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誰もが知っているご長寿アニメのサザエさん。先日、その視聴率が1ケタ台にまで落ち込んだという。

■サザエさんの視聴率が1ケタに

3日に放送された「サザエさん」の視聴率が9・9%と2ケタを割ったことが分かった。常に高視聴率をキープしている人気長寿番組「サザエさん」。今年に入って1ケタとなったのは、5月22日の7・7%のみ。

スポーツ報知「「サザエさん」に異変!?視聴率1ケタ記録」2016/07/04  


ちなみに5月にも視聴率が1ケタとなったが、この日は「笑点」が「歌丸ラスト大喜利スペシャル」として特別番組を放送したことから、「それに食われた形」(前掲記事)のようだ。5月の視聴率は説明がつくが、7月3日については同時間帯に特番等はなく、原因は不明であるという。

サザエさんはご長寿番組でありながら、常に高視聴率を保っている。1972年の世帯視聴率は33.1%であり、以降アニメ番組では視聴率1位をキープし続けながら、2012年の同率は21.3%である(Video Research Ltdホームページ「視聴率から振り返る「テレビアニメ」の歴史」)。放送開始から50年近くが経過してもなお高視聴率をはじき出すというのは驚異的だ。それゆえに、視聴率が1ケタ台に低下というのは、異常事態なのだ。

■サザエさんに共感できない?!
それでは、サザエさんの視聴率低下の真の原因とはなんなのだろうか。さまざまな要因が想定されるが、筆者は、「サザエさんに心理的な共感を得られない」ことが一つの要因であると考えている。

サザエさん(磯野家)の家族構成は祖父母(波平・フネ)・父母(マスオ・サザエ)・兄妹(カツオ・ワカメ)・子(タラオ)という3世代同居の大家族である。男性陣はサラリーマンとして働き、女性陣は専業主婦(サザエさんがパート労働している回もある)として家庭を守っているという役割分担である。

そもそも、アニメを多く見ている若年層としては、3世代同居の大家族というイメージは描きづらいだろう。「平成18年版少子化社会白書」(内閣府)によれば、「「三世代世帯」の割合は、2005年は6.1%である一方、「核家族世帯」の割合は57.9%となっている。圧倒的に多数派は核家族世帯だ。また、「単独世帯」の増加が顕著であり、同年29.5%である。

このことは、未婚化・晩婚化を背景に単身者が増加していることや、高齢化の進行に伴い高齢者の単身者が増加していることを反映している。現在では3世代同居どころか3割近い人が家族とすら同居していないのだ。大家族の姿はとうの昔に一般的でなくなっている、といえよう。

また、「2012年度男女共同参画に関する世論調査(内閣府)」によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に反対と答えた人は45.1%であり、1992年の34.0%から11ポイント程度上昇している。すなわち、磯野家の働き方に半数近くの人「NO」と言っているのだ。

さらに、労働力調査(総務省統計局)によれば、「夫婦のいる世帯数」に占める「夫が雇用者、妻が無業者の世帯」の割合をみると、2002年は31.1%だが、それ以降は低下傾向にあり2012年では27.0%となっている。

一方、「夫婦のいる世帯数」に占める「共働き世帯」の割合は、2002年では32.9%だが、2003年以降はほぼ上昇傾向にあり、2012年では35.8%と、共働き世帯が増える傾向が読み取れる。もはや家事の一切を切り盛りするおちゃめなサザエさんの姿は、少数派になりつつある。
 
■イメージしづらいサザエさんの世界
サザエさんでは、波平や町内の頑固おやじがカツオたちを怒鳴り散らすシーンがよく見られるが、現在では「児童虐待だ」などと言われかねない。昨今は迷子の子供に善意で声をかければ「変質者」扱いされることもあると聞く。「知らない大人に叱られる」という経験自体が少なくなっているのだ。

カツオたちの遊びは野球などのスポーツが中心だが、都会の公園では危険防止のため球技が禁止となっていることも多い。「騒音禁止」と、子どもの声を制限するところさえある。また、サザエさんは原作の世界観から、スマホはおろかPCやTVゲームなどもほとんど描かれない。カツオに至っては学帽をかぶって通学しているくらいだ。アニメの視聴者層である子どもからしてみれば、実生活とのかい離に面食らってしまうだろう。

サザエさんの生活、例えば買い物では、魚屋さんや八百屋さんなど、いわゆる屋号のつく個人商店でのやりとりが多く描かれる。しかし、いまや大型ショッピングモールやコンビニで、また自宅に居ながらネットスーパーで買い物を済ませる時代だ。平成初期の生まれがアラサーになりつつあるなか、このような日常生活の描写の何から何まで、若い世代から見ればピンと来ないのだ。

■サザエさんはどこに向かうべきか
それでは、サザエさんの時代設定を現在に合致させれば視聴率は回復するのだろうか。波平は定年後の再雇用で嘱託として年下の部下の下で働く。マスオさんは職場と家庭のストレスでメンタル的に不調気味。代わりに家計を助けるべくサザエさんが派遣社員として働くも、熱を出したタラオの世話で欠勤しがちとなり契約更新がなされない。カツオは中学受験に失敗し、そんな兄を反面教師に受験勉強に勤しむワカメ。タラオは待機児童となりフネが面倒を見ている・・・・。

残念ながら、そのようなサザエさんを見ていても日常の疲れやストレスが溜まるだけで、誰も見たいと思わないだろう。現代の若者に迎合しても、どうも共感は得られなそうだ。近年サザエさんに「ギャル男」のようなキャラクターが出てきたり、堀川君(ワカメの同級生)の奇行がネット上で話題となっているが、そのような奇をてらった演出には限界があるといえる。

そもそも、原作の漫画のストーリーとアニメのそれは性質が異なるという指摘もある。漫画ではサザエさんが選挙活動を手伝ったり、波平とマスオが料理や洗濯に取り組むも失敗するなど、男尊女卑を風刺するような描写が目立つ。これはサザエさんの原作が戦後間もなく連載開始されたという時代背景もあるが、サザエさんは元来、単なるお茶目な若いお母さんではないのだ。一方アニメでは、フネさんを「日本のお母さん」と扱うような場面が描かれ、さながら「古き良き日本の家族」という位置づけを狙っているようにも見える。

しかし、理想の家族像は個々の家族の価値観や判断に任されるべきものであり、国家やメディアによって示されるようなものではない。前述したように家族のあり方は多様化しており、例えば子育てについていえば、祖父母の支援がある家庭もあれば、保育園やベビーシッターなど外部のサービスを利用しながら、仕事などに忙殺されている家庭もある。部屋はぐちゃぐちゃ、髪形や化粧が乱れるそんな生活においても、子供の寝顔にふっと癒される。それも家族における現状の一つである。

サザエさんがあるべき家族像を押し付けている、とは言わないまでも、長年にわたり不変の家族像を描き続ける物語が、ややもするとステレオタイプ的な印象を与えているとは言えまいか。「これが我が国の理想の家族なんだ」と上から目線で説教されている感覚に近いのかもしれない。仮にそうであるとするならば、サザエさんで描くべき家族の在り方とはいったい何なのか、立ち止まって分析し、一考する余地はあるだろう。

【参考記事】
■「圧迫面接」は御社の経営を「圧迫」します!(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48964354-20160629.html
■やっつけの社員研修が死ぬほど勿体ない理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48789835-20160607.html
■我々が就活生を応援すべき理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48765717-20160604.html
■「みんな同じで、みんな良い」社会の暑苦しさとは。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48677243-20160524.html
■「育休でもボーナス満額」で男性の育休取得は促進されるのか。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48294119-20160406.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント

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