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■同一労働同一賃金が話題になっています
同一労働同一賃金制度が政府で議論されているという報道が連日されています。「同じ仕事をしているなら、同じ給料で働かせて欲しい」そう考える方は多いのではないでしょうか。欧米では当たり前化されている国も多い同一労働同一賃金制度ですが、なぜ日本ではなかなか導入されないのでしょうか。その理由を解決しなければ、政府が声をかけても、有名無実になってしまうでしょう。

■どこまでが同一労働なんだろう
「同じ仕事をしているなら、パートでも社員でも派遣でも同じ給料であるべき。」という理屈はとてもわかりやすい。あくまで同じ仕事をしているなら。社員とパートは同じ仕事をしているのか。これは同じ仕事をしている場合もあるし、同じように見えて実は同じではない場合もある。

同じ作業をしながら、責任者としてそこにいる場合や、トラブル時に即座に判断ができるためにその場にいるのは、同じ仕事では無いと考えることもできる。そのトラブルが月に1回、年に数回のものであったとしても。

日本では、現場の作業者で有能なものが、現場の管理者となる場合が多い。そして現場の管理者の中で有能な物を総合管理職に取り立てる場合が多い。また、現場作業者と現場管理者との採用が分かれていても、現場管理者の研修として、現場作業に従事させる場合も多い。まさに現場主義が日本の制度の根幹であったりする。

するとそこに同じ作業をしているものでも、役割や意味合いが大きく異なってくる。管理者が作業を手伝っている間は賃金を下げるのか?それでは本末転倒な話になっていまいます。管理能力があるものが現場作業に従事するとコストの効率が悪いから管理者は現場作業をするべきではない。とするのが欧米的な考え方なのでしょう。しかし繁忙期に管理職の方が現場で一緒に汗を流して作業することで、現場のモチベーションが上がる場合がある。これは管理職としての業務のひとつであるとみなせるのかもしれません。

■パート・アルバイトや派遣労働者の場合はどうする?
では役職による区別は例外としましょう。次に問題になるのは、平社員とパート・アルバイトと派遣従業員との区別です。一般的には、社員は月給制、パート・アルバイトは時間給制の場合が多いでしょう。派遣従業員は月給制の方も時間給の方もいます。

月給制の社員でも、残業代等を計算する時に時間給に換算するので、同一労働同一賃金として換算することは可能です。それでは、社員とパート・アルバイトや派遣従業員との違いは何になるのでしょう?

会社的な考え方からすると、責任の大小、昇進の有無、賞与の有無、退職金の有無で区別していたところが多いでしょう。慢性的に残業する会社であれば、時間が来ると帰れるパート・アルバイトや派遣労働者の方が「気持ち的に楽」という部分があるでしょう(慢性的な残業体質は別の問題があるが)。同一賃金同一待遇として、責任・昇進・賞与・退職金に対しても、違いが無いとしたら、社員としての働き甲斐はあるのだろうか。やりがいを喪失しないように、非正規の方だけ待遇を改善するのは簡単ではないような気がする。

■政府の考えるガイドラインはどちらを向いているのだろう
現在検討されている内容では、「同様の業務で同様の経験であれば、基本的に同一の賃金とするべき」という方向性らしい。同一の経験とするのであれば、研修内容が違えば、同一の経験にならないとも言える。その程度で簡単に回避されるようならあまり大した話ではなくなります。どの程度で問題になるかは、具体的な指針を見ないと何とも言いがたい。

職場にはいろんな思いで働いている方がいます。正社員として昇進を目指している方。事情があってパートで働いている方。転職するつもりで、まともに働く気のない方。事情があって、いやいや働いている方。やりがいをもって精一杯働いているが、入社が派遣労働者だった方。これらの人達を同じルールでくくっていいのかは、躊躇する部分もあるが、不遇な中で一生懸命働いている方の待遇は改善されてしかるべしかもしれない。

でもこれも全員同一賃金とするべきなのでしょうか?やる気や能率は加味してもかまわないのであれば、簡単に例外ルールを設けることが可能になってしまい、名目だけの同一労働同一賃金制度とすることが可能になります。もちろんこれでは態々ガイドラインを作る意味がなくなってしまう。

人不足が言われている昨今で、そういった気持ちで働いている方を、中小企業は正社員として歓迎する部分もたくさんあるのだが、中小企業の平社員よりも、大企業の派遣社員の方がいい給料だったりする場合もある。
やりがいを求めて中小企業で活躍してくれれば、数年後はきちんとした報酬が取れるようなるかもしれません。

■答えをみつけることはできるのか
経団連や連合もはっきりとした方向性は見えていない。企業負担を増やすことで、企業活力が失われれば、次にくるのはリストラになってしまう。しかし、やりがいのある労働環境に導くのも、企業活力、ひいては国の活力を引き出す一因となるだろうから、国が腰を上げて取り組んでいるのだろうが、慎重な対応でより多くの人が満足できるものにして欲しい。

単純な制度設計では、今まで多様な働き方を応援し、一億総活躍と謳っているスローガンと整合性がとれなくなる。単なる賃金単価を上げる政策の一部で言い出した話ではないことを期待したいが、そんな都合のいいガイドラインが多岐に渡る業種に渡って、本当につくれるのかどうかは、正直疑問も残るが、今後の発表に期待したい。

【参考記事】
■最低賃金を1,000円にすると、社会保障の財源が安定化する? (原田 雄一朗 社 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/47021796-20151126.html
■改正派遣法が低賃金派遣労働者の温床になるって本当!?(榊 裕葵 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/46434974-20151001.html
■最低賃金1500円を要求する人たちが勘違いしていること。(中嶋よしふみ SCOL編集長・FP)
http://sharescafe.net/47839310-20160217.html
■アベノミクスは庶民の味方か? 2014年賃金が増えたらしいけど実感がわかない。(皆川芳輝 ファイナンシャルプランナー)
http://sharescafe.net/43236234-20150205.html
■東京と地方で最低賃金が200円も違うのは当然のことなのか? (榊 裕葵 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/40989588-20140924.html

原田 雄一朗  社会保険労務士

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