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終身雇用・年功序列の人事制度は持続できない。かなり前からそう言われています。しかし、それに代わる制度は確立できているとはいえません。成果主義を取り入れた企業も多いですが、必ずしも機能しているは言い難い状況です。

企業は「我が社にとって社員こそ最も価値ある資産です」と力説するが、株主や証券アナリストが支出削減を要求すると、「最も価値ある資産」は、あっという間にもっとも簡単に取り換え可能な資産に変身する。(p24)

 
企業にとって「人」の価値とはどんなことなのでしょうか。多くの経営者は「最も価値ある資産」と言います。人がいなければ仕事は進みません。どんな立派な機械であっても、人がいなければ動かいない。

しかし「もっとも簡単に取り換え可能な資産」として扱われることも現実です。人件費を削減することが名経営者の条件であるかのごとく論評される風潮もあります。

財務諸表上、人は資産ではありません。資産には乗ってこない。人件費はコストとして扱われます。コストカットのために安易なリストラが行われていいのか。人道的な話ではなく、企業の未来の発展のためにも、そんなことでいいのか、という疑問はあります。

ではどうすればいいのか。一つのヒントがこの本書の中にあります。

<目次>
1章 ネットワーク時代の新しい雇用
2章 コミットメント期間を設定しよう
3章 コミットメント期間で大切なもの
4章 変革型コミットメント期間を導入する
5章 社員にネットワーク情報収集力を求める
6章 ネットワーク情報収集力を活かすには
7章 会社は「卒業生」ネットワークをつくろう
8章 「卒業生」ネットワークを活かすには

■コミットメント期間を定める
「企業と働く者が信頼関係で結ばれる」
本書で強調されていることを一言でいえばそうなります。

では、そのために具体的にどうするのか。

それは期間を区切り、その間、互いに交わしたコミットメントを遂行していこうというやり方です。つまり、働く人は、企業から期待される、成し遂げるべき成果を約束しそれを果たすことに全力を尽くす。企業は、働く人のキャリア形成を最大限、支援・応援し、成果を上げることによって得られるメリットを明示しておく、という、双方向の関係を作ろうということです。

そのために、コミットメントの前に、双方が十分に話合いをする必要があります。一方方向からの命令ではありませんから、お互い、納得した上で取り組まなければうまくいくはずがないのです。

アライアンスの基本原則は同じだ。その原則とは、すべての雇用関係は本質的に双方向で、社員の得るメリットと会社の得るメリットを互いに明確にする、ということだ。(p65)


コミットメント期間、といってしまうと、単なる有期契約のように感じられるかもしれませんが、お互いの信頼が深まり、次のやりがいを自社の中で見つけることができれば、転職する必要はないわけです。コミットメント期間の積み重ねが自社内でのキャリアアップにつながることもあり得ます。

もちろん、他社に移っても構わない。また、企業側から見ても、次のコミットメントを用意できないのであれば、そこで一旦、関係は終了ということも可能です。

そしてこうした関係を、契約ではなく、人間同士の信頼と同じ、「道義的」関係だと言っています。契約社会のアメリカでこうした考えを薦めるのは、このやり方は人間の本質に根差した部分があるということではないかと思います。

個別の事例や施策は、日本の雇用慣行に必ずしも合わないかもしれません。しかし、会社と働く人の信頼関係を最重視する姿勢は、これからの社会において無視してはならないものです。(p8)


全部をすぐに真似できるわけではないと思いますが、少なくとも考え方の基本と精神は取り入れられる。自分がマネジメントをする側にいるのなら、こうした方向に組織を動かす努力をしていけばいいし、働く側なら、自分で勝手にコミットメントを考えつつ、上司などと話す機会を少しずつ設けていけばいいと思います。

■卒業生ネットワークを活用せよ
さらにユニークだと思ったのは、卒業生ネットワークを活用せよ、ということです。

「あの野郎、ここまで育ててやったのに、辞めやがって」
辞めた社員にこうした感情を抱いた人もいるのではないかと思います。そう思っても不思議ではありません。まして辞めてライバル会社に行くようなことがあれば余計にそう思ってしまうでしょう。

しかし、辞めた後も良好な関係を維持できるのだとしたら、そんなことを思う必要はなくなります。だとしたら、意図的にそういう関係を作るようにしていけばいい。表面的に「円満退社」を演出するのではなく、真の意味で円満退社してもらい、関係を維持できるようにしていくほうがいいに決まっています。

そのためには、在籍中からどんな関係を築けばいいのか、考えておかないといけません。相互信頼関係を作ることは、残ってもらうだけでなく、辞めていく人に対しても有効に作用していきます。

さらに、そんな人の中から、戻ってきてくれる人が現れたとしたら。

「出戻り」というと日本語の響きは悪いですが、こうした人はとても貴重な戦力になりえます。自社の文化を理解しつつ、外の目も持っている人は、内向きになりがちな組織にとってはかけがえのない人物になる可能性があるのです。

働く人の側から見ても、在籍した企業と良好な関係を維持することはマイナスにはなりません。よしんば、企業とは十分な関係を築けないとしても、卒業生同士でつながりを持つことは、さまざまなチャンスを呼んできてくれるはずです。

終身雇用制度を前提にした制度は、継続していくことは難しいでしょう。しかし、その場その場で使える人を使い潰し、短期的な業績を追いかけることも、長くは続くわけがありません。

■長期的思考を取り戻すために
現在まで続いている「フリーエージェント型の時代」は、我々を長期的視点の投資から遠ざけ、即効性だけを追求する近視眼的視点へと追い立てた。忠誠心の得られない企業は長期的思考ができない企業である。長期的思考ができない企業は、将来に向けた投資のできない企業である。そして、明日のチャンスと技術に投資しない企業はすでに死に向かっている企業なのだ。(p175)


先にも触れましたが、本書に書かれていることがすぐに、日本で実行できるわけではないでしょう。ただし、本書を読んで「外資はいいなあ」と思わないほうがいいと思います。アメリカでも、こんなことができている企業は少ないのです。アメリカで当たり前のことであるなら書籍になどなりません。現時点では、一部の企業でし、実現できていない、ある種の理想の世界のお話です。

理想は簡単には実現できません。しかし、企業を永続させたいのであれば、今のやり方を続けてはいけません。真綿で自分の首を絞めているようなものだからです。理想に向かって少しずつでも歩み始める。その方法論のひとつが、本書には示されています。

中郡久雄 中小企業診断士

【参考記事】
■【読書】ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用
http://blog.livedoor.jp/nakahisashi/archives/1051720305.html
■組織力を高めるには原理を活かせ~【書評】チームの力: 構造構成主義による”新”組織論(中小企業診断士 中郡久雄)
http://sharescafe.net/47495656-20160115.html
■「トヨタ」から何を学べばいいのか?~【書評】どんな仕事でも必ず成果が出せる トヨタの自分で考える力/原 マサヒコ(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/47148390-20151211.html
■引き受ける勇気~【書評】『町工場の娘~主婦から社長になった2代目の10年戦争』(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/43083984-20150127.html
■企業再生とは「なにもなくなってしまった自分たちに、小さなイチを足していくことの積み重ねだ」~『黄色いバスの奇跡 十勝バスの再生物語』 中郡久雄
http://sharescafe.net/37593720-20140311.html

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