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忍者が登場し「確認じゃ。給付金!」と給付金の支給を促す厚生労働省のコマーシャルが流れています。高齢者を対象とした臨時給付金を促進するためのコマーシャルです。
 
■年金生活者等支援臨時福祉給付金とは
この年金生活者を支援するための給付金(以下給付金)は賃金引き上げの恩恵が及びにくい所得の少ない高齢者の方を支援するために実施するものです。この給付金の対象者は65歳以上の公的年金受給者約1,100万人と障害基礎年金や遺族基礎年金約150万人の受給者で、いずれも住民税がかからない人が要件となります。

支給額は3万円。平成27年度に実施された臨時福祉給付金は一人6,000円、同年実施の子育て世帯臨時給付金は子供1人につき3,000円でした。今回の給付金は昨今の給付金の中で一番金額の多かった、平成21年の誰でももらえるというタイプの定額給付金12,000円(18歳未満と65歳以上は20,000円)を大きく上回る金額となっています。

■なぜ高齢者限定の給付なのか?
今回の給付金の支給対象者が高齢者のみに限定された理由は、「高齢者はアベノミクスによる賃金アップなどの恩恵を受けられないから。」またこの支給理由は、消費税が10%に増税すると予定されていた平成29年4月以降、年金受給の少ない人に月5000円上乗せして配布する予定の半分を平成28年度に前倒しして配布するといった給付金でした。

しかし、アベノミクスの恩恵の受けられない、給与の上昇などの影響の受けられない人は高齢者ばかりではありません。正規雇用でない人や、小規模な自営業者、パートで働く女性など、そのほとんどが給料や収入アップなどをこの先も見込むことができません。そのような弱者には給付金は出さず、高齢者に限定するというのはなぜでしょうか。

基本的に高齢者は税制面で優遇されています。この給付事業の対象となる住民税がかからない人とは、自治体によって多少違うものの、65歳以上で年金を支給されている単身の高齢者の場合、155万円、夫婦のみの世帯では211万円に対し、65歳未満の給料所得者は単身で100万円、夫婦の世帯の場合は156万円なのです。税金の面からだけでも若い世代には、収入が少なくても住民税はかかってくるため、生活は厳しくなります。また、若い人は貯蓄もない人も多く見受けられます。

消費税増税は先月再び1年半見送りすると決定されました。また「増税されたら同時に行う」という法案のいずれも延期になり、もし増税が施行されなければ、自動的に施行されずじまいになります。

しかし、この3万円の給付金は、予定通りに配布されることになります。消費税が増税される平成29年度の給付の前倒しの支給だとすれば、消費税増税延期によってこの給付金も延期になるべきものだったのではないのでしょうか。

■消費税は選挙時の重要なカギとなっている
税金を上げるというのは、直ちに国民の「民意」によって反対されます。税金は国民の義務だからといえども喜んで支払う人はいません。しかし増税を一時的にでも遅らせるという行為は選挙の時、有権者の誰もが喜ぶ大きな餌になりえます。

そもそも消費税は税率が8%に上がった1年半後の平成27年10月に10%に上がる予定でした。安倍首相は平成26年11月に、平成27年10月から平成29年4月へと消費税増税を延期すると決めたうえで衆議院を解散しました。また同様に今回も消費税増税を平成29年4月から平成31年10月へと再延期を決定しました。今回は7月に参議院選挙が控えています。

読売新聞の調査によると、引き上げ再延期を「評価する」が63%、「評価しない」が31%、さらに再延期の判断を公約違反かどうかという質問には「思わない」が65%、「思う」が35%で大きく上回っています。まさに消費税増税延期で国民感情をできるだけ引き寄せ、選挙に熱心に行ってくれる高齢者に給付金も支給。選挙に準備万端といったところでしょうか。

■各世代に公平な法律にするために
今回の給付金は対象となる人が限定されているため、一般の人は気づきにくく、大きな反対になることがないのかもしれません。しかし、高齢者は収入だけでなく、貯蓄も高く持ち家も多いので、持ち家のない若い世代より比較的支出も少なく暮らし向きも安定傾向にあります。

もちろん本当に厳しい生活を送っている高齢者もいるため、税金のかからない云々で実際の豊かさを判断するのは難しいです。給付はどうしてもそういった観点で偏って支給しがちになるのではないでしょうか。どこに豊かさの基準を置くのかは、これからの給付事業の重要な課題になりそうです。

【参考文献】
■災害の発生時の税金の申告はいつまでにすればいいのか (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/48455599-20160426.html
■保育園の滞納問題。取り立ては年々厳しくなっている? (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/48230568-20160330.html
■確定申告の医療費控除の誤解。さらに広がる可能性あり? (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/47878546-20160221.html
■進化するふるさと納税。その課題とは。 (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/47646614-20160128.html
■配偶者控除は本当に女性の社会進出を阻んでいるのか?(浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/47252222-20151218.html

浅野千晴 税理士

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