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現在、日経ビジネスオンラインに『オレの愛したソニー』と題する連載が掲載されています。これは、1980年代~90年代のソニー黄金期を知る経営陣OBが、当時を振り返るのと同時に古巣の現状について思うところを吐露するインタビュー記事です。

これまでに登場したのは、ソニー・ミュージック・エンターテインメント元社長の丸山茂雄氏、ソニー本社初代CFOの伊庭保氏、元副社長の大曾根幸三氏です。連載のテーマが、「かつて光り輝いていたソニー・ブランドはなぜ凋落したのか?」ということなので、三氏の言葉も勢い厳しいものになっています。

■逃れがたい「官僚制の逆機能」
三氏が異口同音に指摘するのは、「大賀典雄氏が社長だった90年代半ばまでは創業時のスピリッツが残っていたが、出井伸之氏が社長に就任して以降、組織が硬直化してダメになった」ということです。確かに、1994年にプレイステーションを世に出して以降、ソニー発のイノベーティブな製品は生まれていません。

これは組織論でいうところの「官僚制の逆機能」という状態を表しています。組織にはライフサイクルがあり、誕生期から成長期にかけては分業体制の構築や業務手順のルール化など、官僚化が進みます。これはむしろ必要なことで、官僚化されることで管理体制が効率化し、業務遂行がスムーズに行われるようになります。

しかし、組織が肥大化し、ライフサイクルの成熟期を迎えるころになると、官僚制による弊害が出てきます。これが「官僚制の逆機能」です。典型例は、稟議や社内手続きに時間がかかって意思決定が遅れる、現場の面白いアイデアが上層部の無理解によって潰される、といったことです。三氏の話の中にも、これに類するエピソードが登場しています。

大企業と呼ばれるまでに成長した組織なら、官僚制の逆機能はどこも経験することです。これを克服するためには組織の活性化が必要で、その手段として、小さいことでは社内ベンチャーやプロジェクトチームの立ち上げ、大きいことでは事業売却やM&Aによる事業ポートフォリオの入れ替えなどを行います。

ソニーと同じ電機メーカーでは、車載システム事業を稼ぎ頭にまで成長させたパナソニックや、重電事業から情報インフラ事業への業態転換に成功した日立などは、官僚制の逆機能を克服した例と言えるでしょう。

■なぜ「SONY」だけが特別なのか?
公平を期すために言えば、ソニーも時代の変化とともに組織変革を行っており、その成果も出しています。ご存知の方も多いでしょうが、現在のソニーの事業ポートフォリオの中心は金融・ゲーム・音楽事業で、営業利益の8割をこの3事業で稼ぎ出しています(セグメント間取引消去前、2015年度)。低迷していると言われていた業績も、2015年度は約3,000億円の営業黒字となっており、回復の兆しが見えています。

それでも、パナソニックや日立の業績向上が「V字回復」と評価されるのに対し、ソニーの経営にはいまだにネガティブな評価がついて回ります。この要因には、2年前に業績の下方修正を繰り返したことによる株式市場からの信認低下という側面もありますが、もっと根源的な理由があると私は思っています。

それは、なんだかんだ言って「デバイスのヒット商品を生み出せていない」ということです。今回の日経ビジネスオンラインのインタビューに登場する各氏が活躍していた80年代、ソニーは「ウォークマン」や「ベータマックス」といった新時代の到来を予感させるクールな商品を出し続けていました。当時10代だった私は、それらの商品のことを知るたびに、単純な「その商品を欲しい」という感情を超えた、心が震えるような感動を覚えた記憶があります。

この感動は、当時ナショナルと言っていた松下電器=パナソニックの商品や、日立の商品では味わえなかったものです。だから、両社の商品にはまったく思い入れがありません。思い入れがないからこそ、危機を乗り越えて達成した業績回復を素直に評価できるような気がするのです。

一方、ソニーが業績回復したと聞いても、「保険屋やゲーム屋で稼ぐのもいいけど、ちゃんとモノ作りもやって、昔みたいにカッコいい商品作ってくれよ。でなきゃ評価しないよ」という感情が出てしまうのです。

本稿のタイトルは、先ごろライブ活動からの引退を表明した氷室京介の最後のライブツアーに合わせて開設された、メッセージ投稿サイトのタイトルをもじったものです。80年代のロック・キッズが、氷室京介が歌い続ける限り「BOØWY再結成」の夢を見るように、80年代のテクノ・キッズも、ソニーがデバイスを作り続ける限り、再び世界中の人が「SONY」ブランドの虜になる夢を見ているのです。

これって、バブル世代の儚いノスタルジーなのでしょうか?

【参考記事】
■「日ハム新球場」構想は実現するのか? (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48692713-20160526.html
■『笑点』の新司会者選びを関係性マーケティングの視点から検証する (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48677956-20160524.html
■自動車メーカーが不正を繰り返す理由 (多田稔 中小企業診断士)
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■「相関係数」で占う、2016年ペナントレース (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48481593-20160429.html
■「秀才」の舛添都知事はなぜ愚行に走ったのか (多田稔 中小企業診断士)
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多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所代表



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