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燃費不正データ問題が表面化した三菱自動車に続き、スズキでも全車で燃費の不正測定があったことが明らかになりました。スズキのケースは、国が定める実走試験を行わず、室内で計測できるデータのみを組み合わせて提出していたとのことです。

自動車メーカーでなぜ不正が相次ぐのか、また三菱自動車のように不正が繰り返されるのか。今日はその理由と改善策を考えたいと思います。

■ゲーム理論で考える不正の原因
ありていに言えば、自動車メーカーが不正を行うのは、「不正を行った方が自分にとってトク」だと思っているからです。この「自分にとってトク」という表現は、経営者にとっては「自社の利益が増える」「販売競争に勝てる」、データ測定を行う現場にとっては「仕事の手間が省ける」「会社から評価される」といった意味になります。

これを簡単な利得表にしてみましょう。図1は、経営者・現場とも、燃費データを正しい方法で正直に申告するよりは、不正をした方がトクだ、思っているケースの利得表です。

図1


カッコ内の数字は、左側が経営者の利得、右側が現場の利得を表します。例えば、経営者が正直に申告することを選択した場合、現場は正直に申告した場合の利得0と、不正に申告した場合の利得1を比べ、利得の大きい不正申告を選択します。また経営者が不正申告を選択した場合も、現場は正直に申告した場合の利得0と、不正に申告した場合の利得1を比べ、利得の大きい不正申告を選択します。これは経営者と現場の立場を入れ替えても同じ結論となるため、両者にとって「不正申告」が最適な選択となります。

これは、経済学のゲーム理論で「ナッシュ均衡」と呼ばれるものです。ちなみに、ナッシュとは映画『ビューティフル・マインド』のモデルとなった数学者、ジョン・ナッシュのことです。

ここで、今回不正を追及されたことを契機に経営者が改心して、「やっぱり正直に申告した方がトクだ」と考えたとします。すると利得表は図2のようになります。

図2


この場合、確かに経営者の利得は、現場が正直に申告、不正申告どちらを選択したとしても1対0で正直に申告する方が大きくなります。しかし、現場の利得は、経営者が正直に申告、不正申告どちらを選択したとしても、依然として0対1で不正申告の方が大きくなります。この結果、経営者は「正直に申告」を、現場は「不正申告」を最適戦略として選ぶことになり、ここでナッシュ均衡が成立します。つまり、現場に不正申告の温床が残るということになってしまいます。

■不正を断つにはどうすればよいか
不正を断つ方法は2つ考えられます。ひとつは、経営者と現場がお互い歩み寄って、「やっぱり正直に申告した方がトクだよね。ウソつくのはソンだよね」というコンセンサスを作ることです。これを利得表にすると図3のようになります。

図3


これだと、お互いに正直に申告することが最適戦略となり、ここでナッシュ均衡が成立します。

ただ、私はこれは「言うは易く行うは難し」だと思います。そもそも、正直に申告する方が良いとは分かっていても、メリットがあるから不正に手を染めるわけです。経営者は社会から糾弾されて不正申告のデメリットを感じたとしても、現場が同じ危機感を共有するとは限りません。むしろ、「上層部は危機感を煽るだけで何もしてくれない」という不満を現場に生み、かえって不正を行う誘因を高めてしまう可能性もあります。

■現場の不正申告の利得を下げる
そこで、もうひとつの方法は、「不正を行うことが現場にとって不利になる明確な仕組みを作る」ということです。これを利得表にすると図4になります。

図4


これだと、経営者が正直に申告、不正申告どちらを選択した場合でも、現場は0対-1で利得の大きい「正直に申告」を戦略として選び、一方経営者は現場が正直に申告、不正申告どちらを選択した場合でも、1対0で利得の大きい「正直に申告」を戦略として選びます。その結果、両者にとって「正直に申告」が最適戦略となり、不正が行われない組織を作ることができます。

具体的に現場の不正申告の利得を下げる方法としては、
・いかに燃費改善率や測定スピードが向上する提案であっても、法令順守の裏付けが取れないものは採用しないことをルール化する。
・燃費改善率や測定スピードの評価ウェートを下げ、法令順守の評価ウェートを上げる。
・不正が判明した場合のペナルティを明文化・厳罰化する、
などが考えられます。

理想を言えば、今回の事態で経営陣と現場が危機感を共有し、ともに手に手を取り合って業務改善に向かうことがベストだと思います。しかし現実は、そのような性善説に立った解決より、「人は不正に手を染めるもの」という性悪説に立って、不正に走るのはソンだよ、というシステムを作って淡々と、かつ厳格に運用する方が効果は高いのです。結局、そうすることが会社の本気度を現場に伝える最も良い方法になるのです。

【参考記事】
■世界一の債務国から学ぶべき日本の稼ぐ方法 (JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師)
http://sharescafe.net/48635480-20160519.html
■不適切会計で需要増なるか? 注目の公認不正検査士とは カイケイ・ネット
http://sharescafe.net/48631866-20160519.html
■就職内定率は6年ぶりの水準に! 企業法務で雇用拡大は可能か? リーガルネット
http://sharescafe.net/48614998-20160516.html
■「相関係数」で占う、2016年ペナントレース (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48481593-20160429.html
■「町工場の星」に学ぶ 人の育て方、リーダーのあり方~【書評】ザ・町工場―「女将」がつくる最強の職人集団(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48530974-20160506.html

多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所

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