18226630


株価が軟調に推移していて、16日の東京市場も大幅な下落となりました。「株価も下がっているし、景気は悪いんだろう」などと心配している人も多いかもしれません。株価は景気の先行指標と言われていますが、景気は悪くなるのでしょうか?今回は、景気と株価の関係について考えてみましょう。

■株価は内閣府の景気先行指数の計算に使われている
景気先行指数を発表している内閣府は、指数を計算する際に、株価の動きも利用しています。ということは、内閣府も「株価が動くと、その後から景気が動く場合が多い」と認めているのでしょう。それは、筆者も認めるところです。

株式市場の投資家が、景気が悪化すると予想し、その予想が当たったとします。投資家たちは直ちに株を売るので直ちに株価が下がりますが、景気が悪化するのはその後ですから、株価の動きが景気に先行した事になります。つまり、投資家たちの景気予想が5割以上の確率で当たるならば、株価は景気の先行指標となり得る、というわけです。

日銀が金融を思い切って引き締めたとします。金利は高騰し、株式市場に廻る資金も減りますから、株価は直ちに下落します。一方で、景気は日銀が金融を引き締めてからしばらくして悪化しますから、この場合にも株価は景気の先行指標となり得ます。

米国でリーマン・ショックのような事件が起きたとき、日本の株価もただちに暴落しますが、日本の景気が悪化するのは米国向けの輸出が激減してからですから、しばらく後になります。この場合にも、株価は景気の先行指標となり得ます。

■株価が景気を動かすわけではない
しかし、ここで重要なことは、株価が景気を動かしているわけではない、ということです。せいぜい、大量の株を持っている富裕層が贅沢を控えるようになるとか、株価の下落を見て「景気が悪くなりそうだ」と考えた庶民が少しだけ倹約する、といった程度でしょう。日本は家計の株式保有が少ないので、株価が下がっても実損を被る人は多くないはずで、景気への影響も小さいはずです。

株価が景気より先に動く場合でも、因果関係として景気が原因であったり(投資家が景気を予想)、他に原因があったり(日銀の引き締めやリーマン・ショックなど)するのです。

もしも株価が景気を動かしているのであれば、景気を予想する時には株価をしっかり見ておく必要があるのですが、景気予測の専門家の中で、株価に注目している人は決して多くないと思われます。

■景気の専門家は景気悪化を予想せず
景気の専門家たちの見方を知るための手段としては、内閣府の月例経済報告、日銀の展望レポート、ESPフォーキャスト調査を見るのが手っ取り早い方法ですが、いずれを見ても、景気は緩やかな回復・拡大を続けるだろうと言っています。つまり、景気の専門家たちは、「株価が下がっているが、景気は悪化しないだろう」と考えているわけです。

投資家が景気の悪化を予測して株を売っているとも思われませんが、仮にそうだとしても、株式市場の投資家が景気予測の専門家よりも景気の予測に秀でているとも思われません。もしもそうなら、景気予測の専門家は大量失職しているはずですから。

日銀が金融を引き締めているわけではありませんし、リーマン・ショック並みのショックが来ているわけでもありませんから、「株価を下落させた要因がタイムラグを経て景気を悪化させる」という事もなさそうです。したがって、ここでは景気は拡大を続けると信じておきましょう。

では、なぜ株価は下落しているのでしょうか?筆者は株価のことは全く詳しくないので、よくわかりませんが、特に説得的な説明は聞こえて来ていないようです。

年初来の世界同時株安も、不思議な現象でした。「ドイツ銀行が破産する」という噂などで世界の株価が下がったのですが、当のドイツ銀行では取付け騒ぎが起きたわけでも無いようです。

昨今の日本株は、欧州の株式以上に冴えない動きとなっています。ドイツはともかく、英国のEU離脱で欧州経済が大打撃を被るといった理由で株価が下がっているのだとすれば、欧州株の方が日本株よりも大きく下落するはずですが、そうでもありません。

もしかすると、日本株の投資家たちが、噂や思惑などで「騒ぎ過ぎている」だけなのかも知れません。まあ、筆者は株価のことはわかりませんから、株価のことは市場参加者に御任せして、株価に惑わされずに淡々と景気予測に励むことと致します。その際に、スタート台となるのは、「景気予測の専門家たちは、景気の緩やかな回復・拡大を予想している」ということです。専門家達の見解に異論を唱える特段の材料があれば別ですが、そうでない以上は、「景気は緩やかな拡大を続ける」と考えておくべきでしょう。

【参考記事】
■経済情報の捉え方(塚崎公義)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12149245775.html
■景気を語る人々(塚崎公義)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12158101067.html
■大学教授が教える、本当に役に立つ就活テクニック(塚崎公義)
http://sharescafe.net/48796600-20160609.html
■就活の手を抜くと、過去の自分を恨んで生きる事になる(塚崎公義)
http://sharescafe.net/48827988-20160614.html
■就活は企業との相性だから、落ちる以上に受けるべし(塚崎公義)
http://sharescafe.net/48827663-20160613.html

塚崎公義 久留米大学商学部教授

この執筆者の記事一覧

このエントリーをはてなブックマークに追加
シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ
シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。
シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。