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2016年4月1日より、一般社団法人 日本オンラインゲーム協会が「ランダム型アイテム提供方式を利用したアイテム販売における表示および運営ガイドライン」を改定し、会員に徹底遵守を求めるとしています。

この改定は、2015年末から2016年初めに、Cygamesが運営するソーシャルゲーム「グランブルーファンタジー」で実施されたガチャイベントのレアキャラクターが、大量に課金したにも関わらず、なかなか出現せず、消費者庁に苦情が寄せられたことに端を発しています。

ネットではこのイベントに70万円課金した事例も報告されており、Cygamesは対応策として2016年2月25日、300回(9万円相当)ガチャを実施すると、ガチャの対象となるキャラクターやアイテムから任意の一つを入手できるように仕様の変更を実施しました。

■ガイドラインは、どのような内容なのか?

このような状況を受け、業界団体が自主的にガイドラインを改定したという流れですが、肝心のガイドラインの内容は、どのようになっているのでしょう?

問題となった出現確率が一般のアイテムより低めに設定されるレアアイテムについては、以下のように設定されています。


3. 有料ガチャの設定に関する事項
(1)有料ガチャにおいてガチャレアアイテムを提供する場合、以下のいずれかを遵守するものとする。

a. いずれかのガチャレアアイテムを取得するまでの推定金額(その設定された提供割合から期待値として算定される金額をいう)の上限は、有料ガチャ1回あたりの課金額の 100 倍以内とし、当該上限を超える場合、ガチャページにその推定金額または倍率を表示する。

b. いずれかのガチャレアアイテムを取得するまでの推定金額の上限は 50,000 円以内とし、当該上限を超える場合、ガチャページにその推定金額を表示する。

c. ガチャレアアイテムの提供割合の上限と下限を表示する。

d. ガチャアイテムの種別毎に、その提供割合を表示する。

「ランダム型アイテム提供方式を利用したアイテム販売における表示および運営ガイドライン」より引用



ガイドラインはソーシャルゲームの運営者向けに書かれているためか、若干わかりにくい表現も散見されます。そこで高額課金の可能性に対して、どう対応するかという観点で言い換えてみることにします。

a.レアアイテムの出現確率が1%以上であれば、出現確率や、取得するまでの推定金額を表示する必要はない。出現確率が1%未満のレアイアテムを設定する場合は、出現確率か推定金額のどちらかを表示する。

b・取得するまでの推定金額が5万円以内であれば、レアアイテムの出現確率を1%未満に設定してもよく、また出現確率や、取得するまでの推定金額を表示する必要はない。取得するまでの推定金額が5万円を超える場合は、推定金額を表示する。

c.レアアイテムの出現確率の上限と下限を表示していれば、出現確率が1%未満、もしくは取得するまでの推定金額が5万円以上のレアアイテムを設定してもよい。

d.(レアアイテムを含む)ガチャアイテムの種別毎に、出現確率を表示していれば、出現確率が1%未満、もしくは推定金額が5万円以上のレアアイテムを設定してもよい。

補足:a,b,c,dの事項は、すべて遵守する必要はなく、a,b,c,dの事項の内、どれか一つを遵守していればよい。

こうしてみると、このガイドラインは、事項aとbに集約されますが、どこまでの範囲であれば、出現確率や、取得するまでの推定金額を表示しなくていいか?という問いに対する業界団体の見解を示していると考えられます。

■出現確率や推定金額の表示がないレアアイテムは、いくらで取得できるのか?
では出現確率や、取得するまでの推定金額の表示が必要ないとされるレアアイテムは最悪いくら課金をすると入手できるのでしょう?

aの事項のパターンでは、出現確率が1%以上であれば、出現確率や、取得するまでの推定金額を表示する必要がありません。そこで出現確率が1%の場合を考えてみます。確率が1%ということは100回の内、必ず1回はレアアイテム出るという意味ではないことは、サイコロを6回振った場合、6の目が必ず1回出ないことから考えても明らかです。

それを踏まえて、ガチャを10回から500回実施した場合に、1回以上レアアイテムが出現する確率を計算すると以下のようになります。

10回 9.6%
20回 18.2%
50回 39.5%
100回 63.4%
200回 86.6%
300回 95.1%
400回 98.2%
500回 99.3%
※小数点第二位を四捨五入

こうしてみると、100回の実施では約6割強の出現であり、300回実施すると95%を超えるため、ほぼ確実に入手できると考えられます。

このガチャが「グランブルーファンタジー」と同様に1回の実施額300円のガチャだとすると、9万円出せばほぼ確実に入手できることになるため、Cygamesが実施した対応策は運悪く4.9%の確率でレアアイテムを入手できなかったユーザへの措置といえるでしょう。

bの事項のパターンでは、取得するまでの推定金額が5万円以内であれば、出現確率1%未満の設定であっても、出現確率や、取得するまでの推定金額を表示する必要がありません。

そこで、1回の実施金額が300円のガチャと仮定すると、166回実施できることになりますので、出現確率は約0.6%に設定できます。

この条件で、ガチャを10回から500回実施した場合に、1回以上レアアイテムが出現する確率を計算すると以下のようになります。

10回 5.8%
20回 11.3%
50回 30.0%
100回 45.2%
166回 63.2%
200回 70.0%
300回 83.6%
400回 91.0%
500回 95.1%
※小数点第二位を四捨五入

この場合、500回実施しないと95%を超えず、ほぼ確実に入手するためには、15万円必要になります。同じ1回300円のガチャであっても、aの事項と比較して、bの事項の方は、より金額が高くなるように設定が可能ということになります。

■まとめ
aの事項、bの事項のいずれも、出現確率や、取得するまでの推定金額を表示しなくても冒頭の70万円課金したという事例よりは遥かに低い金額で、アイテムが入手できるようになっており、ガイドラインとして一定の基準を示したといえるでしょう。

出現確率や推定金額を表示していれば、出現確率の低いレアアイテムも設定可能ですが、ネットですぐさま情報が共有される現状においては、レアアイテムにあまりに低い出現確率の設定をすることは、ユーザーに問題視されることになるため、協会に入会しているゲーム会社は、レアアイテムの出現確率設定に相当な制限が加わることになります。

一方で、出現確率や、取得するまでの推定金額を表示する必要がない場合において、運が非常に悪かった場合、10万円以上課金が必要になる可能性があることを、このガイドラインから読み取れるユーザーは決して多くはないと考えられますし、そもそもこのガイドラインをユーザーが読むとは限りません。ソーシャルゲームを運営するゲーム会社はユーザーとの共存共栄のために、本ガイドラインは最低限の遵守事項と捉え、よりわかりやすい説明をユーザに対して行っていくべきだといえるでしょう。


《参考記事》
■新入社員のうちに覚えておきたい!仮説思考の重要性と重病性(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/44386900-20150421.html
■企業任せでは済まされない?女性活用が進まない理由をデータで考える(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/43516534-20150224.html
■あなたの会社にもいるかもしれない?ビジネスメソッドマニアに気をつけろ!(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/40838018-20140914.html
■平均値をウソつき呼ばわりするのは、もうそろそろ終わりにしよう。  村山聡
http://sharescafe.net/39363307-20140614.html
■「飲み会は残業代出ますか?」と聞く前に新入社員が心得ておくべきこと 村山聡
http://sharescafe.net/38576145-20140430.ht

村山聡 中小企業診断士

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