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去る5月24日、「個人型確定拠出年金」(個人型DC)の対象を広げる改正法案が可決しました。これまでは自営業者や企業独自の年金がない会社員などに限定されていましたが、2017年からは、原則誰でも加入できるようになります。

資産形成のための選択肢が増えたことになります。どんなやり方がいいのか、自分で決められるようになったのはいいことですが、選択肢が増えると迷いやすくもなります。

どんな選択をするか検討するうえで、自分と同じような立場の人がどんなスタイルで投資をしているのか知ることは、参考になります。とはいえ、周囲に既に投資を始めている人がいるとは限りません。また、やっていたとしても、お金の話はなかなか積極的に話をする機会もないと思います。

そんなときは、本書が役に立ちます。

臆病な人でもうまくいく投資法 お金の悩みから解放された11人の投信投資家の話
竹川 美奈子

<目次>
はじめに 投資をこわいと思っているあなたへ
第1章 投資信託を使った積み立て投資はなぜ、最適の資産形成法なのか?
第2章 低コストのインデックスファンドを組み合わせて、世界に丸ごと分散投資する方法
第3章 たった1本保有するだけで、簡単&手軽に国際分散投資ができるバランス型投信の活用法
第4章 「非課税」という武器を最大限に生かす確定拠出年金を使った投資法
第5章 自分が応援したい会社や事業を投資家という立場でサポートし長期的なリターンを得る方法
第6章 コツコツ投資を始める前に押さえておきたい7つのこと
おわりに あなたもコツコツ投資家になろう!

■ありそうでなかった投資指南本
投資に関する体験談が書かれた本は、大金を稼いだ方が紹介されるものが多数をしめます。デイトレードで億の金を稼いだとか、普通の主婦がFXで巨万の富を築いたなど。私も何冊か読んでいます。

そこに書かれている内容が嘘だとは思いませんでした。しかし、役に立ったとは言いきれません。なぜなら「再現性」があるとは思えなかったからです。

普通に働いて、趣味の時間も確保して、家族との時間も大切にしようとすると、とても真似できるとは思えない内容でした。たとえ何かを犠牲にして真似をしたところで、同じ結果が出せるとも思えません。相場の環境に左右される要素が大きい金融投資で、過去の成功例を真似しただけでうまくいくなら、みんなが億万長者になれてしまいます。
そんなことはあり得ません。

本書は、そんな内容とは全く違っています。

■みんな違って、みんないい
本書で竹川さんがインタビューをしている11名はみな、普通のビジネスパーソンです。巨万の富を既に築いている人もいません。「投資が趣味」という人もほとんどいません。つまり我々と同じ、等身大の市井の人たちだといっていいと思います。そんな人たちが、どのように投資と向き合っているのかが、紹介されています。

キーワードは「コツコツ投資」。コツコツ投資とは、長期でじっくり資産形成に取り組む投資方法だと定義されています。登場する11名は、すべてこの定義に当てはまる人たちです。

だからと言って、11名の投資スタイルが同じなわけではありません。大雑把に分類しても、本書の第2章から第5章までの4パターンに分かれます。細かく言えば、すべて異なるといってもいいでしょう。

年齢や家族構成、居住地などの環境、自分の人生哲学などで投資スタイルは変わってきますし、変わってきていいのです。読んでみるとそれが実感できるはずです。

■私の投資遍歴
ここで、筆者自身の投資歴を書いてみます。ひとつの例として参考になればと考えてのことです。

投資を始めたのは2008年12月。いま考えるととてもいいタイミングでした。その年の10月に竹川さんの著作『新・投資信託にだまされるな! ---買うべき投信、買ってはいけない投信』の旧版を読んで、投資を始めようと思いました。でもお金がない。 12月の賞与支給を待って始めました。その間に、リーマン・ショックが起きて、株価は暴落していたわけですが、逆に言えば、底値で始められたわけです。

まず、インターネット取引専門証券会社(ネット証券)に口座を開設しました。どこにするかはそれほど深く考えてのことではありません。メインの銀行口座が三菱東京UFJ銀行だったのですが、そのグループのネット証券だとお金の出し入れが楽だと聞いて、決めました。別な銀行を使っていたら別な選択をした可能性もありました。

最初は、典型的なインデックス投資です。竹川さんの本で推奨されていたポートフォリオに従い、日本株、日本債券、先進国株、先進国債券の4つのインデックファンドを積立で始めました。しばらくして、新興国株のインデックスファンドを加えました。

時々、個別株やFXに手を出しましたが、全部負けました。趣味で楽しむ程度に考えていたので大金を突っ込んだりはしていませんが、負けてばかりだとつまらなくなって、やめてしまいました。

その後、2011年の東日本大震災を経験し、
「自分が本当に応援したい会社に直接投資したい」
そんな気持ちが強くなってきました。そうかといって、個別株で投資していくには限界もありますし、自分が引き受けるリスクも高まります。

どうしようかと考えているとき、ひふみ投信を運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人さんが書かれた『投資家が「お金」よりも大切にしていること 』、鎌倉投資の鎌田社長の『外資金融では出会えなかった日本でいちばん投資したい会社』を読んで、明確な投資哲学を持って運用されるアクティブファンドが多数あることを知ります。共感する投資哲学を持つファンドマネージャーが運用するファンドに投資する方法もあると思い、そうしたファンドに少しずつお金をシフトしていきました。あわせて、被災地応援ファンドなどのマイクロファンドにも一部資金を回しています。

本書で言えば、第2章のスタイルから第5章のスタイルに移ってきたところです

ここ数年は、投資のために使っている時間はかなり少ないと思います。年に数冊、投資関係の本を読む程度です。全然、時間を使っていないといってもいいくらいで、ほとんどほったらかし状態です(ほったらかし過ぎだ、という指摘も受けたりします)。今はそれでいいと思っています。そのうち環境が変われば、また少しスタイルを変えることもあるでしょう。そのタイミングのときだけは、集中的に時間をつかうかもしれない、思っています。

■老後の資産形成のために大切なことは
「老後の資産形成のためにいちばん大切なのは『自分の稼ぎ力』を高めることです」
以前、あるマネーセミナーで聞いたこの言葉は、常に意識するようにしています。

投資をするにしても元手が必要です。コツコツ積み立てをしていくには、ある程度、安定した収入が不可欠になります。

さらに、稼ぎ力は長期の視点で考えています。目先の高いフィーを目指すのではなく、端的に言えば65歳を超えても自分で稼げるような力をつけておくことを目指します。その力があれば、老後のために準備する資産にこだわり過ぎなくても大丈夫です。

そのために、投資の時間を割くなら稼ぎ力を高めるために時間を使いたいと考えます。また、金融投資だけでなく、自己投資もしないといけない。場合によっては、いま持っているファンドの一部を解約してでも自己投資に回したほうがいい、と判断する場合もあります。

結局、自分の人生哲学に基づいて投資と向き合うしかありません。だから、金融投資をやらない選択もあり得ます。絶対にやらなくてはいけないわけでもないのです。

ただ、知っていてあえてやらない選択をすることと、知らないからやらないことの間には雲泥の差があります。できれば、知ったうえで自分なりの判断をしたほうがいいと思います。

そのために、投資理論を学ぶのもいいですが、まず自分たちと同じような人たちがどんなスタイルで、どんな想いで投資に向き合っているのかを知るのは、参考になると思います。

いまのところ類書はありません。周りの人とお金の話はしにくい人、そうした機会がない人は、とても役立ちます。

<参考記事>
■【読書】 臆病な人でもうまくいく投資法 お金の悩みから解放された11人の投信投資家の話/竹川美奈子
http://blog.livedoor.jp/nakahisashi/archives/1058132337.html
■「町工場の星」に学ぶ 人の育て方、リーダーのあり方~【書評】ザ・町工場―「女将」がつくる最強の職人集団(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48530974-20160506.html 
■「トヨタ」から何を学べばいいのか?~【書評】どんな仕事でも必ず成果が出せる トヨタの自分で考える力/原 マサヒコ(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/47148390-20151211.html
■投資はお洒落で知的でかっこいい社会貢献だ!~新しい資金調達先としてのクラウドファンディングの可能性(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/40855841-20140916.html 
■資本主義社会を生き抜く術を知るために『資本論』を読み返そう(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42308047-20141209.html

中郡久雄 中小企業診断士 

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