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寝耳に水! 厚生労働省は外国人の介護人材受け入れについて検討を行い、訪問介護サービスにも外国人ヘルパーの受け入れ解禁を決めました。来年4月から実施されるそうです。驚きとともに、我が家にも来るのかと冷静になって考えてみると他人事ではないと感じました。しかし、なぜそんなことになったのでしょうか。

■日本の訪問介護サービスの現状
日本には全部で33,911の訪問介護事業所があります(平成26年10月1日現在)。これらの訪問介護事業所から介護サービスを受けている方は、203.6万人(うち予防訪問介護61.6万人、訪問介護142万人)いらっしゃいます(厚生労働省 平成26年度介護給付費実態調査 受給者の状況より)。

203.6万人は通過地点です。これから40年間、団塊の世代、そして団塊の世代ジュニアが高齢者となり、要介護者になります。訪問介護サービスの需要はますます増加します。介護事業所のビジネスチャンスも増えます。日本の中に残された最後の成長産業は介護産業だと言われる理由はここにあります。

しかし、ここで忘れてはいけないのが人口減少問題です。生産年齢人口が減り始めました。ヘルパーとして働く人も減っていきます。現在の介護サービス供給量は需要を上回っている状況ですが、将来は供給不足が予測されているのです。

介護産業はもともと人手不足ですが、将来の人手不足問題はさらに悲惨になるかもしれません。例えば、ケアマネジャーさんが訪問介護事業所に電話をして、ヘルパーの依頼をしても、「すいません、ヘルパーがいないんです。他をあたってもらえませんか」と言われるかもしれません。

■平成29年4月から外国人ヘルパーが我が家にやってくる
突如、時事通信から下記のとおり報道されました。
厚生労働省は5日、外国人の介護人材の受け入れに関する検討会を開き、東南アジア3カ国の介護福祉士の訪問介護を解禁することを決めた。

介護需要が高まる中、担い手不足を緩和するのが狙いで、2017年4月からの実施を目指す。

経済連携協定(EPA)に基づき、ベトナム、フィリピン、インドネシアから来日し、一定の経験を国内で積んで介護福祉士の資格を取得した人が対象。今後は施設勤務だけではなく、高齢者の自宅でトイレや食事の介助などが可能になる。
<ヤフー> 外国人の訪問介護、17年度から=人材不足緩和へ―厚労省 時事通信 2016/8/5

この報道を見て、驚いた方は少なくないのではないでしょうか。単に人をコマとして考えるのであれば、人手不足の解消方法として、海外から人を連れてくるという選択肢はありだと思います。しかし、訪問介護現場のようにマンツーマンサービスとなる現場にも導入となると首をひねりたくなります。今まで外国人に接したことのないような高齢者ならば受け入れには相当な決心がいるのではないでしょうか。

■一億総活躍プランはどこにいった?
日本には介護の国家資格である介護福祉士制度があります。公益財団法人社会福祉振興・試験センターの公開情報によると、平成28年6月末現在で約149万人が介護福祉士として登録しています。ところが、意に反して、介護現場で働いていない潜在介護福祉士が52万人いると言われています。この52万人が戻ってくれれば外国人ヘルパー解禁論は必要のない議論だと言えます。

介護福祉士が現場から離れた理由は人それぞれです。厚生労働省の社会保障審議会福祉部会では、介護福祉士の離職理由を次の通り分析しています。
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離職理由が、賃金水準や3K(きつい・きたない・きけん)よりも、「結婚、出産・育児」、「法人・事業所の理念や運営のあり方に不満があった」が上位に来ていることがわかります。マスコミが繰り返し放送する「給料が安いから介護職が辞めていく」というイメージが私たちの頭にこびりついていますが、現実はそれだけではないようです。

それならば、離職理由の第一位から第五位くらいまでの理由に優先順位を付けて改善していけば、介護福祉士が介護現場に戻ってくるのではと期待ができます。もちろんすぐに戻ってくるとは思いませんが、着実に各事業所が改善できるように意図的に政策誘導すれば働きやすい介護現場となり、辞める人は減り、戻ってくる人が増えれば、将来の人手不足を少しでも和らげられます。

安直に海外から人を連れてくるのではなく、今この瞬間に日本にいる人達を最大限活用するというのが、一億総活躍プランだと思います。しかし、一億総活躍の言葉が発信されてからもうすぐ1年となります。掛け声は大きく、実行しないスローガンを続けていては手遅れになります。

■厚生労働省も介護福祉士等に対して再就職対策を打った
平成28年3月31日に社会福祉法が改正されました。この改正社会福祉法に、介護人材確保の強化策が盛り込まれています。その具体的な強化策は、介護福祉士等のデータベースを作って、そのデータベース登録者に対して、求人案内や復職研修の案内をメールするというものです。しかし、これでは再就職意欲には結びつかない気がします。強化策といいながらお知らせメールを送るだけでは、後方支援にしかなりません。

介護福祉士等の方が復職しても良いと思ってもらうためには、離職理由となっている理由をダイレクトに改善させるくらいの心を揺さぶる対策が必要です。海外から人を連れてきて、教育を施し、日本語を教え、生活に慣れさせてといくつもの高いハードルを越えるよりかはハードルが低い気がします。

■離職理由の問題は普通の企業も問題となっている
離職理由第一位となっている結婚、出産・育児の問題は、どこの企業でも離職理由になっています。介護現場特有の離職理由ではありません。結婚しても、出産しても、育児後でも戻れる体制が整っている企業は、復職率が高いというのは周知の事実です。介護業界は、介護報酬の問題で福利厚生制度の充実は見送られがちです。介護報酬でのやりくりではなく、後押ししてくれるような政策の誕生を期待します。

そして、介護事業所の自助努力も必要ということもわかりました。第2位の離職理由として、「法人・事業所の理念や運営のあり方に不満があった」が挙がっています。この部分は国のせいにはできません。経営者の考え方ひとつです。

■実は、経営者の考え方ひとつで人は集まる
最近は理念経営を導入する介護事業所が増えています。理念経営を愚直に行って、その理念に感動して集まってくる介護職員は少なくありません。心理学の教えにもありますが、人は心が揺さぶれると行動を起こします。揺さぶられると気になって、行動を起こさざるを得ない状態になります。心を揺さぶられて人が集まってくるのです。外国人ヘルパーの導入は、やることをやってからでも遅くはないのではないでしょうか。

【参考記事】
■介護保険はやっぱり保険ではなくなった(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/48977075-20160701.html
■介護保険は保険でなはい 「親の介護は老人ホームにお願い」は甘い考え 介護保険を考える(1) (藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/35018841-20131120.html
■よくある選挙公約「介護施設を増やします」について真剣に考えてみた (藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/49098975-20160717.html
■介護が必要になった!どうする?(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/49045000-20160709.html
■介護の問題を絶望にしない秘訣(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/48944579-20160626.html

藤尾智之 税理士・介護福祉経営士

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