第5弾写真

売掛金のほとんどは国から回収するため、貸し倒れの危険はないそんな介護保険事業所。しかし、3年に一度介護報酬が改定され、5年に一度介護保険制度が見直されるため、介護事業所の屋台骨は数年ごとに揺らされる宿命を持つ。その上、就業希望者の減少によりここ10年は採用活動に四苦八苦している事業所が少なくない。

現場が回らずに、通常報酬が減少し、加算と呼ばれるプラスアルファの報酬を獲得していかないと経営が行き詰る状況となっている。これは、良い事業所は加算をとって生き残ってもらえればそれで結構、うまくいっていない事業所は退場して結構という政策そのものである。多様性があり地域の特性を生かした介護保険の事業所は社会のセーフティーセットを思われていたが、どうやら勝手が違ってきたようだ。

■介護保険制度の改正の歴史
身近に介護保険を利用している人がいないと正直まったくわからない介護保険制度。興味をもたれないといっても過言ではない。しかし、万一祖母・祖父が転んで骨を折って入院し、そのまま要介護状態となったために、両親が右往左往することはよくある光景だ。

制度がスタートしてから早16年目。これまでに数度の改正がされている。社会保障費の削減問題も裏にあり、徐々に利用できる人に制限がかかってきているようだ。あなたやあなたの周りの方が利用する時に、介護保険は利用可能なサービスであるだろうか。以下、その流れを追っていきたい。

■平成12年3月31日以前
介護保険制度が始まる前は措置制度という市町村が入所や利用を決定し、利用したい人の選択の余地はない仕組みだった。介護事業所は、市町村から利用者が斡旋されるため、競争が働かない市場の中にどっぷりと浸る状況だった。

しかしそれを許さない現実があった。2000年から2060年までの間に65歳以上の高齢者人口は20%から40%へと一気に増える。当然に介護を必要とする人が爆発的に増加することは誰の目にも明らかであった。
第5弾(3)

出展:内閣府 平成26年版高齢社会白書

これを解消するために、第一に受け皿となる介護事業所の数を増やすこと、そして市町村が斡旋していては窓口がパンクしてしまうので、第二に民間にその窓口を開放すること、第三に利用者に自由に選んでもらい競争を働かせて介護の質の向上を図ることが必要になった。

■平成12年4月1日 制度スタート
国民の期待を一身に背負い介護保険制度が始まる。同時期に成年後見制度もスタート。介護保険制度は、利用者の意志に基づいてサービスの利用が始まるため、契約が必要となる。認知症など病気のために個人の意志表示が困難な方をサポートするため成年後見制度はどうしても必要であったる。本人になり替わって契約にサインをするのは成年後見人である。

以下の図は、要介護者・要支援者の推移である。高齢化が進み介護を必要とする人が増え、介護保険が制度として支えてきたことが伺える。
第5弾(2)

出展:内閣府 平成26年版高齢社会白書

■平成17年改正(平成18年4月1日施行)
介護状態にならないように介護予防が重視され、要支援1,2が創設された。予防事業については、地域包括支援センターが実施することになった。地域包括支援センターは、全国に4,328か所が設置済み(H24年4月現在。厚生労働省ホームページより)。地域包括支援センターの支店や出張所を合わせると設置数は合計7,072か所にのぼる。

特別養護老人ホームなどで生活する高齢者の食費と居住費が自費になった。自宅で暮らす高齢者との均衡を図るという理由によるものであるが、利用者にとっては寝耳に水の値上げそのものであった。施設では説明会を開くなどしてその説明に追われた。

■平成20年改正(平成21年5月1日施行)
介護事業所に対して、法令順守を含めた業務管理体制の整備を求める改正が行われた。このあたりから、厚生労働省は介護事業所に対して質の向上を要求し始めたと考えられる。

質の向上のためには、何も新しいことをしなくても獲得できる通常の報酬を下げ、がんばらないと獲得できない加算をいくつも設定すれば良いだけである。しかし、介護スタッフの獲得が難しい状況になっており、資格者が確保できなければ介護事業所は加算を獲得できない。質の向上を目指したい介護事業所のジレンマが始まる。

■平成23年改正(平成24年4月施行)
地域包括ケアの推進を実施。具体的には施設という箱ものではなく、自宅での生活が継続できるように、24時間対応の訪問介護や訪問看護の連携を推奨するものである。複合型介護サービスとして介護報酬のラインナップに新たに創設された。

サービスの質の向上として、介護スタッフによる痰の吸引が可能になった。背景として、そもそも医療行為であったため、介護現場では看護師しか対応できないことになっていた。しかしそうなると看護師の勤務時間にしかその処置はできなくなる。結局は、なし崩し的に解禁されたものと思わざるをえない。

■平成26年改正(平成27年4月1日施行)
地域包括ケアシステムの構築と費用負担の公平化を実現するために改正が行われた。具体的には、平成17年改正で創設された介護予防を平成29年度末までに介護保険から市町村の地域事業に移行するというものである。

つまりは、介護保険は使えないということになる。今回の改正からいよいよ介護保険が保険ではなくなりはじめた。市町村が同様のサービスを提供することになるが、財源は市町村次第となるので、料金が上がるか、量や質を落として同程度の料金で継続するかという瀬戸際になりかねない。

地域という意味では、介護サービスの提供をボランティアやNPO法人にその役割を期待している。介護福祉業界は、そもそもボランティアに助けてもらう部分が多かった。それはお互いさまという気持ちや何か貢献したいという個々人の自発的な気持ちによるものである。しかし、制度自体が人の気持ち前提で設計されることは不自然に感じる。

例えば、働く世代が会社を休んでまでボランティアができるか言われれば難しいであろう。年に単発で数回程度であればそれも可能であろうが、制度で組み込まれれば定期的にボランティアを行うという話になる。単なるそこにいるだけのボランティアから介助ができるボランティアへと変化を要求されることだって想定される。

ボランティアと仕事の両立、もちろん、自分の子育てや親の面倒だって見なくてはいけない。これからの生活は心構えだけでもしておかないと一寸先は闇となる。

■今後の改正に向けて
社会保障費の削減は今後も長い間求められる。厚生労働省が発表している高齢者の推移表を見る限り2060年でも高齢者は人口の40%弱を占める。その時の現役世代は人口の50%に満たない。つまり、社会保障費は一人の現役世代が一人の高齢者を支えることになる。給与から今まで以上の高い割合で厚生年金や所得税など天引きされる可能性は十分に予想される。そして、お金だけではなく、ボランティアという肉体的な貢献が余儀なくされるであろう。

平成26年改正で介護保険制度の目玉であった介護予防である要支援1,2が切り離されたが、今後は要介護1,2についても切り離される可能性も考えられる。本当に重度化した高齢者は利用できるが、そうでなければ家族に託す、地域のボランティアに託すということになってしまう。私が心配する介護保険が保険でなくなる事実の根拠はここにある。

仕事に脂がのりいい感じになった40歳代に、突如、世間を騒がせている介護離職問題が自分の問題となって突きつけられたら。いままで他人事だと思っていた介護が、いざ自分の身に降りかかった時に介護保険ってこんなに使い勝手の悪い制度だったのかとならないように改正の行方をしっかりと監視してほしい。

来たる平成30年4月に医療と介護報酬の同時改訂が行われる。制度の改正ではないにしろ、介護報酬が見直されるるため、介護事業所にとっては痛い改訂である。

【参考記事】
■元特養事務長が教えるより良い介護施設の見極め方(藤尾智之 税理士)
http://sharescafe.net/47893238-20160223.html
■介護保険は保険ではない ケアマネジャーと上手に付き合う方法 藤尾智之 税理士
http://sharescafe.net/35169456-20131126.html
■介護保険は保険でなはい 「親の介護は老人ホームにお願い」は甘い考え 介護保険を考える(1) 藤尾智之
http://sharescafe.net/35018841-20131120.html
■押し売りも怖くない!成年後見制度で財産を守ろう 藤尾智之 税理士
http://sharescafe.net/36033856-20131230.html
■場外ホームランを打つよりこつこつ送りバントが本流!? 年末までにやりたい節税対策 (藤尾智之 税理士)
http://sharescafe.net/47003543-20151125.html

藤尾智之 税理士 介護福祉経営士

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