寝たきりの妻を殺害した夫に3年6か月の実刑判決が出た裁判は、記憶に新しいのではないでしょうか。介護についてまったく関係のない世代は、なんで?と思われると思います。とりわけ、20歳代の社会人にとっては、介護そのものが異次元の世界のことのように感じていませんか?しかし、介護は突然やってきます。予防できません。これだけは忘れないでください。 ■誰もが介護に巻き込まれる時代だ 寿命には平均寿命と健康寿命があります。厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会・次期国民健康づくり運動プラン策定専門委員会の「健康日本21(第二次)の推進に関する参考資料」によると、男性の平均寿命は79.55歳で、健康寿命は70.42歳。女性の平均寿命は86.30歳で健康寿命は73.62歳です。平均寿命と健康寿命の差は、介護が必要になる期間と考えられます。 自分自身が長生きするように、両親や配偶者がこれからも長生きをすることを考えると、誰も介護の問題は避けては通れません。 ■家族に介護の問題が発生すると「恥」と思ってしまう心理 今まで、普通に生きていた家族が、事故などで突然寝たきりになり介護が必要となった場合は、比較的容易に他人に相談することができます。一方で、徐々に認知症や要介護状態になると、なかなかその状態を受け入れることができないため、相談へとはなかなかなりません。 これは、親や配偶者など今まで自分より上の立場、又は同等の立場であった者が、突然「できない状態」になった場合に、今まで通りにして欲しいという願望が家族の心に芽生えてくるからです。その願望がだんだんと叶わないこととなると、怒りにつながります。「お母さん、ちゃんとしてよ!」という高齢の母と子の会話をスーパーマーケットなどで耳にしたことはありませんか? そして、世間体のことも頭にちらつき、いよいよ介護者自身が我慢できなくなると外に連れ出さなくなったり、人に会わせたくなったりして、家に閉じ込めてしまいます。他に相談できる兄弟や家族がいない場合、このような心理に陥りやすいと考えられます。 ■家族が自分で何とかしようとすればするほど手遅れになる 年を取れば取るほど人間は、忘れっぽくなります。これは病気ではありません。これに対して、アルツハイマーは、覚えたり考えたりする能力に障害が起きる病気です。アルツハイマーになってしまった場合は、元に戻ることは望めません。しかし、治療を受けることで病状の進行がゆっくりとなることはあります。 年相応の物忘れなのか、アルツハイマーなのかは、診断を受けないとわかりません。ところが家族は、病状がゆっくり進行していると、少しすれば、また元に戻るのでないかと思ってしまいます。この状態が続けば続くほど状態は悪化し、気づいたときにはどうしようもなくなってしまいます。 手遅れにしないためにも、まず最初に行うことは、身内である家族に起きている目の前の事実を受け入れることです。 ■介護の問題を絶望にしない秘訣 介護の問題は、終わりが見えません。産経新聞では以下のように報じられています。 長年の介護疲れから、高齢の家族を殺害する事件が後を絶たない。終わりが見えないことから「ゴールのないマラソン」「生き地獄」とも表現される過酷な介護生活。専門家は「独りで抱え込まず周囲や行政に相談を」と訴える。 まったく記事の通りです。家族は、親や配偶者に介護が必要になったと理解した時、そして、終わりの見えない介護が続くと思った時に絶望感を感じます。支える気持ちをなえさせて、どうしようもないと思わせてしまいます。老老介護を始める前や介護離職を考える前にまずは相談することが大切です。 家族、友人、同僚、上司など身近にいる人に相談してみませんか。相談相手が実はすでに介護を経験している人だったらなんらかのアドバイスを得られるはずです。相談をしないで隠し続けて、どうしようもなくなってしまっては、何の手も打てません。もしも、身近に相談できる人がいなければ、お住まいの近くにある地域包括支援センターに相談してみてください。地域の頼りになる介護の窓口ですので、必ず相談にのってくれます。的確なアドバイスや手助けをしてくれます。かかりつけ医があれば、そこへの相談でももちろん結構です。 介護の問題は決して一人で考え込まず、一人で背負わないことです。気負いも厳禁です。自治体で行っている事業や介護保険を使って上手に負担を分散してみませんか。負担の分散を行っていれば、重度化により介護がさらに必要になった時にも対応がしやすくなります。税金や介護保険料はこの時のために払ってきたんですから。 藤尾智之 税理士 介護福祉経営士 【参考記事】 ■介護事業って営業いらないと思いますが、何か?(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士) http://sharescafe.net/48678907-20160524.html ■介護保険が知らぬ間に保険ではなくなる事実(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士) http://sharescafe.net/48473153-20160428.html ■元特養事務長が教えるより良い介護施設の見極め方(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士) http://sharescafe.net/47893238-20160223.html ■介護保険は保険ではない ケアマネジャーと上手に付き合う方法(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士) http://sharescafe.net/35169456-20131126.html ■介護保険は保険でなはい 「親の介護は老人ホームにお願い」は甘い考え 介護保険を考える(1) (藤尾智之 税理士・介護福祉経営士) http://sharescafe.net/35018841-20131120.html シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |