bacff686e45f43bd35db0592575eb407_s
ふるさと納税をする人は、テレビや雑誌の特集などの宣伝効果もあってその利用者が急激に増え、総務省の調査では2012年から3万人ずつ増加し、2014年には約134,000人になりました。

■返礼品の魅力の多いふるさと納税
ふるさと納税の最大の魅力は何といっても「魅力的な返礼品を受け取ることができること」。
実際、テレビや雑誌をみると「お得」情報の一環として返礼品のことが取り上げられ、購入者はお肉や魚介類など、おいしい特産品を購入する手段の一つになっています。ふるさと納税のサイトを開くと本当にカタログ販売のサイトのようです。

また、昨年まではふるさと納税をした人は確定申告をしなければ税金面でもお得になりませんでしたが、今年から「ふるさと納税ワンストップ特例制度」という、確定申告しなくてもよいという制度が創設されました。この制度はそもそも確定申告が必要のないサラリーマンような人しか利用できませんが、この制度によって確定申告というハードルをなくし、ますますふるさと納税を利用しやすくしようとする狙いがあるのではないでしょうか。

■当初のふるさと納税とは
しかしふるさと納税は、そのような概念をもって誕生した税制ではありませんでした。もともと2007 年5 月の総務大臣による問題提起をその発端にあったのです。

「地方のふるさとで生まれ、教育を受け、育ち、進学や就職を機に都会に出て、そこで納税する。その結果、都会の地方団体は税収を得るが、彼らを育んだ「ふるさと」の地方団体には税収はない、そこで、今は都会に住んでいても、自分を育ててくれた「ふるさと」に、自分の意思でいくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか」

この段階では以前自分の実際住んだことのあるところに住民税の一部を分配する制度といった考え方でした。

しかし、初回の開催からわずか半年後の11月の第7回の研究会の議論のふるさとの定義は、「ふるさとを限定しない、貢献、応援したいと思うふるさとの「イメージ」は人によりさまざまであるので、限定せずに納税者の意思に任せるべき」に変化しているのです。このことから「本来の自分のふるさとに納税する」から発展して「どこでも応援してもいい」という、広い解釈になっていきました。

■心のふるさとって一体何だろう?
地方の応援サイトをみていると「心のふるさと」をキャッチフレーズにしている団体が多く見受けられます。「心のふるさと」であれば、住んだこともなく、行ったことがない場所でもいいわけですが、本当にそこに深い思い入れがあるかどうかという点では疑わしいところです。

「魅力的な返礼品」をしてくれる市町村が心のふるさとになるのでしょうか。結局のところふるさとには何の概念も根拠もなく、どこであろうと地方活性化の一端になってくれればそれが「ふるさと」になっているのが現実になっています。

ともあれ政府が推奨している「認められた」制度であるので、自分の収入に応じて賢く利用することは非難されるべきことでなく、むしろ推奨するべきなのかもしれません。こういったふるさとの考え方をコロコロと変えて「どうせ納税をするのだったら返礼品をもらって納税するほうが得」といった風潮を作り出している政府の責任でもあります。

■明確な使われ方によって地域の活性化を
しかし、寄付を募るのならその使われ方をもっと明確にする必要があります。自治体の特産品のアピールで終わるだけでなく、その地に住む住民にも還元して町全体が潤っていかなければ地域の活性化につながりません。勢いにのったこのふるさと納税をブームのような一過性の出来事として終わらせるのはあまりにもったいない話です。

北海道の上士幌町では2015年度の寄付額が町民税収の5倍以上の14億円を超え、その恩恵を町民に還元する政策を打ち出しています。具体的には認定こども園(定員120人)の利用料を4月から10年間完全無料化することになりました。‘

この上士幌町の特産品は「十勝ナイタイ牛」という牛肉で、全国からのふるさと納税であつめられた寄付を少子化のために寄付で集めたお金を地域に還元することにしています。

ふるさと納税を寄付と考えるには多くの課題がありそうですが、寄付が根付き、応援が目に見える形で地方自治や地域の人々が潤うような使われ方になれば懐疑的なふるさと納税も一歩前進しより良い形に進化を遂げている結果になっているといえるでしょう。また、おいしいものを提供してくれる自治体を応援するから寄付の使途が動物殺傷処分ゼロや歴史的建造物の補修など、目的が最初から定められている寄付の形態も増加しつつあります。

今後、ふるさと納税はどう進化していくのでしょうか。

【参考文献】

■配偶者控除は本当に女性の社会進出を阻んでいるのか?(浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/47252222-20151218.html
■相続税や消費税対策が将来の空き家問題を加速させる (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/47043297-20151128.html
■アニメソングは非課税、歌謡曲は課税?難しすぎる税の判断基準。(浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/46462250-20151003.html
■最も滞納税額が多い税金はこの税だった!(浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/46098542-20150830.html
■政治家任せはもうやめよう!-Where does my money go?(税金はどこへ行った?)に期待すること。
http://sharescafe.net/41465708-20141021.html

浅野千晴 税理士

この執筆者の記事一覧

このエントリーをはてなブックマークに追加
シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ
シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。
シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。