都庁

東京都の舛添知事は、6月6日の午後4時から都庁で記者会見し、政治資金を私的に流用したなどの疑惑について、自身が第三者に依頼した調査結果を公表しました。会見には調査に関わった弁護士2名が同席し、一部に不適切な支出があったが、いずれの支出も違法性はないとの見解を示しました。これを受けて、舛添知事は早速続投を表明しました。

この会見により「舛添疑惑」の追及は、今後東京都議会の場に移ることとなりました。都議会では総務委員会に舛添知事を招致し、総務委員会での舛添知事の答弁によっては、百条委員会の設置も検討する方向で、調整が進められているようです。

■舛添知事の道義的・倫理的責任
過去には数多くの政治家が政治資金問題や女性問題などで、辞職や辞任に追い込まれていますが、今回の舛添知事のように、政治資金から家族旅行の宿泊費などを支出していた等の「政治資金の私的流用」のみならず、「豪華な海外出張」「公用車の私的使用」「政治資金での美術品購入」「美術館・博物館の視察頻度」など、多岐に渡る「公私混同」が問題となった首長は、過去いなかったのではないでしょうか?

今回の一連の政治資金流用・公私混同疑惑において、違法性を問えないとしても、弁護士から指摘された「不適切な支出」が複数確認されただけでも、舛添知事に首長としての資質があると考える都民は、殆どいないでしょう。よって、今後も都議会の場などにおいて、舛添知事の道義的・倫理的責任が追及されるのは、至極当然なことと考えらえます。

筆者の私見ですが、舛添知事はこの2年間、殆ど都知事らしい仕事をしてこなかったのだろうと考えています。穿った見方かもしれませんが、都民の二-ズを無視し、海外出張や美術館巡りといった殆ど「自分の趣味・道楽」としかいえない公務に多くの時間を割き、合間に知事として必要最低限しないとならない業務のみを行ってきただけだろう、と推察されます。

そもそも舛添知事は、何をやりたくて都知事になったのでしょうか?2014年に舛添知事が都知事選に立候補した際の主な選挙公約は、以下の通りです。

史上最高のオリンピック・パラリンピックで東京の魅力を世界へ発信
世界中から集める、世界に挑み、世界に魅せる東京

大災害にも打ち勝つ都市
東京の技術力と経験で世界一安心・安全で快適な街に

安心、希望、安定の社会保障
いのちを育み、いのちを見守る思いやりと温もりあふれる福祉

中小企業の育成で世界をリードする産業・人材都市
東京発、日本経済の復活、そして世界に貢献

世界に通用する人材の育成と骨太の教育改革
日本人・首都東京の誇りを持ち、世界で活躍できる人材育成

~「都知事選挙2014ガイド 中央政界社 2014」より引用


中でも舛添知事は、厚生労働大臣として社会保障の改革に取り組んだ実績や、母親の介護体験などを通じ、「東京を世界一の福祉の街にする」などと社会保障の充実をアピールして、当選しました。

東京都は、待機児童対策や介護現場における人手不足の解消など、社会保障分野では様々な課題が山積しています。よって、舛添知事が都知事選でアピールした「安心、希望、安定の社会保障」の充実の面で、舛添知事のリーダーシップに期待した都民は多かったことは事実です。

しかしながら舛添知事は知事就任後、「美術館・博物館視察」「都市外交という名目での海外出張」等の緊急度・重要度の低い公務に多くのエネルギーを割く一方で、最重要政策課題であるはずの社会保障問題等の政策の実行に、リーダーシップを発揮して取り組んだ形跡は見られません。

一部の報道によると、舛添知事が今年4月までの1年間に、都内の美術館・博物館の視察を計39回も行っていたのに対し、保育・介護施設の視察実績はゼロだったとのことです。舛添知事は「安心、希望、安定の社会保障」をうたい、現場主義を強調していたようですが、保育・介護施設の視察がゼロであったとしたら、「舛添知事は、社会保障の充実には、真面目に取り組んで来なかった。」と非難されても致し方ないと感じます。

■「OGSM」を用いた舛添都政の評価
筆者が関与している企業の役員会や経営会議等では、経営管理ツール「OGSM」を用いて、戦略施策やその実行課程について議論が行われるのが常となっています。その構成要素は以下の通りです。

O: 目的の明確化
   その施策・活動が、どのような目的を達成するために行うのかを明確化
G: ゴールの設定
   達成時期や数値目標の設定を含む、目標の明確化
S: 採用する戦略・アクションプランの検討
   目標を達成するために、どのような戦略やアクションプランを策定するかを検討
M: 成果の測定と評価
   実行した戦略施策等の成果測定及び評価、改善点等を検証
   
多くの企業では、実行施策等の実施目的を明確にし、目的と施策の整合性を検討した上で、達成時期と数値目標を設定し、その目標達成のための施策案や行動計画を策定し、実施後の成果の測定までの一連のプロセスをモニタリングしていく作業を、定期的に実施しています。 

OGSMを行う上で留意する点のひとつは、「M」の成果測定や評価において、単に数値目標の達成度合いのみならず、その目的達成のために経営者等がどのようなリーダーシップを発揮したか、という点についても検証を行うことが肝要となります。 

なぜならば、特に経営者が企業努力を行わなくても、顧客の経営環境の好転や社員の自主的な努力などにより、「棚から牡丹餅」的に目標が達成されてしまうケースもあるため、目標の達成に経営者等がどの程度関与し、リーダーシップを発揮したのかも明確にしておかないと、企業を取り巻く外部環境等が変わった場合などに、企業としての対応が難しくなるからです。これは行政機関においても、同じことが言えるでしょう。

このOGSMのフレームワークを用いて舛添知事の政策や活動を検証すると、舛添知事が最も熱心に取り組んできた「都市外交」分野においても、目的や成果がはっきりしない事例がいくつか散見されます。

例えば2004年7月に行われた韓国訪問の評価について、報道をもとにOGSMを活用して整理してみると以下のようになります。

O(目的): 日本政府では困難な、日韓関係の修復
G(目標): 韓国政府からの「評価」の獲得ほか
S(戦略施策): 韓国人学校の創設
M(成果測定): 都民にもたらした「成果」は不明

特に「韓国人学校の創設」については、保育所創設という「都民の利益」よりも、韓国からの要求に応えて、韓国人学校の創設を優先したとして批判にさらされています。上記は一例ですが、多額の費用をかけて舛添知事が積極的に展開してきた「都市外交」領域の施策は、「都民の利益」という見地から見ると、実施目的が不明確だったり、成果も極めてわかりにくい、という共通点が見られます。このような政策の目的やその成果についても、議会は舛添知事に説明を求めるべきだろうと思います。

また現在、舛添知事に関する報道の多くは、「公私混同問題の追求」に偏重している傾向が見られます。勿論、公私混同に関する報道は極めて必要ですが、併せて、この2年間の政策面での舛添都政の成果の検証も、同時に行っていただきたいものです。

特に、舛添知事が都知事選でアピールしていた社会保障分野等の重要政策の実行面について、メディアにはもっと詳細な情報を提供してほしい、と思います。同時に各メディアが其々の主要政策について、「第三者の厳しい目」で、舛添知事のリーダーシップの発揮レベルの検証を行うことにより、都民は舛添知事の「公私混同問題」のみならず、「舛添知事の行政能力の評価」も行うことが出来るようになるため、都民にとっては、極めて有益な情報提供になるものと予想されます。

■舛添知事の「首長としての能力」の確認
6月6日の記者会見の場で、舛添知事は早速継続宣言を出しましたが、気になったことは、舛添知事が今後、都民の利益のために、どのような政策を実行していきたいのかといった点について、全く言及をしなかったことです。

そこで今後都議会の総務委員会においては、舛添知事の道義的・倫理的な側面から知事としての資質を問うことに併せて、時間の許す限り、「都市外交」や「社会保障」などの重要政策に関する成果についても問いただし、その成果についての都知事自身の自己評価も確認していただきたいものです。

仮に重要政策の成果について、知事自身の自己評価と都民の評価との間に著しい乖離が生じているとしたら、今度は舛添知事の「首長としての能力」そのものに疑義が生じることとなります。 果たして13日から開催される総務委員会において、舛添知事の重要政策の評価の領域にまで、踏み込めるでしょうか?今後の推移が注目されます。

【参考記事】
■企業風土改革に失敗した、三菱自動車の末路
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-30.html
■奨学金問題と併せて考えたい、もう一つの大学進学形態
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-29.html
■「ショーンK氏問題」から考える、コンサルタントの学歴詐称
http://sharescafe.net/48110506-20160317.html
■ブランディングの後進国であることを示した「東京五輪エンブレム問題」
http://sharescafe.net/46134516-20150903.html
■国会議員の資質を「公募」で見極めることができるのか?
http://sharescafe.net/47850421-20160219.html

株式会社デュアルイノベーション 代表取締役
経営コンサルタント 川崎隆夫 

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