■経常収支は一国の経済バロメーター? 昨日2016年1-3月期の実質国内総生産(GDP)が前年比で1.7%プラスと発表されました。 GDPはいわば国の稼ぐ力を表した指標であるため、昨日の党首討論でもGDPデータを使って“消費税増税延期”が議論されていたわけですが、実はGDP以外にも日本の稼ぐ力を表す重要指標があって、GDP発表に先んじて先日5月12日に発表されていました。 それが、海外との経済活動(貿易や投資)を通じて、国の年間のお金の出入りを表す経常収支です。 日本の経常収支は、東日本大震災以前までは黒字でした。震災以降は資源不足のために大きく輸入に依存する立場からしばらくの間経常収支赤字が続いていたのですが、2015年度の経常収支は前年と比べて約2倍超の黒字となったようです。一方で、経常収支の一部である貿易収支(輸出-輸入)も前年の赤字から、今年は6299億円の黒字となりました。1980年以来約30年近く黒字を続けてきた貿易収支が、2011年に突然赤字に陥ったことはかなり衝撃的な出来事だったと思います。 ただ、貿易収支は非常に大事な指標である一方で、世間のイメージにもなりつつある「貿易収支赤字=日本経済に悪」は必ずしも正しいとは言えないのです。 ■世界一の対外純債務国がなぜ たしかに、輸出額より輸入額のほうが多くなれば、対外的に借金をしているのと同じことなので将来支払ができなくなるかもしれないという懸念はあるでしょう。しかし、それだと貿易収支赤字が長年拡大するアメリカについて説明ができなくなります。 消費大国アメリカは毎年輸出よりもはるかに多く輸入していますが、輸入が国内総生産にとってマイナス要因にも関わらず、2000年以降(2007年と2010年を除き)、経済成長率は日本と比較しても高い数字となっています。もちろん、経済成長は貿易収支の動向だけで決まるものではありません。しかし、その貿易収支赤字が積み重なり、今では世界一の対外純債務国が、継続して成長するためのカラクリがあるような気がします。 この点、日本はアメリカから学ぶべきことがたくさんありそうです。 ■アメリカ流 対外純債務の返済方法 アメリカは現在国内総生産でも世界1位を維持しています。そのため抱える借金も多いのですが、返済しなければならない元本の大きさより利息が返済されるかどうかのほうがまず大事です。破綻(デフォルト)と呼ばれる事象は国が利息を払えなくなった時点で発生するルールになっているからです。 アメリカのように“毎年”の貿易収支赤字のせいで対外債務額が増えるケースでは、通常その利息の支払いを担保するために財政が悪化することになります。ただ、CBO(米議会予算局)の数字を見ると、直近で2003年から2008年、そして2010年から現在まで貿易収支赤字が増え続けているにもかかわらず、財政赤字は減り続けているのです。アメリカの貿易収支赤字や対外債務の拡大は、国が破綻するような影響を与えるほどではないのかもしれません。 ただ、どうして負債である対外債務は増えても、財政に頼らずに、その利息支払いを滞りなくおこなうことができるのでしょうか。そのヒントがアメリカの対外債権(資産)とその受取利息にあります。 アメリカの直近の支払利率と受取利率データを計算してみることにします。 ■(直接投資>証券投資他)=自給自足 経常収支内には貿易収支だけでなく、サービス収支、第一次所得収支(旧所得収支) そして第二次所得収支(旧経常移転収支)があり、ここでは第一次所得収支内の“直接投資”に焦点を当てていきます。というのは、“直接投資”が大きく受取リターンに影響があるためです。第一次所得は他にも“証券投資”や“デリバティブ”などがありますが、証券投資はリターンが爆発的に稼げるものではありませんし、デリバティブも資産と負債で性質が違うものなので除外して考えていきます。 以下の表はアメリカが保有する対外資産と対外債務を区別し、そこから派生する受取利息と支払利息を出し、その利率を求めたものです。 ★2015年3Q USの直接投資比較★ さて、注目するべき“直接投資”ですが、直接投資の債務(負債)に対する支払利率は低位(1.8%)に抑えることができている一方で、直接投資の債権(資産)からの受取利率は非常に高い(4.8%)ことがわかります。 非常に単純な話なのですが、アメリカは直接投資で海外から稼ぎだし、利息支払いをカバーしているわけです。 ■日本も目指すべき直接投資の魅力 対して日本の対外純債権・債務とその受取と支払の関係が以下のとおりです。 ★2015年度 日本の直接投資比較 (但し、資産負債のデータは2014年末のデータ)★ 中身をみると資産側の証券投資が46%である一方で直接投資は16%ほどでしかありません。アメリカの直接投資29%と比べるとまだ差がある気がします。 そして何よりも受取利率(7.9%)よりも支払利率(11.9%)のほうが高い。アメリカと正反対です。 「日本の対外純債権が世界一」と大きさだけが報道されてしまっていますが、このデータ分析からだとリターンをあまり生まない資産を多く持っていると解釈することもできるのです。 リターン率の向上のためにも日本の取るべき戦略はリターンの高い直接投資をさらに推し進めることだと思います。 世界一の対外純債権国というアドバンテージを持っておきながら、世界一の対外純債務国にリターンで負けることがないよう、日本の稼ぐ力に期待したいと思います。 《関連記事》 ■"新"第三の矢をへし折る消費税増税のシナリオ (JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師) ■日本人が持つべき英語力向上に必要な"日本語力" (JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師) ■アベノミクスが対峙する「生産性向上ができない日本の"特殊"事情」(JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師) ■"あの"時の英国を彷彿させる中国経済の今(JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師) ■東芝粉飾会計「日本型不正会計はこうやって止める」(JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師) JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師 ツイート ![]() シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |