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■投資の「はじめの一歩」を踏み出す時
――資産運用は、大ざっぱに行えばいい。
こう言うと、個人の投資家は戸惑うでしょうか。特に、株価が乱高下している時にはなおさらかもしれません。しかし、市場が激しく動いている時こそ大ざっぱな投資法でいいという根拠を、投資の初心者向けに書いてみたいと思います。

これから投資を始めようとする人は、だいたい何に投資していいかわからない。だから、金融機関などの言葉にすがるのでしょう。投資セミナーの講師の言葉や個別ブースでの説明、それが「洒落て高尚」に見えるだけに、なぜか高級ブランドショップで初めて買い物するような気分に舞い上がってしまいかねません。

投資の「はじめの一歩」を踏み出す時、パンフレットに記載されたポートフォリオの資産配分の色彩豊かなグラフとともにリターン(収益率)が上昇するチャートを見せられているうち、ホテル・コンシェルジュのような雰囲気の対応に、勧められるまま金融商品を購入することになります。

最近は、ファンドラップが人気です。あなたのライフスタイルに合った「あなた用」の投資スタイルを100以上の中から選び出し、あなたのためのポートフォリオを提供してくれます。あとはお任せしていればご安心、とばかりに・・・。しかしながら、このファンドラップの「売り」とされるポイントについて1つ指摘しておきます。それは、個人の資産運用レベルでどこまで本人にマッチしたポートフォリオが必要かということです。あるいは、そんなポートフォリオがあるのか、と。

■資産配分の変更はどこまで必要?
「いつでもあなたに合った資産配分が維持され、当初の目標が達成されるようになっています」

仮にこのように勧められたら、ちょっとおかしいと思ったほうがいいでしょう。これは、常にリバランスがされているということなのです。

ここで「リバランス」について簡単に説明しておきます。資産が日本株式と外国株式の2資産のみとし、資産構成割合を等分とします。この資産配分のバランスが崩れた時は、元に戻されなければなりません。そうしないと当初の期待リターンが実現しないからです。

仮に日本株式が値を上げて、外国株式が下げたら、元のバランスに戻すために日本株式のいくらかを売却し(利益の確定売り)、外国株式のいくらかを買い足すわけです。これで、当初の「最適配分」に戻るわけです。運用機関では、コンピュータで常時このバランスをモニタリングし、調整できます。そもそも、このリバランスはポートフォリオを計画通りに維持する目的からきています。でも、なぜこうしなければならないのかという根本的な疑問が残ります。

「日本株が上昇しているなら売却する必要はないし、外国株は伸びていないのだからあえて今買う必要があるのか?」

そういう疑問が湧くのが自然です。確かに市場の動きによって構成割合の見直しがあるでしょうし、基本ポートフォリオから多少の乖離幅は許容されているのが普通です。とはいえ、資産全体が伸びているなら、ポートフォリオが当初のままである必要はなく、良い方に崩れてもいいのではないか、と投資の初心者は思うわけです。

■「市場のせい」で納得してしまう投資者心理
GPIF(年金積立金運用管理独立行政法人)のように巨額の年金資産や、運用会社の運用資産では、当初定めた資産配分をそう簡単に変更できません。目標リターンを実現するためにリスク(標準偏差)をどこまで取るか、それによって、国内外の株式や債券の資産構成割合が決まります。許容される乖離幅を超えて当初の資産配分のバランスが崩れれば、それを調整(リバランス)することは必須となります。

逆に、小回りの利く個人の投資家相手だからこそ、ポートフォリオにとらわれる必要はないのでは、と思えます。巨額資産の1%の誤差は莫大な金額ですが、個人の投資資産では仮に1,000万円の1%は10万円です。これとてもファンドラップの手数料率に及ばないのです。つまり、1%かそこらの資産の組み合わせの誤差(10万円でもたいした額ですが)を守るために、運用の専門家に任せるかという問題です。

「現在のポートフォリオ理論で運用すればこうなります。そうならない事態が起きた場合は、市場がそのようにならなかったからです」
プロの、これが妙に1%分の説得力を持たせる言葉となるわけです。

■投資の大地震はいつでも、また来る
そもそもポートフォリオにおける数字は、何を基準として、どこから来たのか? 実際に、データも計算方法も正確かつ緻密なのでしょう。しかし、それらの数字はすべて過去のものであり、しかも平均にならされたものであることを忘れてはいけません。そして、期待されるリターンと予測されるリスクは通常、正規分布から導かれています。これは、平均値からどれだけブレるかという分析データを使った資産配分のアプローチです。

もちろん運用担当者にとって、このアプローチでは予測が正確であるとは限らないことなど承知済みで、市場が良い場合と悪い場合のブレも表示して、「運用の結果はデータ通りにならないリスクがあります」という断り(記載義務)をちゃんと入れています。

実際の市場では、リーマン・ショックのように「100年に一度」の暴落が起きているし、短時間での取引中では、「100年に一度」の乱高下の波が頻繁に起きていると言われています。最近では、経済は物理学と同じような変動が起こりうるとし、何十年先も越えられないと言われてきた高さの堤防が大津波で超えられてしまうような現象が、金融のミクロの時間内でも測定されているそうです。

であれば、投資の大地震がまたいつ来るか、いやいつ来てもおかしくはないのです。そこでは、過去のデータをうまくならした方法でポートフォリオをつくっても、その意味あいはなくなるでしょう。前提があいまいなのに、結果に厳密さを求めているからです。

■決め手にならない「あなた用」のポートフォリオ
ここで誤解がないように言っておきますが、ポートフォリオそのものを否定しているのではありません。要は、投資の初心者は、「あなた用」に出された「あなたにぴったり」とされるポートフォリオを頼りすぎないということです。それにとらわれてプラスの予測だけに目が眩むと、マイナスにブレた時に狼狽してしまいます。それならばいっそ、手数料を引かれてまでポートフォリオをつくってもらうより、低コストで市場に連動するインデックスファンドやETFを「大ざっぱ」に組み合わせるか、あらかじめ資産が均等割合で分散されたファンドで十分足りるのではないかということです。

元となる正規分布を用いたポートフォリオ作成自体が、今や全面的には肯定されない時期に来ています。それでもこの手法が用いられているのは初心者にリスクとリターンの関係を説明しやすいし、運用の専門家が、市場が大きく揺らいだ時に顧客を説得しやすいということもあります(実際にはいろいろな手法で資産配分が修正されているとはいえ)。

こうなると、金融機関などであなたのために出されたポートフォリオは、購入のインセンティブになるのでしょうか。それは精密につくられた「仮定」というものであって、「予定」とさえなりえないものです。風に流れる砂で寸分違わず設計通りにつくられた楼閣に、私たち自身が幻惑され、誘惑される意味はあまりないのです。


【参考記事】
■文系卒が、それでも実学としてビジネスで役立てられる理由 野口俊晴
http://sharescafe.net/47493984-20160113.html
■「宵越しのお金」が持てれば、老後の人生は変わる 野口俊晴
http://sharescafe.net/47053876-20151202.html
■野球賭博は他人ごとではない 人がギャンブル的投資に走るワケ  野口俊晴 
http://sharescafe.net/46739709-20151102.html
■損が出た時に対処するお金と恋愛の投資心理学  野口俊晴
http://sharescafe.net/46399715-20150929.html
■老後資金づくりでハマる心理的な罠  野口俊晴
http://www.tfics.jp/ブログ-new-street/

野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー  TFICS(ティーフィクス)代表 


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