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国税庁は22日、熊本で発生した地震に対応すべく「平成28年4月の熊本地震災害により被災を受けられた方への措置」を公表しました。

■被災した時の税金の申告はどうなるのか
大規模の地震があると家屋が崩壊し、今までの生活が送れないほどの状態になってしまいます。日本全国これだけ災害の多い国ですから、他人事ではありません。納税者の方も被災し、税務申告を考えるどころではなくなってしまいます。

このような災害になるべく早く対応し、納税者が安心して生活の復旧に取り組めるよう国の対応が重要になります。

5年前の東日本大震災は3月11日ということもあり、3月15日の確定申告期限があと4日と迫っていた時でした。本来であれば、税務署も一番忙しく対応に追われているピーク時の震災ということで、国税庁も4日後の15日付で国税庁長官から、申告期限の延長の地域の指定が早急に出されました。今回被災した地域の納税者も何ら手続きをすることなく、自動的に災害によって申告の延長が認められることになります。

■災害の止んだ日とは?
しかし、これは単なる延長の措置であって申告期限はいずれはやってくるものです。延長の終了は、国税通則法という法律の中で「災害の止んだ日から2か月以内の申告をすること」が定められています。災害の止んだ日とは、「申請者に特別な事情がある場合を除いて、客観的にみて、申告・納税等の期限延長の申請をした人が申告・納税するのに差し支えないと認められる状態に戻った日」と定められています。災害の止んだ日の指定があったらその2か月後までに被災者は期限内申告をすることになりますが、申告のできない状態であれば、さらに延長の届けを出す必要があります。

■東日本大震災における税務上の震災は終わっている?
では、どれくらい税務署が申告を延長してくれるか、前例(東日本大震災)を見てみましょう。東日本大震災が起こった時の税金の災害指定になった地域は青森・岩手・宮城・福島・茨城県の5県にわたる広範囲の地域でした。

未曾有の災害であり、被害は甚大なものでした。5年経った今でも震災での避難者は復興庁の公表で平成28年3月末で17万人います。まだ多くの人にとって震災は終わってない状態です。
そのような大規模な地震だったのにもかかわらず、税務申告のほうではかなりあっさりしたもので、「災害の止んだ日」として申告の延長が終了したのは、被災の比較的軽い地域で震災から3か月もたたない6月3日付で、青森と茨城県全域でした。ちなみに申告期限は約2か月後の平成23年7月29日です。

次に解除されたのは、盛岡市や仙台市といった岩手・宮城・福島の都市などで8月3日(以下申告期限;9月30日)、津波の被害の大きかった陸前高田市など岩手・宮城県の都市では10月17日(12月15日)、石巻市といった宮城県沿岸都市は翌平成24年2月3日(4月2日)、最後に残った福島の沿岸地域は平成26年の1月31日が災害の止んだ日となって報告されて申告期限は平成26年3月31日となりました。(実際は2か月後でなく、複数年の申告書提出のため、1年後の27年3月31日が申告期限)

もちろん申請の届け出があれば、最大1年延長をすることが可能です。あんなに甚大な被害があったのにもかかわらず、意外にも早い申告期限なのではないのでしょうか。

■申告は自分のペースでやればよい
期限の延長は自動的にできるものと、自主的に延長しなければならないものとあります。被災者の方も延長申請を上手に使って、国税庁が公表する申告期限は単なる目安として、ご自分で申告できるタイミングでそれぞれ申告できればよいのではないかと思います。被害の状態は人それぞれであって一つの物差しで簡単に決められるものではないからです。

天災は地震ばかりではありません。土砂災害、洪水といった災害なども多く一瞬にして資産や人命も失うこともあります。東日本大震災時のために25年間にわたって徴収され始めた復興税も平成25年1月1日から始まってまだ3年しか経過していません。これほど頻発する災害のために政府は、納税者の立場に立った税制を考えるべきですし、前例を生かしきれているとは言えないところもあるのではないでしょうか?

最後に今回の熊本地方を中心に被害に遭われた皆様及びご家族の方々に心からお見舞い申し上げます。現在も余震が続いていますが、被災地の復興を祈るとともに何より一日も早い復興を願うばかりです。

【参考文献】
■保育園の滞納問題。取り立ては年々厳しくなっている? (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/48230568-20160330.html
■確定申告の医療費控除の誤解。さらに広がる可能性あり? (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/47878546-20160221.html
■進化するふるさと納税。その課題とは。 (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/47646614-20160128.html
■配偶者控除は本当に女性の社会進出を阻んでいるのか?(浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/47252222-20151218.html
■相続税や消費税対策が将来の空き家問題を加速させる (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/47043297-20151128.html

浅野千晴 税理士

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