国会

衆院は2月16日午後の本会議で、女性問題を理由に議員辞職願を提出していた自民党の宮崎謙介衆院議員の辞職を許可しました。それに先立ち、安倍首相も15日午前の衆院予算委員会で、宮崎謙介衆院議員が議員辞職願を提出したことに関し「ああいう形で辞任したのは党総裁として申し訳ない。」と陳謝しました。

■現在の「国会議員公募制」の課題
辞任した宮崎元議員が自民党の公募により選出された議員であったことから、今回「国会議員の公募制」の是非が、改めて問われる事態になっています。「国会議員の公募制」については、以前からいくつかの問題点が指摘されており、自民党の谷垣禎一幹事長も15日の記者会見で、「公募だと政策面はチェックできるが、個人の思想や素行のチェックは難しい」と語り、「公募制の限界」について暗に認めています。

自民党が国会議員の公募を本格化させたのは、2004年の衆院埼玉8区補選からです。公選法違反で起訴された元議員の辞職に伴う選挙対策のため、改革を訴求する必要が生じ、自民党は候補者を公募で選出する方法を選択したようです。その後、現職が引退表明した選挙区や支部長不在の空白区については、原則として公募で候補者を選ぶことになっています

なお自民党のみならず、現在では民主党、大阪維新の会など多くの政党が、「国会議員の公募制」を採用しており、一般の国民が国会議員になるための「キャリアパス」のひとつとして定着しつつあります。一方で、産経新聞社グループが運営するニュースサイト「IZA」に、国会議員の公募の実態に関して、以下のような記事が掲載されています。

公募に応募してくる若者は、プレゼンテーションが抜群にうまく、論文も出題者側の政党の政策を良く研究して模範解答を書いてくる“試験慣れ”した人が多いという。だが、そんな人に限って、あちこちの党の公募に手を挙げているとされる。受験戦争を勝ち抜いた偏差値エリートが、次のステップアップとして国会議員を選ぶ。とにかく、国会議員になるのが目的だから、政党も政策なんてなんでもいい、ということだろう。
<ゲス不倫の宮崎謙介、浪速のエリカさま…公募議員はなぜトラブル起こすのか? 
IZA 2016/2/13 >


この記事を読んで気になることは、公募の応募者の中に、国会議員になることを自らのキャリア形成や名声獲得のための手段としてしか考えていない人が、少なからず存在する、という点です。このような候補者は、概ね高い学歴や著名企業等における職歴をもち、面接やプレゼンテーションテクニックにも長けているケースが多いため、必ずしも政治家としての信念や適性を持っていなくても、公募に通りやすい状況があるようです。

■公募制をどのように見直すべきなのか?
自民党の谷垣幹事長も認めているように、書類審査や論文、面接等だけで国会議員を選ぶ手法には、いくら面接回数を増やすなどの対策を講じたとしても、そもそも限界があると思います。一方で、小選挙区制のもとで、一般の国民が政治家を目指すには、公募に応募する以外の手段が事実上存在しないという現実もあります。また世襲政治家の比率を抑制する意味においても、公募制の存在は、極めて重要な施策であるともいわれています。

但し、最近まで自民党が行っていた参院選の候補者を公募形式を見る限りにおいては、一般有権者によるネット投票結果を付加したとしても、前述のIZAの記事にあるように、学歴・職歴に優れ、見栄えもよく、高いプレゼンテーションスキルも併せ持つ第二第三の「宮崎謙介」的な人物を、完全に排除することは困難だ、と思います。

それでは議員の公募制を、具体的にどのように変えていけばよいか、という点ですが、筆者は民間企業の採用方法の変化に、一つのヒントがあると考えています。その変化を象徴する施策例として、「通年採用」と「インターンシップ」の導入が挙げられます。

民間企業の採用手法の変化を参考にした場合、まずは「国会議員の公募」を通年で行うことが望まれます。「国会議員公募時期の通年化」により、国政選挙の有無にかかわらず、近い将来国会議員として活躍できそうな人材を時間をかけて選抜することにより、「国会議員適性者の人材プール」を形成することが可能となります。

次に、公募合格者には学生のインターンシップ同様、まずは都道府県や市町村議会等の議員選挙に立候補を促し、一定期間地方議員として議員活動を行うことを義務化することも望まれます。そして地方議員として地方政治の現場で汗をかき、成果を上げた者だけを国会議員として公認・推薦するシステムに変えていけば、政治家としての資質や志をもたない、前述の「偏差値エリート」などが、自らのキャリアアップや名声獲得の手段として国会議員を目指す傾向に、一定の歯止めをかけることができるのではないか、と予想されます。

これは、民間企業が次期経営者を選抜する際に用いる手法と、ほぼ同じです。民間企業では、次期経営者を選抜するために、候補者を子会社などに送り出し、経営の立て直し等に従事させ、成果を上げた者だけを本社の役員などに引き上げるケースが見受けられますが、これと同様の考え方です。

民間企業の多くが次期経営者の選抜や育成に、多くの時間と労力をかけているのですから、各政党も、自党の国会議員候補の選抜と育成に、同等の時間と労力をかけるべきではないでしょうか?

■国会議員公募制改革の意義
残念ながら、現在の選挙制度においては、政治家としての資質に関係なく、世襲政治家やタレントなどの著名人、特定団体の代表などが当選しやすい仕組みになっていると言わざるをえません。

この状況が続くと、日本の政治の地盤沈下がより一層進んでしまう可能性があるため、議員公募制を改革することは、日本の政治の刷新に直結する、重要施策のひとつであると考えられます。しかしながら、このままの状況を放置すると、今後国民からの「国会議員定数の削減圧力」は、より一層強まることでしょう。

そのような事態に陥らないためにも、各政党は今回の宮崎元議員の辞任を、自党の国会議員候補の選抜と育成方法の見直しのための良い機会として捉え、中長期的な視点に立った改革案の検討を、早急に開始していただきたいと思います。

【参考記事】
■中年世代になったら考える「キャリアのリスクマネジメント」
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-24.html
■65歳定年時代の「老害シニア対策」とは?
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-23.html
■世界最低レベルの「社会人の学び直し」比率
http://sharescafe.net/46989472-20151124.html
■「一億総活躍社会」実現のための「中高年転職市場」
http://sharescafe.net/46590587-20151016.html
■「失業なき労働移動促進政策」がもたらす、日本型終身雇用制度の終焉
http://sharescafe.net/45941690-20150816.html

株式会社デュアルイノベーション 代表取締役
経営コンサルタント 川崎隆夫 

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