今週7月14日に米国で、15日に日本で予定されているLINE株式会社のIPO(新規株式公開)に関連して、ブルームバーグにちょっと面白い記事が掲載されていました。 株式上場前ですので、当然まだ取引所での売買注文は受け付けられていないにもかかわらず、既に公開価格3,300円を15%も上回る高値での買い注文が入っているというのです。 (引用)『キャンター・フィッツジェラルドによると、13日のグレーマーケットでIPO価格を15%上回る3800円の値が付き、その後売り注文の値段は4000円を上回っている。チャーチル・キャピタルのセールストレーダー、トム・レスキ氏(シンガポール在勤)は買い値3900円に対し4200円の売り値があると明らかにした。LINEは15日に東京証券取引所1部に、ニューヨーク証券取引所には14日に上場する。』(2016年7月13日付ブルームバーグ記事『LINEが上場前のグレーマーケットで人気、IPO価格を15%上回る』より抜粋。) ■公開前の価格は公開価格15%増し 記事のとおり、ある業者では3,800円の買い注文を受けた一方、4,000円を上回る高値での売り注文が入り、別の業者には買い値3,900円に対し4,200円での売り注文があったとのこと。ちなみに、3,900円は公開価格の18%増し、4,200円は同じく27%増しです。売りも買いも注文があったものの、記事の範囲では、売買はまだ出合っていないようです。 一般にはあまり知られてはいませんが、主に機関投資家の間での取引になるものの、人気の高い新規公開間近の株を、実際に株式公開されることを条件として公開前に取引することは珍しいことではなく、そうした市場はグレー・マーケットと呼ばれています。市場とは言っても、東証やNY証券取引所のようなオープンな取引所での市場取引ではなく、相対での取引です。 IPOのグレー・マーケットで取引されるのは公開前の株ですので、取引の対象は株式の現物ではなく先物になりますが、基本的には、IPOが実際に行われて、通常の市場で取引が開始されたところで決済されることになるのです。 公開前のLINE株にこれだけ高い値が付いたのは、それだけLINEの上場が注目され、人気が高いためです。今年のIT企業のIPOとしては世界最大級ということもあるのでしょう。IPOで買いたくても十分に買えなかった人が多く出たことで、グレー・マーケットでの高値での取引が行われやすくなったのです。 日本経済新聞の12日付記事によれば、公募株数に対する応募倍率は約25倍と人気を集めているのですが、そのうち国内の個人投資家が18倍、機関投資家が13倍程度であった一方、海外投資家の応募倍率は20倍台の後半と、海外での引き合いが特に強かったのでした。 比較として、昨年最も注目されたIPO銘柄であった日本郵政グループを見てみると、最も人気が高かったかんぽ生命でも応募倍率は15倍程度でした。ですので、LINEの約25倍と言うのは、極めて高い人気だと言えます。なお、日本郵政グループの場合、グレー・マーケットでの値付けは公開価格の5~7%増し程度だったようです。 ■グレー・マーケット価格は初値にどう影響するか 一般に、グレー・マーケットでの価格は、株式公開後初値が上下どちらの方向で決まるかの目安になると考えられています。グレー・マーケット価格が公開価格よりも高ければ、当然、株価が上昇することが期待されているのです。逆も然りでしょう。グレー・マーケットでの価格が公開価格を15%も上回っていると伝えられているLINEの場合、同様にグレー・マーケットで高値がついた銘柄を参考にするのが良いでしょう。 その意味では、筆者自身が在籍した当時にIPOを実施した新生銀行は、良いサンプルと言えるかもしれません。新生銀行の場合、グレー・マーケット価格が公開価格の33%増しと高く評価されたのですが、公開後初値はさらに高く、公開価格の66%増しとなったのです。 仮に、LINEの場合も同様に公開価格からの増分がグレー・マーケットの2倍程度になると考えた場合、公開価格3,300円の約30%増しである4,300円程度が、LINE株の初値として相応しいということになります。あくまでも、新生銀行のときと同じパターンになれば、ということなのですが。 このように、当該株式への投資家の需給が反映されるグレー・マーケット価格は、上場後の株価推移を占う上での有用な材料となりえます。しかし、そこで反映されているのはあくまでもほんの一部の投資家による需給であることを忘れてはなりません。また、本来公ではない相対取引の情報であるグレー・マーケット価格は、誰かが何らかの意図のもとで漏らした、見せ板のようなものだと考えるべきなのかもしれません。 もう間もなく上場されるLINE株。果たして、初値はいくらになるのでしょうか。 【参考記事】 ■日銀のマイナス金利政策は、大成功だが、大失敗だ。 (本田康博 証券アナリスト) http://sharescafe.net/48977254-20160701.html ■日本がギリシャより労働生産性が低いのは、当たり前。 (本田康博 証券アナリスト) http://sharescafe.net/47352836-20151229.html ■日本が先進国で最下級だという「幸福度」ランクについて、みんなが勘違いしていること。 (本田康博 証券アナリスト) http://sharescafe.net/48183188-20160325.html ■映画『マネー・ショート』を見ていて混乱するのは、「空売り」を予習したせいだ。 (本田康博 証券アナリスト) http://sharescafe.net/48046767-20160310.html ■英不動産ファンド2.4兆円の解約請求は、なぜ凍結されたのか。 (本田康博 証券アナリスト) http://sharescafe.net/49031857-20160708.html 本田康博 証券アナリスト・馬主 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |