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5月末の報道によると、厚生労働省から発表された今年4月の求人倍率は1.34倍、1991年11月以来、24年5カ月ぶりの高水準となったそうです。(日経新聞夕刊 5/31付け)

転職市場が活気を示すなか、転職を考えご自分の経歴を振り返る人も多いのではないでしょうか。しかし誰もが輝かしい経歴を誇れるわけではありません。程度の差はあれ、隠したり、盛ったりしたくなる部分があるものです。では職務経歴書はどこまで盛ることが許されるのでしょうか?

■なぜ経歴に嘘をつくのか
私は年間200名ほどの転職希望者と面談の機会があります。経歴書に虚偽の記載をされる方は決して多くはありませんが、そうされる理由は、書類審査が通らずなかなか希望の仕事につけないからという場合がほとんどです。

転職回数が多かったり、ブランクがあったり、短期でやめてしまったことがあったり…そうした経歴が「傷」となっているからと考え、「短い勤務歴を記載しない」「隠しておきたい過去の勤務先について別の会社に勤務していたと記載する」といった方法で糊塗しようとします。

しかし職歴を記載せずにいると、その期間は職務経験のないブランク期間と思われかえって不利になります。またそれをカバーしようと、別の勤務先での勤務期間を実際より長くすることは、経歴詐称と見られます。

職務経歴書では、職歴は期間に関わらずすべて記載すること、かつ、ブランク期間に何をしていたかを書くことは大原則です。

■事実はありのままに記載することを勧める理由
転職活動をスムーズに進めたいと、経歴に事実とは異なることを記述しようとする気持ちはわからなくはありません。しかしそれでも事実をありのままに書くことを強くお勧めします。なぜなら嘘をついてもそれが明らかになる可能性が高く、またその時の代償が大きいからです。

書類はうまく書けたとしても、面接での態度で、結局採用に至らないケースも多いようです。嘘をついているという後ろめたさから、明確な答えができなかったり目をそらしたりといった態度が知らず知らずのうちに現れてしまうこともあります。そうなると、嘘そのものは隠しおおせたとしても、面接で高い評価を得ることは難しくなります。

採用試験をうまくやりすごしたとしても、リファレンスチェックといって、内定者の前勤務先に、経歴に間違いないか、人物に問題ないか、照会をかける場合もあります。入社時に提出する雇用保険関連の記録から、これまでの勤務歴が明らかになることもあります。

経歴上の嘘が明らかになった場合のペナルティは大きく、最悪解雇という事態になりかねません。入社候補者から示された経歴が、採用ポジションの能力評価や組織内の位置づけに影響する場合は、『解雇が可能』とされることもあります。

「そのポジションにふさわしい実力があればよいのでは」という意見もあるかと思います。しかし、実力云々の前に、「嘘をついた」ことに対する社会的なペナルティが非常に大きいのは、最近の経歴詐称の事件を振り返っても明らかでしょう。学歴詐称と言われたニュース番組のコメンテーターの例では、「学歴はともかく実力があるから」という弁護の声もありましたが、「嘘をついた」という批判の声にかき消されてしまいました。

仕事というものが個々人の信頼関係をもとに成り立っている以上、「嘘をつかない」ことが雇用関係の大前提となるからです。働き続けられたとしても、「嘘をついた人」という評判の中で働き続けなければなりません。

■嘘をついて一番つらいのは「自分」
経歴詐称したうえで希望の会社に入社できたとしても、一番つらい思いをする可能性が高いのは、実は「自分」です。「嘘をついて入社したけれど、つらくなったので辞めたい」と相談してくる方は少なからずいます。

ある20歳代後半の男性のAさんは、大学卒業後、契約社員や派遣社員としてサービス業界を転々としてきたのですが、30歳を目前に安定した正社員の身分で働きたいと転職活動を行い、無事に希望通り正社員として採用されました。

正社員としての採用の決め手となったのは、契約社員として働いていた前勤務先のカラオケボックスでの経験だったそうです。接客だけでなく調理経験があることが評価され、転職後はチェーンの一店舗の副店長を任されました。

しかしカラオケボックス店での調理といっても、正式な担当がいない時にごくたまに行い、それも既に調理加工されたものを温める程度のものだったとか。また勤務期間も実際より長く記載し、ブランク期間をカバーしていました。

「仕事の大変さよりも、いつ経験不足がばれてしまうかと気が休まることがないのが一番つらいです…会社に対してもお客様に対しても、いつもびくびくしています」と語るBさん。せっかく希望通りに正社員になったのに、半年足らずで転職を考えるようになったそうです。

「経歴」を盛ろうと考えた理由をもう一度、思い返してください。「長く働き続ける環境を得たい」ということではなかったでしょうか?嘘をついて入社したことで、かえって働き続けるのが難しくなってしまったとしたら、それは本末転倒です。

■不利な経歴をカバーする方法
経歴書に事実と反することを書く盛ることのリスクについて述べてきました。では、転職に不利と思われる経歴を持つ人は、それをカバーするにはどういたらよいのでしょうか?虚偽の職歴の原因となることが多い「勤務期間が短い」「転職回数が多い」「ブランク期間がある」ケースについて考えてみましょう。

まず、相手が納得できる相応の理由を述べることです。たとえば転職の数が多い場合、会社の事業縮小や倒産など、自分の努力ではいかんともしがたい場合があります。また「入社時に提示された条件と実態は著しく異なった」、「コンプライアンス違反ぎりぎりの営業手法に疑問を感じて」と、など、退職に至ってもやむを得ないと思われるような理由もあります。不運なことに、そうしたことが続いたために、短期間で転職を繰り返さざるをえない事態に陥った方も少なくありません。

また、ブランク期間が長い場合についても、いたずらに隠したり実際より短く見せたりしようとはせず、まずはそうなってしまった事情を整理し、やむを得なかった事情を伝えることをお勧めします。

転職回数が多い、ブランク期間が長いという事実自体が転職には不利だと思い込み、その事実そのものを隠そうとされる方も多いのですが、相手も納得できる理由があれば、不利な状況を払拭できることも十分にありえます。

■ネガティブな転職理由をポジティブに転換する
では、どう頭をひねっても、「自分の転職理由は、他人がみて納得できるものではない」という場合はどうしたらよいでしょうか?典型的なものは人間関係や上司への不満などです。

そういった場合、退職に至った直接の要因そのものより、転職によって何を実現したかったかを書くことをお勧めしています。新しいキャリアに向けての前向きな姿勢をアピールできるからです。

ある40代前半の男性Bさんは、営業職として優秀な成績を収めていましたが、既に4社の勤務経験があり、また転職しようと相談にいらっしゃいました。年齢から考えても、5社目の転職は難しいところでした。過去の転職の経緯は、事業部門の解散など、いたしかたないところもあったのですが、「人間関係が悪化した」というのが何度かあったことが気になりました。

よく聞いてみると、上司の営業方針に納得いかず、抗議したことで人間関係を悪化させてしまい退職に至ったことが何度かあったそうです。お客様との継続的な信頼関係を重視し、それによって成果をあげてきたBさんにとっては、新規顧客開拓重視の方針が打ち出された場合、これまでの自分の努力を軽視しているように思え、つい上司に反発してしまったとのこと。

転職を考えるに至った直接の理由は「上司との人間関係の悪化」でした。では、今の会社を辞めて何を実現したいかを考えると「既存顧客営業で自分の力をもっと活かしたい」ということに気が付きました。また新しい会社を選ぶ上で、単に「営業職」としてだけではなく、特に既存営業を重視している会社を選ぼうと、方向性も明確になったのです。

「いやなこと」を避けることだけを追い求めると、同じ理由で転職を繰り返しがちです。「何を実現したいか」と発想を変えることで、自分のキャリア上の軸が明確になり、転職の成功確率を高めることができます。

■事実は盛らない、事実の意味合いを盛る
「経歴」とは自分がどうやって成長してきたかの足どりのようなものです。それを隠すということは、今の自分自身を否定することになりかねません。転職回数や勤務期間の短さという事実以上に、自分を肯定できないことが相手に伝わり、採用につながらないとも考えられます。

過去への後ろめたさを払拭するには、なぜ転職をしたのか、そこから自分はどんな学びをしてきたのかを整理し、ご自分自身がその経験から学んだこと、自分にとっての意味合いを捉えなおすことが重要です。

転職回数や勤務期間の短さがボトルネックとなるのは残念ながら現実です。それは個人一人の力ですぐに何とかできるものではありません。また、過去の事実は変えられません。しかし、過去の経験で自分が何を学んできたのかを伝えることで、今の自分の力がどういったことで培われたのかを裏付けることができます。「事実は盛らないが、事実の意味合いは盛ることができる」というのが職務経歴書を書く上での原則といえるでしょう。

朝生容子 キャリアコンサルタント・産業カウンセラー

【参考記事】
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