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平成28年7月31日、東京都知事選挙が行われました。過去最高の21名からなる立候補者の中で、小池百合子氏が他の立候補者を破って、初の女性都知事として当選しました。初の女性都知事ということから、これから行う介護政策について選挙公約から期待とともに考えてみました。

■小池百合子氏の選挙公約
小池百合子氏は、東京の課題解決と成長創出のために、3つの「新しい東京」をつくることを選挙公約に掲げています。セーフ・シティ、ダイバー・シティ、スマート・シティの3つです。セーフ・シティとスマート・シティのシティは、CITYとして、イメージが湧きますが、ダイバー・シティのシティは、そもそもCITYではなく、「DIVERSITY」で多様性という意味です。日本語だからこそできる合わせ技ですが、非常に考えられた覚えやすい選挙公約だと言えます。

さて多様性ですが、その意味は単なる多様性に留まらず、人間は一人として同じ人はいないということから、個性を尊重するという考え方です。個性とは、年齢、性別、国籍、宗教、障がいの有無などです。

小池百合子氏は、具体的に「女性も、男性も、子どもも、シニアも、障がい者もいきいき生活できる、活躍できる都市・東京」として、9つのミッションを発表しています。9つのミッションのうち、介護に関するミッションは次の通りです。

■介護に関する小池百合子氏の選挙公約(抄)
「あらゆる都内遊休空間を利用し、保育施設、介護施設不足を解消。同時に、待遇改善等により保育人材、介護人材を確保する。」

この選挙公約は、ありきたりといえばありきたりです。ただし、今までにある選挙公約と同じで、どうせ実現させる気はないんでしょうと高を括るのは時期尚早です。というのは、厚生労働省が推進している地域包括ケアシステムとシンクロして推し進めるとぐっとその実現可能性は高まるからです。

■地域包括ケアシステムとは
厚生労働省は、2025年には高齢者人口が3,657万人へ、2042年にはピークの3,636万人と見込んでいます。その時は、今のままの介護保険制度だけでは高齢者を支えることはできないと考えられています。

理由は、これからの日本は人口減少社会だからです。当然、労働力不足となります。そして、労働者が減るため、会社も減り、国に入る法人税や所得税などの税金は増えません。社会保険料も同様に増えません。一方で介護を必要とする方々が増えれば増えるだけ、保険給付額は右肩上がりとなります。そうなると、介護保険という国が決めた全国一律の制度を進めるだけでは高齢者を支えられなくなります。もっと、誰もが高齢者を支えるようになって、しかも、お金がかからない受け皿を増やす必要があります。

このため、厚生労働省は、地域包括ケアシステムという概念を作りました。地域、具体的には都道府県や市町村に、介護保険制度とは異なる介護制度を運用させるというものです。全国一律ではなく地域単位の介護制度なので、地域の実情に合わせて運用すれば良いことになっています。

例えば、地域のボランティアやNPO法人に地域包括ケアシステムの介護制度の受け皿になってもらおうと決めたとします。その場合、そのボランティアやNPO法人には介護保険が要求するような国家資格や専門設備は要求されません。もっと緩和されたレベルを満たせば良いということにします。このように地域の実情に応じて、簡易的に受け皿ができれば、高齢者の増減に速やかに対応できます。

■小池百合子氏の選挙公約と地域包括ケアシステム
小池百合子氏は、選挙公約で「あらゆる都内遊休空間を利用し、保育施設、介護施設不足を解消。」と言っています。つまりは、基準を緩和できる地域包括ケアシステムを使って、介護に利用できそうな空き家や空き空間を利用すると言っているのだと思います。今まで埋もれていた空き家や空き空間が介護保険の施設ではないですが、地域の高齢者の受け皿となる施設として整備されるということです。

受け皿を作るにあたって、整備・運営にコストの心配がいりません。整備・運営にかかるコストが下がれば、浮いたお金を人材に充てることができますので、続きの公約「同時に、待遇改善等により保育人材、介護人材を確保する。」が期待されます。

■これからの介護保険制度
介護保険制度は、これからも存在し続けます。ただし、介護保険制度は、介護が必要な方の中でも、重度と言われている方々の制度となります、一方で、介護が必要な方の中でも、軽度と言われている方々の制度は、地域包括ケアシステムになっていきます。地域包括ケアシステムは、いくつかにカテゴリ分けされ、軽度の中でも介護が必要な方、見守りだけで済む方などに枝分かれしていきます。

介護は、家族の問題から社会の問題へという流れで介護保険制度は始まりましたが、これからは地域の問題になります。その地域にお節介を増やして、高齢者のサポートを頼んでしまえということです。確かにお金はかかりませんが、介護保険制度と比べて質の担保に疑問が残ります。この問題は、これから整備されていくと思われます。

望むも望まざるも厚生労働省は、地域のつながりによって地域で高齢者を支える社会の実現に大きく舵を切りました。私たちが暮らす地域がこれからますます重要になっていきます。

【参考記事】
■介護保険はやっぱり保険ではなくなった(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/48977075-20160701.html
■介護保険は保険でなはい 「親の介護は老人ホームにお願い」は甘い考え 介護保険を考える(1) (藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/35018841-20131120.html
■よくある選挙公約「介護施設を増やします」について真剣に考えてみた (藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/49098975-20160717.html
■介護が必要になった!どうする?(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/49045000-20160709.html
■介護の問題を絶望にしない秘訣(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/48944579-20160626.html

藤尾智之 税理士・介護福祉経営士

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