■企業が儲かっているなら昇給できる? 5月も終わりですが、今年は昇給されましたでしょうか?見事に昇級された方もいれば、年収据え置きの会社や賞与で補正する企業や、景気の上向きムードがあっても企業によっては業績悪化の会社もあるでしょう。シャープのように経営母体から変わってしまえば、国内景気とは関係なくリストラが行われますし、企業によっては大幅減益で減給もありえないわけではありません。 そもそもいざなぎ景気だろうが、バブル景気だろうが、業績不振で倒産する会社はあったわけですから、どんな時代であっても全ての企業がもれなく成長することはあり得ないし、いつの時代でももれなく全員が昇給するような時代は昔から元々無いわけです。 ここ数年でも、高級志向の高付加価値商品を扱う会社も、一般大衆向けの商品を低価格で取り扱う会社も、企業向けサービス提供の会社でも倒産している例が多数あります。業種的にも斜陽産業というような産業ではないはずの企業であってもです。倒産まで到った経緯も様々で、景気と関係あるケース、経営者に問題があったケース、トラブルに巻き込まれたケース、元々儲かっていなかったケース等。その企業が生き残っている間は、傍から見て想定もできない事が既に内部では起こっている場合があるのです。 いい企業でも様々な要因で企業経営は突然悪化する場合がありますし、また既に悪化しているのに外見では健全を装い、そこに従事する従業員ですら悪化している事に気づいていない場合もあります。本来なら株式会社であれば、決算書の公開がされているはずですが、公開された決算書が本当か嘘かを判別する事は、普通の人では難しいことです。また、たとえ明確に違法でなくても関連会社や同族会社との取引でごまかしている場合だってあるからです。 ですから、うわべの会社の業績がいいので昇給を期待していたら、突然減給される場合だって無いとは言えません。もちろん個別の減給は明確な理由な無い限り安易に減給とかできるわけではありませんし、全体的な減給を行えば企業全体のモチベーションが低下するのはもちろん、有能な従業員が辞める場合もあり、それらが破滅に拍車をかける場合があるわけですから、減給の処置は思うようにはなかなか使えないものです。 ■業績も景気も関係なく最低賃金は上がります さて、ここ近年の兆候として大きく目を見張るのが最低賃金の上昇です。最低賃金は昨年度大幅引き上げになり、全国加重平均で798円となりました。10年前の全国加重平均は668円ですから、10年で130円上昇していることになります。10年間で約16%上昇していることになります。ちなみにこの場合の加重平均とは、労働人口の多い少ないといった条件を考慮した平均です。 一方物価はどうかというと、1991年を基準にしても、25年間5%の範囲で増減している状況です(平成26年現在は1991年比1.023)。物価が上がっていないのであれば、単純に1品当たりの単価を上げるのは難しい。そこで最低賃金が上がっているということは、特にパート・アルバイト主体の企業は、売上点数を上げる・経費を下げる・仕入れを下げる・人数を減らすといった行動を取らなければ、会社が赤字になってしまいます。 最低賃金に近いパート・アルバイトでさえこの状況で、社員の給料も上げるとなれば、今までと違う何らかの利益が上がる仕組みが絶対に必要になってきます。同じやり方をずっと続けているということは、利益はただ下がり続けるだけを選ぶか、社員の昇給を永遠に待ってもらうという非情な選択をするしかないということです。 ■最低賃金が上がっても昇給が無いということは 最低賃金が上がっても、昇給がないということは、一部の高給取りを除いた労働市場全体から言うと、給料が目減りしている事になります。たとえば最低賃金850円のエリアで時給900円のアルバイトで採用された方の場合に、最低賃金が15円上がると、最低賃金で働いていた会社のアルバイトさんは17%も昇給することになります。この調子で翌年も15円上がると最低賃金は880円。最初は900円は高いと思って働いていた方も、最低が880円まで上がってくると、そんなに高いと感じなくなってきます。 つまり最低賃金が上がった時給単価分ぐらいは昇給しないと、世間一般の相場が上がっている分割安賃金になっていつかは取り残されることになります。社員と比較しても、時給1000円のアルバイトで採用された場合、フルタイムで週40時間働くと、週に4万円稼げます。月に4週しかないとした場合でも、160,000円は月に稼げるわけです。すると月給160,000円はそんなに高くないことになります。深夜労働なら1.25倍なので、20万円ぐらいは時給生活でも稼げることになります。 ■様々な働き方が選択できる? 最低賃金の上昇は、企業の革新を余儀なくさせますが、労働者にとっては、ある程度の月額目標賃金を定めた中で、通常の生活をするのに必要な「稼ぎ方」の選択肢は、社員だけでなく多様性が出てくることになります。最低賃金が上がらなかった年は今まで一度も無いので、黙っていてもある程度の昇給は見込めます。それならむしろ時給の待遇の方がよかったりするでしょうか? ただしこの大前提は、物価が上がらない場合です。ここ25年はほとんど物価が上がっていない状況で、最低賃金が上昇してきたのでこうした考え方もあり得る話になってきましたが、今後も物価が上がらない保証はありません。むしろ国の方針はゆるやかなインフレを目指しています。 フルタイム労働で16万円稼げばある程度満足だと思っていても、物価が急に上がれば、そんな話も無くなってしまいます。物価連動型で社員は給与を上げて引きとめようとする可能性は高いですが、その恩恵はパート・アルバイトまで回ってくるかは疑問です。なぜなら、今までの昇給が最低賃金上昇の影響によるものであって、企業の利益配分の上で昇給したわけではないからです。 物価が上がらず最低賃金が上がり続ければ、どうなるでしょう。最低賃金切り下げは、世界的にも前代未聞なので可能性が薄いでしょう。とすると、企業の革新より賃金が上回る事による倒産ラッシュか、物価の突発的な跳ね上がりでしか解決策が生まれないようになるでしょう。 すると最低賃金をもっともっと上げ続ければ、きっと物価も自然と上昇していくはず。そこで円高是正をしておけば、輸入に頼った低価格戦略もできなくなる。そういったことを見越した最低賃金上昇なのでしょうか。近年の上がり具合に関して、合理的な理由があまり感じられない部分もあるのですが、前にお話した社会保障財源も最低賃金上昇で解決することを考えれば、大衆の喜ぶ政策のようで、実際はそういう部分だけでもない事が見えてくるような気がします。 【参考記事】 ■最低賃金を1,000円にすると、社会保障の財源が安定化する?(原田 雄一朗 社会保険労務士) http://sharescafe.net/47021796-20151126.html ■東京と地方で最低賃金が200円も違うのは当然のことなのか? (榊 裕葵 社会保険労務士) http://sharescafe.net/40989588-20140924.html ■最低賃金1500円を要求する人たちが勘違いしていること。(中嶋よしふみ SCOL編集長・FP) http://sharescafe.net/47839310-20160217.html ■最低賃金と消費税(原田 雄一朗 社会保険労務士) http://cop099.blog.fc2.com/blog-entry-189.html 原田 雄一朗 社会保険労務士 ツイート ![]() シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |