テレビ朝日の看板番組「報道ステーション」等でレギュラー・コメンテーターをつとめたショーンK氏が経歴詐称疑惑により同番組等を降板した問題について、既に多くの方が色々な意見を述べられています。誰と言うわけでもないのですが、まるで経歴詐称を些末なことのように考える人が少なからずいたことは、私自身にとっては驚きでした。彼がどんなに素晴らしいナイスガイだったとしても、経歴や資格を偽って営業を行う詐欺的行為は許されるものではないのです。 ショーンK氏自身は、既にそうした詐欺的行為の代償を払う形で、彼の原点とも言えるFM局のナビゲーターも含め、マスメディアでの仕事をすべて自粛しています。本業とされる経営コンサルタントとしての仕事にも大きな影響があることでしょう。 自分がこれまで積み上げたものをすべて台無しにしてしまうリスクを考えると、いつまでも経歴詐称を続けるというのは合理的ではないように思うのですが、なぜ早い段階で思い止めることができないのでしょうか。 ■経歴詐称のリスクとは ショーンK氏が最初に大胆な経歴詐称を行ったのは、おそらくFMラジオのナビゲーターとして世間に露出することになった前後のことでしょう。この段階ではまだそれほど知名度もなく目立った存在ではないため、詐称がバレる確率Pも、仮にバレた場合のインパクトIも小さく、安易な思い付きで禁断の果実に手を出してしまったのかもしれません。 ここで、経歴詐称のリスクRは、バレる確率Pとバレた場合のインパクトIの積で表されます。 R(リスク) = P(発生確率) × I(発生した場合のインパクト) (確率とインパクトを掛け合わせてリスクを評価するのは、分野に拘わらずリスク管理の基本中の基本ですので、ぜひ覚えておくと良いと思います。) その後、詐称によって強化されたキレッキレの経歴を生かして出版やテレビ等へ活躍の場を広げたわけですが、そうして知名度が高まるにつれ、詐称がバレてしまう確率が上昇し、同時にバレた場合のインパクトも大きくなりました。 確率やインパクトと知名度の間に線形の関係を仮定すると、それらの積である経歴詐称のリスク(=確率×インパクト)は、知名度の二乗の関数になります。ショーンK氏が活躍すればするほど、活躍以上にリスクが増大していたのです。 ■経歴詐称は割に合わない 経歴詐称による利益がそのリスクの大きさに比べてリーズナブルであるためには、知名度が十分低くなくてはなりません。ショーンK氏のように自分を広く知らしめようとする場合、経歴詐称という一種のマーケティング手段は、法的や道義的に問題なだけではなく、経済的にも割に合わない悪手だと言えます。 それにも拘らず、いつまでも経歴詐称を続けてしまうのは、上手くいっているときには、それがいつか破綻するかもしれないという当たり前のことが、当たり前として考えられなくなるためでしょう。バブルに踊る間は、目の前にどんなに明らかな兆候があってもそれがバブルだと気づけないものです。 経歴詐称によって営業を強化する一方で人生が破綻するリスクにさらされる状況は、自分自身の破綻を賭けの対象にするCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を売ってプレミアム収入を得るのに似ています。 賭けの対象が破綻リスクの高い「インチキ住宅ローンばかりを詰め込んだモーゲージ債」だと知りながらそのCDSを売るのは、映画『マネー・ショート』で破綻の危機に陥ったCDSの売り手もやらない、狂気の沙汰と言えるでしょう。 (CDS取引については、ぜひ参考記事をご覧ください。) ≪参考記事≫ ・映画『マネー・ショート』を見ていて混乱するのは、「空売り」を予習したせいだ。 (証券アナリスト 本田康博) http://sharescafe.net/48046767-20160310.html ・セレーナ・ゴメスのあのシーンが分かる。映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』を華麗に楽しむための基礎知識 - 上級編 (証券アナリスト 本田康博) http://sharescafe.net/48017465-20160307.html ・映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』を華麗に楽しむための基礎知識 - 初~中級編 (証券アナリスト 本田康博) http://sharescafe.net/48001631-20160305.html ・映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』を華麗に楽しむための基礎知識 - 初心者編 (証券アナリスト 本田康博) http://sharescafe.net/47982665-20160303.html ・話題沸騰「正社員制度をなくしたらどうなるか問題」を、ファイナンス論的に考えてみた。 (本田康博 証券アナリスト) http://sharescafe.net/42781228-20150108.html 本田康博 証券アナリスト・馬主 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |