が「原理」だということです。やはり硬直的なものなのか、と受け取られるかもしれませんがそうではありません。あくまで考え方が普遍的だということで、そこに現れる行動などは柔軟なものになります。

たとえば、第2章で言及される「価値の原理」について。

チーム作りに役立つ原理が、”価値の原理"である。価値の原理とは、"すべての価値は目的や関心、欲望といったものに応じて(相関して)立ち現れる"というものだ。(p61)

また第3章の「方法の原理」については、

その際にもっとも機能したのが"方法の原理"だ。これは、方法の有効性は"状況"と"目的"によって変わるというものだ。(p29)

と述べています。つまり、どんな状況でも、どんな目的の下でも、変わらない価値や方法はない、という考え方を示しています。硬直した価値観、方法論は取らない、ということこそが普遍性をもった考え方だということです。

第4章の「人間の原理」にもこれは当てはまります。人間は一人ひとり違います。「こういう接し方が正しい」などという唯一解はあり得ません。

尊敬している人に褒められれば、凄くうれしいと思うし、励まされればがんばろうと思うし、お礼を言われればやってよかったと思うし、たしなめられれば反省する。しかし、軽蔑している人に褒められても嬉しくないだろうし、励まされても「おまえががんばれよ」と思うかもしれないし、叱られたら反発することもあるだろう。同じことを言っても、誰が言ったかによって意味は変わる。(p86)


■共有すべきは「答え」ではない
理念を共有すること、目的を明確にすること、状況をきちんと把握することなどが大切な理由が、本書を読めばわかります。それらを飛ばして、方法論やマネジメント論を語っても意味がない、と痛感することでしょう。

さらに、価値観は他人によって違います。状況は常に変化します。それに対処していくためにもっとも大切なことは、「答えを共有するのでなく『問い』を共有する」ことだと思いました。

人は「答え」を求めようとする。しかし、「正しい答え」がどこかに転がっていたり、本に書いてあったりすることはない。なぜなら、その人が置かれている状況によって「正解」は異なってくるからだ。求めるべきは「答え」ではない。適切な"問い"こそが、チーム(組織)をまっとうな方向に導くのだ。(p123)

問いは「問題意識」と言い換えてもいいと思います。この意識が共有できれば、各々が違う考えを持っていても議論が成り立ちます。逆に幅広い視点から議論が行われ、実りある結論を導ける可能性が高いでしょう。

しかし、問題意識を共有できないまま議論をすれば、議論は散漫になり、拡散してしまって、なにを議論しているのかすらわからなくなる可能性があります。それではチームは機能しません。

■原理とは深化させるもの
チーム・組織の運営に関わる人にとって、なにを大切にしなくてはいけないか、新しい視座を持つきっかけになり得ます。やり方に固執するのではない。問題を共通認識することが根本にあるのだと実感 できます。

原理とは、上手に考えるための視点だ、と西條さんは言われています。何か不都合があったとき「これは『方法の原理』からみるとどう理解できるだろう」と考え、「では、どんな解決方法があり得るだろう」と動いてみる。その繰り返しで、深化していくものなのです。


<<参考記事>>
■【読書】チームの力: 構造構成主義による”新”組織論/西條剛央
http://blog.livedoor.jp/nakahisashi/archives/1032753605.html
■引き受ける勇気~【書評】『町工場の娘~主婦から社長になった2代目の10年戦争』(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/43083984-20150127.html
■投資はお洒落で知的でかっこいい社会貢献だ!~新しい資金調達先としてのクラウドファンディングの可能性(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/40855841-20140916.html
■「反対するなら対案を出せ」は正論か? 中郡久雄
http://sharescafe.net/34779158-20131112.html
■「従業員満足」で企業業績は上がるのか?  中郡久雄
http://sharescafe.net/34307228-20131029.html

中小企業診断士 中郡久雄

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