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ようやく仕事が終わった。今日も残業だった。電車のつり革につかまりながら、スマートフォンでSNSを見る。タイムラインに表示される文言に反応してしまったことはなかろうか?「平凡なサラリーマン(OL)だった私が、副業を始めたおかげで今では信じられないようなお金と自由な時間を得ています。ほんの少しの勇気を出して一歩を踏み出してみませんか!」

副業といっても会社の勤務が終わった後、アルバイトをすることではない。権利収入(過去の努力や働きが反映される)獲得を目指すもので、ネットワークビジネスとネットビジネスが中心である。我が子がネットワークビジネスに熱中するあまり、会社を辞めると言い出したらどう説得するのか。あるいは目をかけていた後輩や部下が仕事に身が入らなくなったとき、あなたはどう声をかけるのか?


■就職したての若者が参加しやすいネットワークビジネス
権利収入といっても色々なものがあるが、ある程度の元手が必要な不動産投資などと比較すると交友関係を元に始められるネットワークビジネスは、若者にとって敷居が低いのかもしれない。就職して間もない時期であれば、学生時代の友人との付き合いも密である。筆者が異業種交流会などに参加すると、副業、本業を問わずネットワークビジネスをしている若者によく出会うことがある。

ネットワークビジネスの特徴は、連鎖販売取引(Malti-level Marketing)と称されるもので、問屋や小売店などの流通経路を通さない販売方法とテレビCMや新聞の広告に頼らない口コミによる宣伝方法である。勤務後や週末に行えば、本業の仕事と両立できる。副収入を得て、精神的な安定や物質的な満足感を得た人もいるであろう。

とは言え、ネズミ講と間違えられるなど世間的な評判は悪い。また販売対象を身近な友達から始めるため、人間関係に罅が入るケースもある(生命保険の営業方式と類似している)。販売のための交通費や交際費もそれなりにかかるので商品を購入して勧誘する人を見つけることができなければ、副収入どころか、マイナスになりかねない。

■まだまだ魅力的なネットビジネス
ネットビジネスとは、インターネットを介して収入を得るしくみである。広義で捉えるならば、有料ブログやWebデザイナーなども該当する。ただし芸能人やスポーツ選手ならともかく、無名な人がブログで稼ぐのは難しい。趣味で動画を作るのと異なり、継続的にお金を稼ぐのがそれなりに経験やスキルが必要だ。誰でも簡単に参入できない。

代表的なのはアフリエイトや物販である。これなら隙間時間を利用して気軽に始められる。しかしそれほど稼げない。この分野で成功しているのは、金儲けのノウハウや株価の予想、ギャンブルの必勝法、異性にもてるための情報などをまとめた情報商材の販売である。一昔前、ネオヒルズ族などともてはやされた与沢翼氏もこの情報商材により、有名になったと言われている。商材を元にした高額な有料セミナーなどを開催し、定期的にお金を儲ける仕組みを作っている。与沢翼氏のような人を情報起業家(インフォプレナー)とも呼ばれている。

ウェブ用にアレンジした短文の宣伝文句の羅列は、胡散くさい印象がある。しかし意外と購入者はいるようである。ブームは沈静化したと言われるが、異業種交流会などに参加すると取り組んでいる若者によく出会う。与沢氏のような先駆者について崇拝の念を込めて熱く語る人もいる。

ネットワークビジネスと異なり、在庫を抱えるリスクや身内への勧誘などの人間関係を壊す恐れはないのでハードルがさらに低い。ただし成功した情報起業家が主催するセミナーは高額なものが多いため、金銭的な負担は少なくない。またそうしたセミナーに参加して、覚悟を決めてやらないと成功できないなどという話を聞いて、没頭してしまうと仕事への影響もでてくる。本業のパフォーマンスが悪くなれば元も子もない。年収を上げるどころか逆になる。

■若者が副業を始める理由
ネットワークビジネスやネットビジネスにはまる若者が増えた理由は二つある。一つは、将来に対する強い金銭的な不安である。年金は貰えないかもしれない。終身雇用も崩壊し、大企業に勤めていてもいつリストラされるかわからない。「下流~」といって貧困化を煽る書籍もベストセラーとなっている。個人的に持続的な収入を得るしくみを作っておかないと安心できないという考えだ。

最近、極小邸宅の作者、新庄氏が「ニューカルマ」という小説でネットワークビジネスに嵌まっていく若者の様子を描いている。主人公がネットワークビジネスに参加するきっかけは、勤務する大手メーカー内で行われたリストラだった。

二つ目は、働く時間をコントロールできるという魅力である。日本企業において長時間労働の問題はなかなか解消しない。むしろ顧客優先主義のため、よりストレスが溜まるものとなっている。「ワークライフバランス」や「男性の育児休暇」など口に出すと上司から罵倒されることもあるであろう。

ネットビジネスであれば、子供が寝た後、集中的に取りくむこともできる。一時、脚光を浴びたノマドワーカーなどに対する憧れもある。ビジネスの成功者がSNS上で誇示している内容も、豪邸や高級車などを物質的な豊かさから好きなときに旅行に行ける、家族と過ごせる時間が増えるなど精神的な豊かさへと変化している。

ではネットワークビジネスやネットビジネスに夢中になっている子供や後輩、部下の目を醒ますのには、どんな言葉が有効なのであろうか?

■会社員である利点を強調する
ネットワークビジネスに専念するために会社を辞める」と言ってきた場合、一つの会社で働き続けることや仕事に熱中する大切さを説いても鼻で笑われて終わりだ。彼らがバイブルとしている「金持ち父さん、貧乏父さん」(ロバートキョサキ著)に記されている労働収入と権利収入の違いを出され、「だから貧乏父さんなんだ」と言いくるめられるかもしれない。ネットワークビジネスで昔からの友人と縁を切られた息子や後輩に「友達は大事だぞ」と言ってもビジネスの仲間が本当の友人だと反論されるかもしれない。アドラー心理学のエッセンスをまとめた「嫌われる勇気」などもネットワークビジネスに取り組む人には、よく読まれている。

会社員であるメリットを説明するのはどうであろうか。自営業者と比べると固定収入があるサラリーマンの信用は侮れない。住宅購入のローンなどを比較的、たやすく組める。今後、人口が減少する日本で、不動産投資は激しい部分もあるかもしれないが、良い物件に当たれば安定した収入を長期に渡って得られる。外国人旅行者をターゲットにした民泊(AirBnb)などという手段もある。ネットワークビジネスよりは、軽い労力で権利所得を手にすることができる。

■自分で起業することを勧める
会社を続けろというアドバイスとは真逆になるが、「いっそ起業してみたらどうだ」というのはどうであろう。我が国において会社を作るというのは、連帯保証、一家離散に繫がるなどリスクが大きいと捉える人が多い。また会社を潰した経営者は、犯罪者のように扱われることもある。

起業するよりも過酷な勤務体系の職場や歩合制の比重が高く収入が安定しない営業職でも、組織に属しているだけマシという考えが我が国では強い。しかし最近では起業のハードルが下がっている。国からの助成金などもある。若いときであれば、失敗しても再び会社員として働くことも可能だ。若者たちが崇めるアップ(ネットワークビジネス)や師匠、メンターなどの成功者のセミナーに参加してお金を投資するよりは、自分で起業するほうがビジネスについて学べるし、精神的にも鍛えられる。

そしてあなた自身も起業を想像して色々と調べてみよう。今、実行に移さなくてもよい。新しい世界が見えてくるはずだ。

【参考記事】
■遺産争族、なぜ財産が少ない家族ほど相続による争いが起きるのか?(佐藤敦規 FP・社会保険労務士)
http://sharescafe.net/47023795-20151127.html
■積み立て型の生命保険、終身保険は不用?(佐藤敦規 FP・社会保険労務士)
http://sharescafe.net/46343820-20150924.html
■「身近な人が亡くなった後の手続きのすべて」が売れている理由 (佐藤敦規 FP・社会保険労務士)
http://sharescafe.net/46549638-20151015.html
■本当に医療費の支払いで老後破産になるのか?(佐藤敦規 FP・社会保険労務士)
http://sharescafe.net/47636064-20160127.html
■病気で下流老人?医療保険の加入者が確認すべきこと(佐藤敦規 FP・社会保険労務士)
http://sharescafe.net/47846220-20160218.html

佐藤敦規 FP・社会保険労務士

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