平成12年4月から始まった介護保険制度。日本国中の期待を背に始まった第5の社会保険制度でしたが、どうやら、いや、やっぱり雲行きが怪しくなってきました。当初は順調に利用が伸び喜ばれていましたが、現在は、その伸びをどうやって抑えるかの議論がなされています。私たちは、介護が必要になったときどうすれば良いのでしょうか。 ■親が要介護になったら? 親が要介護になったら、どうしますか?一般的に、特別養護老人ホームなどの施設に入って介護を受けるか、自宅に住みながらヘルパーさんなどに来てもらって介護をしてもらうかどちらかになります。特別養護老人ホームであれば、生活そのものが施設におまかせできるので、家族としては一安心です。一方で、自宅でそのまま生活することになった場合は、ヘルパーさんが来ている時は良いとして、それ以外の時間は家族がお世話をすることになります。 誰でも、特別養護老人ホームなどの施設に入れたらいいなと思うはずです。そのため、特別養護老人ホームでは、特に都心部では1施設あたり数百人の入所希望者が待機している状態でした。口には決して出せませんが、よく考えれば入所の番が回ってくるまで5年待ちの状態でしょうか。しかし、その状況が一変したようです。毎日新聞では以下のように報じられています。 52万人が入所待ちしていた「特別養護老人ホーム」の待機者が、各地で大幅に減ったことがわかった。埼玉県で4割、北九州市で3割、東京都で2割弱など毎日新聞が取材した10自治体ですべて減っていた。軽度の要介護者の入所制限や利用者負担の引き上げなど、政府の介護費抑制策が原因とみられる。一方、要介護度が低くても徘徊(はいかい)がある人らが宙に浮いており、施設関係者らは「介護難民」が増えたと指摘している。 いったいぜんたいどういうことでしょう。少し細かく見ていきたいと思います。 ■特別養護老人ホームへの入所希望者の足切りが始まっていた 平成27年4月から介護保険制度の改定が行われました。その中で、特別養護老人ホームに入所できる人の基準が要介護度3以上ということに変わりました。ご存知でしたか?知らぬ間に利用できる人に制限が加えられていたのです。このため、要介護度2以下の方は自動的に入所希望者のリストから削除されてしまいます。 要介護度2以下の方は、介護度は低いと判断され、自宅でがんばってということでしょうか。いやいや、要介護度2の方でも例えば認知症を抱えていれば、家族は大変です。ヘルパーさんに来てもらったり、デイサービスに通わせたりで何とか家族自身の生活を成り立たせることが精いっぱいの状況です。「もしかしたら特別養護老人ホームに入れるかも」という家族の期待は今回の制度改正によって、はかなくも打ち砕かれてしまいました。 ■特別養護老人ホームの入所だけではない、介護保険はずし 介護が必要な状態を要介護状態といいますが、介護まではいかないけどサポートが必要な状態を要支援状態といいます。要介護1~5に対して、要支援1~2というように表記されます。要支援の方も、介護保険として、今まではサービスを受けることができました。しかし、平成27年4月以降この要支援の方々が受ける訪問介護とデイサービス(いずれも予防型)が、介護保険から外されました。ただし、お住まいの市町村によって、外す時期が異なっています。平成28年から、平成29年からなどまちまちですので、具体的には市町村等に問い合わせる必要があります。 それでは、今まで要支援の方が受けていた予防型の訪問介護やデイサービスはどうなるのかというと、介護保険ではなく、各市町村が責任を持って進める独自サービスに鞍替えされます。各市町村が独自に進めるため、準備期間が必要ということでしょうか。 ところで、市町村が責任を持ってサービスを提供してくれるのは良いとして、今まで通りの同じ費用で同じように利用できるのでしょうか。実のところ、わかりません。市町村の財源は、当然、国よりも限りがあります。ですので、介護保険と同じ金額で介護事業所にお金を払えないかもしれません。そうなると、介護事業所も減らされたそのお金の範囲でできることをしましょうとなるかもしれません。利用できない部分は、家族やボランティアに・・・という流れです ■平成30年4月の介護保険制度改定はもっともっと改悪になる可能性あり あと2年もしないうちに、介護保険制度は大きく変わります。参院選挙が終わった、9月以降の通常国会では、この2年後の介護保険制度の改定について議論されることになっています。どんな内容が予定されているのでしょうか。 公にはなっていませんが、要介護1~2の方も介護保険からはずすということが囁かれています。毎日新聞では以下のようにも報じています。 厚生労働省高齢者支援課は「要介護3以上に(入所を)『重点化』したのは限られた資源を真に必要な人に使ってもらうためだ」と説明した。【斎藤義彦、榊真理子】 これは、先読みすると、社会保障費がますます増大したら、特別養護老人ホームに限らず、訪問介護やデイサービスなどでも要介護3以上じゃないとサービスを受けられないということではないでしょうか。 ■自分の身は自分で守る時代に突入した 国民皆保険制度が始まって50年が経ちました。当時の人口ピラミッドは、今は残す影もありません。大手術をしないといけない時期はとっくに過ぎたのでしょう。制度が利用できなくなった以上、自分の身は自分や家族で守るしかありません。もちろん、自分達だけで行うには限界があります。市区町村の進めるサービス、そして、ボランティアやNPO法人等などに代表される地域の力にも頼りながら生き残るということが、これから私たちに求められています。 藤尾智之 税理士 介護福祉経営士 【参考記事】 介護の問題を絶望にしない秘訣(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士) http://sharescafe.net/48944579-20160626.html ■介護保険が知らぬ間に保険ではなくなる事実(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士) http://sharescafe.net/48473153-20160428.html ■元特養事務長が教えるより良い介護施設の見極め方(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士) http://sharescafe.net/47893238-20160223.html ■介護保険は保険ではない ケアマネジャーと上手に付き合う方法(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士) http://sharescafe.net/35169456-20131126.html ■介護保険は保険でなはい 「親の介護は老人ホームにお願い」は甘い考え 介護保険を考える(1) (藤尾智之 税理士・介護福祉経営士) http://sharescafe.net/35018841-20131120.html シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |