![]() 過重労働防止やブラック企業根絶など、働き方改革が国策となり久しい中、驚くべきニュースが目に入った。当該改革の旗手である労働局(ハローワーク)でサービス残業が行われていたという内容だ。 ■ハローワークにおけるサービス残業の実態とは
当該労働局長が「働き方改革や、過重労働解消キャンペーンを行っている中、こうした事態が起きて申し訳ない」と謝罪したということである。ごまかしようのない、きわめて恥ずべき事態だと断じざるを得ない。 ハローワークの職員は国家公務員であり、非常勤職員を含め労働関係法令の適用はない。その代わりに国家公務員関係法令が適用されるが、監督者からの正当な命令により残業を行った場合に残業代を支払うことは、いずれの法令でも当然のことだ。 上記の報道によれば、サービス残業が発生した原因として「非常勤職員に残業の申告制度などを十分に周知していなかった」とあるが、残業の申告がないにもかかわらず、残業する職員が多数いるという状況を、監督者はどのように承知していたのだろうか。 一方、厚生労働省の職員自身に「サービス残業」の認識がなかったということは考えづらい。なぜ彼らはサービス残業に従事し続けたのだろうか。 ■非常勤職員が多数を占めるハローワーク 一般には知られていないことだが、ハローワークの窓口に立つ相談員は、ほとんどが非常勤職員である。国家公務員の定員は、規則で明確に定まっているため、そうやすやすと増員はできないのである。先の東日本大震災でも、被災地以外のハローワークの職員はあくまで臨時的な「応援」という定員外の形で、被災地のハローワークで相談業務に従事した。 しかしながら、近年の大不況の影響により、ハローワークのニーズは高い。そのため、正規職員の穴埋めとして、キャリアコンサルタントの有資格者である非常勤相談員の配置が進められてきたのである。現在ハローワークの非常勤相談員は、キャリアコンサルタントの有力な就職先の一つと言ってよい。 現在窓口で求職の相談に乗っている彼らもまた、ハローワークの求人経由で採用されているのだ。そしてまた、失職した際には、彼らは再度ハローワークの利用者となるのである。 ■ハローワーク非常勤相談員の待遇は 彼らの具体の待遇はどうなのだろうか。インターネットの求人サイトで検索してみたところ、「職業相談員」等の名称で複数の求人があり、月収で15万~25万円ほどであった。ボーナスは無しの条件であるため、年収で180~300万円程度となる。 ちなみに、人事院勧告の資料によれば、正規の国家公務員における35歳係長で、モデル年収が460万円弱であり、専門職であるキャリアコンサルタントの年収が一般行政職と比して少ないものであることがわかる。 また、非常勤相談員には任期が付され、会計年度ごとの単年度契約での雇用となる。これはハローワーク相談員に限らず一般の非常勤国家公務員も同様だ。採用に当たっては公募を原則とすることなどと併せ、人事院規則で定められている。 これらの諸条件は、一家を養うことを前提とすれば少々心もとないものである。逆に考えれば、定年後の第2の職場やパートナーに十分な収入のある場合のパート先としての条件としてはましなほうなのかもしれない。 奇しくも平成28年4月からキャリアコンサルタントの資格が国家資格化されるが、国によるキャリアコンサルタントの相場観は、現状その程度なのだ。 ■サービス残業の真の背景とは とはいうものの、キャリアコンサルタントの受け皿としてのハローワークの人気はかなりのものだ。知人の相談員に聞いたところ、場所によっては非常勤相談員の求人1件に数十名が殺到することも珍しくないという。 2002年に厚生労働省が発表した「キャリアコンサルタント5万人計画」により、毎年キャリアコンサルタント有資格者が量産されている。せっかく取得した資格だからと、相談員への就転職のニーズがある。就職先としては人材派遣会社や学校法人等が想定されるが、中でも公的機関であるハローワーク相談員の人気は高いのだ。それゆえ、限りあるパイを、不特定多数のキャリアコンサルタントが奪い合う構図となっている。 また、先に述べたとおり、運よくハローワークの相談員に就職できたとしても、任期が終われば原則として公募に身を投じなければならない。ハローワーク相談員の現職者としては、いかに職場に貢献してきたか、必死のアピールが求められるだろう。現職で良好な人間関係を築きたい、上司や同僚と揉め事はおこしたくないと考えるのは自然なことだ。 そのような状況下で、仮に彼らが「空気を読んで」残業代を請求しなかったとしたら。彼らが雇用不安に基づく同調圧力の中で不払い残業を続けていたとしたら、それを感知しながら放置し続けた罪は極めて重いだろう。「サービス残業は必要悪である」という誤ったメッセージを発信してしまったことになり、負の普及効果は計り知れない。 本件の釈明のように、仮に残業の申請方法が周知されていなかったとしても、正常な職場であれば申請方法について方々から現場の上司に質問がなだれたはずだ。そのような声があがらず、または声があっても黙殺されてきたとしたならば、まさに官制のブラック企業であるという批判は免れないだろう。 彼ら相談員をはじめとする国家公務員のパフォーマンス低下は、我々国民へのサービス低下となって跳ね返ってくるはずだ。また、身内のブラックな働き方を容認するようであれば、世に溢れるブラック企業への指導など、なんらの説得力を持つまい。本件をうやむやにせず、毅然とした対応を期待したい。 【参考記事】 ■それでも、ベッキーさんへの過剰な批判が危険な理由。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント) http://sharescafe.net/47661979-20160129.html ■それでも、不倫疑惑タレントを「抹殺」してはいけない。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント) http://sharescafe.net/47561520-20160119.html ■「年も明けたし、何か資格を取ろう!」と思ったあなたに伝えたいこと (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント) http://sharescafe.net/47304400-20151223.html ■「未達成感」が育児ストレスを増大させるのでは。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント) http://sharescafe.net/47075444-20151202.html ■元猿岩石芸人から学ぶべきスキルとは (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント) http://sharescafe.net/46884848-20151113.html 後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント ![]() シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |