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参議院選挙が終わり、与党が過半数を占める結果となりました。そして、この選挙の結果待ちだった介護保険の見直し作業が平成28年7月20日に再開されました。

■誰が見直し作業を行うのか
介護保険の見直し作業は、総勢25名の有識者から構成される「社会保障審議会介護保険部会」という会議で行われます。有識者25名は、様々な団体から選出されています。その団体とは、自治体、介護福祉団体、医師会、看護協会、労働組合、経済団体、健康保険協会、大学、NPO法人等です。会議の雰囲気を伺うことはできないですが、改革化、保守派が入り混じった、突っ込んだ発言の飛び交う会議のようです。

さて、この会議は、厚生労働省に設置されている審議会等の1つで、厚生労働大臣の諮問に応じて調査審議することを目的として開催されています。今回の目的は、介護保険の見直し作業、つまり、平成30年4月以降の介護保険制度についての議論です。すでに安倍内閣から方針が出されていて、その方針に基づいて議論をしています。介護保険制度がこの先どうなるかは、この会議で決まります(もちろん年明けの通常国会で審議・可決されるものですが、与党過半数なので結果は火を見るよりも明らかだと思います)。

■安倍内閣の方針とは?
安倍内閣は、平成27年6月30日に「経済財政運営と改革の基本方針2015」を閣議決定しています。該当部分を抜き出すと下記の通りとなっています。
公的保険給付の範囲や内容について検討した上で適正化し、保険料負担の上昇等を抑制する。
このため、次期介護保険制度改革に向けて、高齢者の有する能力に応じ自立した生活を目指すという制度の趣旨や制度改正の施行状況を踏まえつつ、軽度者に対する生活援助サービス・福祉用具貸与等やその他の給付について、給付の見直しや地域支援事業への移行を含め検討を行う。
出典:第60回社会保障審議会介護保険部会資料

厚生労働省は、この方針に則って作業を進めることとなり、今回の会議を開催したというわけです。共同通信47NEWSは、今回の会議内容について以下のように報じています。
厚生労働省は20日、社会保障審議会の介護保険部会を開き、訪問介護のうち掃除や調理、買い物など「生活援助」のサービスについて、要介護度が低い軽度者に対する給付を縮小する方向で本格的な検討に着手した。

車いすや介護ベッドなど福祉用具のレンタルと、バリアフリー化する住宅改修に関しても、軽度者は原則自己負担とするよう財務省が求めており、併せて議論を始めた。
共同通信47NEWS 介護サービス縮小を検討 厚労省、費用抑制で 2016/7/20

ここで消費税の増税が再延期されたことを思い出してください。平成27年6月の閣議決定時点では、消費税は「上げる」ことになっていて、消費税の増税分は、介護保険を含む社会保障費に充てられるはずでした。しかし、延期によって閣議決定の前提となっていた社会保障費の補てんはなくなりました。平成28年6月1日の安倍内閣総理大臣記者会見では次の通り発言されています。
「社会保障については給付と負担のバランスを考えれば、10%への引上げをする以上、その間、引き上げた場合と同じことを全て行うことはできないということは御理解をいただきたいと思います。」
首相官邸ウェブサイト 安倍内閣総理大臣記者会見 2016/6/30

おわかりでしょうか。この発言をしっかりと理解すると、介護保険の見直しはどうなるか想像がつきます。共同通信47NEWSの報道は序章にすぎません。

■介護サービスは使いづらくなるし、負担は増えるし踏んだり蹴ったり
国は介護保険制度の存続に力を入れています。介護保険制度が崩壊したら社会秩序が維持できないからです。そのため、増え続ける全ての要介護者を介護保険の対象とすることはやめ、要介護者でも特に重度者にターゲットを絞ることに方針転換しました。これで増える社会保障費を少しでも減らすことができます。

減らすだけではなく、利用時の料金についても見直されます。介護保険は、医療保険と違って原則1割負担で利用できます。この割合が見直されていきます。一気に全員が2割、3割となることは考えにくいですが、財産の多寡に応じて負担が変わる仕組みが導入されることは考えておかなければいけません。マイナンバーができて便利になりました。銀行口座とマイナンバーの紐づけも時間の問題です。まさに個人の収入も財産も丸裸となり簡単に捕捉されます。逃れようがありません。

そして介護保険料を負担するのは40歳以上という年齢も見直しのターゲットです。別に40歳以下に負担させてもいいわけです。20歳になると国民年金の保険料は支払うことになっていますので、同じように下げてくると考えておくのが自然です。

■自分や親の将来に備える日がやってきた
日本の社会は超高齢社会です。今までのような高度成長時代の社会保障モデルは成り立たなくなっています。保険が利用できる人は一部の重度者に限られ、保険が利用できるまでは、自分でなんとかしないといけない時代が到来しようとしています。

自分でなんとかとは、自分のお金を使って、民間の介護サービスを購入するということです。今までは1割負担で済みましたが、保険外なので10割負担となります。相当裕福でないと10割の支払いは困難です。もちろん裕福であっても、終わりの見えない介護に対して払い続けるのは資力の喪失につながります。

民間の介護サービスが購入できなければ、自治体が提供する介護サービスや地域ボランティアの介護サービスへとなるかもしれませんが、希望者が殺到した場合、受け皿となりえるのか不安です。特に自治体の財政によっても提供されるサービスは質・量・価格とも変わってくると思いますが、私たちの老後は少なくともバラ色ではないということははっきりしています。

【参考記事】
■介護保険はやっぱり保険ではなくなった(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/48977075-20160701.html
■介護保険は保険でなはい 「親の介護は老人ホームにお願い」は甘い考え 介護保険を考える(1) (藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/35018841-20131120.html
■よくある選挙公約「介護施設を増やします」について真剣に考えてみた (藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/49098975-20160717.html
■介護が必要になった!どうする?(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/49045000-20160709.html
■介護の問題を絶望にしない秘訣(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/48944579-20160626.html


藤尾智之 税理士・介護福祉経営士

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