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解散か、事務所からの独立か、と騒がれていたSMAPの去就は、1月18日放映のテレビ番組「SMAP×SMAP」に先立つ生出演で、とりあえずの決着をみたようです。

ところであの特別生出演のあとに続いた「ビストロスマップ」のコーナーはご覧になったでしょうか?いつも通り、ゲストの注文に答えて料理を作り、トークが進むなかで、ゲストからの質問に答えた草彅剛さんの言葉に私は驚いてしまいました。

「自分がイケテナイと思うときは?」という質問に対し、草彅さんは「バック転が以前のようにできなくなったこと。昔は7回ぐらい連続でできたのに今は1~2回がやっと」と答えたのです。

それはSMAPも、もう40代という立派な中年であることを再認識せざるをえない言葉でした。そしてもしかすると、今回の騒動の背景に、アラフォー世代である彼ら自身の「ミッドライフ・クライシス(あるいは「ミドルエイジ・クライシス=中年の危機)」があるのではないか?そんなふうに思えたのです。

■今までの人生に疑問を抱く「中年の危機」
「中年の危機」とは、40歳前後の働き盛りの時期に、「今までの生きかたでよかったのか?」「今が人生を変える最後のチャンスではないか?」といったように、これまでの人生に対する疑問が生まれることをいいます。

もともと心理学者ユングが、40歳前後を「人生の正午」と名付け、日が昇るようであった人生の前半期と、日が下っていく後半期との折り返し地点で、人は危機に陥ることを指摘したところから研究されてきました。

40歳前後は体力や気力の本格的な衰えを感じる始める年代であり、企業等の組織に属していれば、ある程度自分の行く末が見えてくる時期でもあります。一方で仕事でも家庭でも責任が増し、日々のストレスが高まる年代です。こうしたことがあいまって、これまで歩んできた人生に対し疑問が生じ、今後どう生きていくかを自問するようになるといわれます。

「中年の危機」は、国籍や性別、環境を問わず発生します。中には混乱のあまりか、周囲からは突飛に見える行動に走る人もいます。急に新しい趣味に没頭したり、転職の機会を探り始めたり…それはまるで、気力体力が十分である期間が残り少ないことを悟り、これまで捨ててきたこと、無視してきたことを取り返すかのようです。

■常識を打ち破ることを求められるSMAP
草彅剛さんが口にした「バック転ができなくなった」という言葉から、ビジュアルやダンスなどのかっこよさが売り物のアイドルが、体力の衰えを感じ、これまで通りではいられなくなった厳しさに直面していることが想起されました。SMAPは同年代に比べ驚くほど若々しい。彼らのたゆまぬ努力の賜物でしょう。しかしどんなに努力をしても体力や反射神経は確実に衰えます。それに気づくのはまず自分です。いつまでも若い頃のままではない現実に直面せざるを得ません。

自らの衰えと共に、今まで通りの「かっこよい」アイドルとして、ファンの期待に応え続けるのは難しくなります。今後もなんとかして従来通りのアイドル像を貫くのか、あるいは別の像を目指すのか、アラフォーを迎え、メンバーそれぞれの中に葛藤があったのではないでしょうか。

草彅さんのコメントで思い出したのが、3年前の「AERA」25周年記念号で掲載されたSMAPへのインタビューです。AERAと同じく、SMAPも25周年を迎えるということで組まれた特集のタイトルは『非常識を常識に変えるために、僕らには腹をくくる覚悟がある』。リーダーの中居正広さんが「芸能界に入った以上、何かを得るために失うものがあっても仕方ないと腹をくくっている」と語ったことを見出しにしたと思われます。

中居さんはこのインタビューで年齢についても語っていました。当時、中居さんは40歳。若くは見えるけれど、確実に「おじさん」であると自覚していること、恥はかきたくない歳だが成長のためには恥をかかなくてはならないこと…国民的アイドルのSMAPも、ここまでくるのに捨ててきたものは少なくなかったこと、そして自分の年齢のことを意識する年になったということが伝わってきて非常に印象的でした。

SMAPは結成して28年。20年以上にわたり、トップアイドルとして最前線を走り続けてきました。不遇だったデビュー当時や、メンバーの脱退や不祥事などで危機を迎えたことはあったものの、バラエティ番組での出演など、それまでのアイドルの常識を打破する活動を通じて、ここまでの地位を築いてきました。そんな逆境を乗り越えた姿も多くのファンを引き付ける要素であったといえます。

ただ所属事務所のサイトを見ても、SMAPの先輩で50歳を越えてユニットとして活動している方は、決して多くありません。だとすると、「中年以降のアイドルユニット」としての新たな姿を実現するのは、現所属事務所がよいのか、まったく別の環境がよいのか、彼らにとって考えどころであったのではないでしょうか。

「中年の危機」を乗り越える上での困難
「中年の危機」は、若い頃のように一生懸命努力を重ねて克服していくものではありません。ときには、これまでの自分の価値観や生き方を否定したり、お世話になった人や親しくしていた人とのつながりを断ち切ったりという決断をせざるを得ないこともあります。これまで獲得してきたものを捨てることも必要であり、そこに「中年の危機」を克服する難しさがあります。

一方で、これまでの人生で培ってきたものが、今後の自分を支えることも事実です。では何を捨て、何を残したらよいのでしょうか?

その答えを見つけるには、まず自分が心から「こうありたい」と思う将来ビジョンを見つけることが重要です。そのビジョンに向かって進むうちに、何が必要なのかが見えてきます。また「こうありたい」という強い気持ちが、先の見えない苦しさを乗り越える力にもなるのです。

「絶対に戻りたくない」と語るほどつらい40代を過ごしたのち、新しいキャリアを切り開いた人物に糸井重里氏がいます。もともとコピーライターとして活躍していた糸井氏は、50歳になった1998年にウェブメディア「ほぼ日刊イトイ新聞(略称「ほぼ日」)」を創刊。同サイトは月間平均110万読者を有し、売上高は約28億円に上るまでのメディアに成長しています(データーは2012年度 第12回ポーター賞受賞サイトより)。

糸井氏は、「ほぼ日」を立ち上げた動機を以下のように語っています。

「50歳で新しいことを始めた最大の理由は、40代で『なんで俺は他人が主語の人生を送ってるんだろう』って気づいたからなんです。だいたい30 代というのは、他人からの些細な要求に対して応えられる自分に満足を覚える年頃。40代ではそれが全部できるつもりでいたら、通用しないエリアがものすごく広いことに気づいて真っ暗になって『トンネル』に入るわけですが、どちらも主語が他人なんです。他人の要求に応えて『やらなきゃいけないこと』だけをやってたら、人生終わっちゃうなと気づいた」

40代でそれまで培った能力が「通用しないエリアが広い」ことに気づいたという糸井氏。しかしそれまでの経験は無駄ではなかったとも語っています。

「広告をやっていた時に身についた、考え方の順番といった基礎は応用ができる。つまり、自分が何かをやりたいと思った時に、最初に手助けしてくれるのは、やっぱり自分なんですよ」(糸井氏の発言は「AERA」2015年12月7日号より引用) 

ビジョンを見つけること自体、一朝一夕にできることではありません。時には立ち止まっているように感じることもあるでしょう。先が見えない苦しさもあるでしょう。しかしSMAPの真骨頂は、逆境にも負けずに真摯に仕事に取り組んできたところにあると思います。これから新しい人生の局面に直面する彼らに声援を送りつつ、どんな後半生を見せてくれるのか、キャリア・コンサルタントとして目が離せない思いです。

朝生容子 キャリア・コンサルタント・産業カウンセラー

【参考記事】
■40代から見つける自分らしい働き方(2)~エンジニアから「木こり」へ~http://sharescafe.net/45318382-20150627.html
■40代から見つける自分らしい働き方(1)前編~大手教育機関広報室長からスタートアップベンチャーへ
http://sharescafe.net/44250159-20150413.html
■40代から見つける自分らしい働き方(1)後編~転職先での成功の秘訣
http://sharescafe.net/44625300-20150508.html
■転職で忘れられがちな職務経歴書を書く視点
http://sharescafe.net/42183394-20141202.html
■育休ママがMBAを学ぶ上で注意すべきこと
http://sharescafe.net/45201771-20150617.html


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