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ビジネスシーンで批判されがちな「ゆとり世代」だが、批判する側の中心だった50代が逆に「ゆでガエル世代」と指摘されている。

これは概ね1956〜1966年くらいまでに生まれた世代であろう。大学時代を学園紛争で闘い、のちに高度成長を支えた団塊世代と、バブル崩壊後の就職難を経験した45歳以下のデジタル世代の両世代にはさまれた年代である。

生まれた時から平和と経済成長を享受し、大学を合コンの場にし、就活ではらくらくと複数社の内定を得ながら、社会人になってすぐにバブル崩壊し、いわゆる日本経済の失われた20年を経る中で自主的に挑戦する感覚もなく、会社に飼いならされてしまったまま挑戦心を失った世代と分析されている。

そしていま彼らは、55歳前後で役職定年のふるいにかけられ、その大半がパワー不足としてポストから外され、収入がダウンしている状態だ。

■ゆとり世代批判の実態
さて、1988〜1996年生まれのゆとり世代は、重要な連絡をメールやLINEで済ませたり、上司からの飲みの誘いをスルーしたりと、コミュニケーションの不得手を指摘され、ビジネスシーンでは何かと批判されがちである。

しかし筆者の個人的な印象ではあるが、デフレ経済とインターネットがネイティブのゆとり世代は、現代のビジネス環境において、きわめて有能である

彼らが重要な連絡をLINEで済ませようとするのは、電話が相手の時間を浸食するものだと認識しているだけである。上司にとって得体の知れないコミュニケーションツールであるLINEは、彼らにとってはオーソドックスなツールである。

また、上司からの飲みの誘いを断るのも、酒を介在しないと本音を語れない旧世代の方にこそ、むしろ問題がある。

かつては会社に所属していれば毎年昇給し、社内での出世競争に勝ち残れば高給を得る可能性も高かった。株式や不動産に投資をすれば資産形成もできた。50代がゆでガエル化したのもその為だが、ゆとり世代にはそういう幻想はない。

彼らは会社にも経済の成長にも、期待していない。していないからこそ、自主的な挑戦心も旺盛だし、シェアリングやリサイクルなどを組み合わせた、新しいビジネスを生み出すことが出来るのだといえる。

■ゆとり世代の自分探し
生まれた時からデフレで、十代でリーマンショック報道を見てきたゆとり世代にとっては、就職できなかったり、既存のキャリアが中断することに対して、旧世代が感じているほどの危機感をもっていない。

バブル経済ピークの1992年の大卒平均初任給は186,900円、そして2016年は204,000円である。正社員でなくとも、最低賃金は上がっている。バブル時と現在とでは生活物価はむしろ下がっているので、若者は相対的に豊かになっている。

更にいえば、車は要らない、恋人も要らない、家も洋服もシェアできる彼らは、フリーター程度の収入でも経済的には充分なのだ。

そんなゆとり世代特有の行動が「自分探し」である。その為に就活せずに大学を卒業したり、簡単に会社を辞めたりする。

物欲が薄く、低所得でもどうにか暮らしていけるゆとり世代にとって、自分が本当にやりたい事を探す心の旅は、就職するよりも重要なことなのだと言える。

社会の中核をなす現在の50代からすれば、自分のキャリアや家族の扶養などを考えると理解できない行動だったが、いまやその50代が、自分の価値を問われ始めている。

■ゆでガエル世代の特徴
かくいう筆者も1964年生まれの51歳で、ゆでガエル世代の末席を汚す年齢だ。

私たちゆでガエル世代が、上司である団塊世代からかつてよく指摘された特徴と言えば、「個性が無い」であった。詰め込み型の教育を受け、イデオロギーを問われず、物質的に豊かだった私たちの若い頃の姿は、ひと世代上から見ると、どいつもこいつも同じように見えるらしかった。

しかしそれは、ゆとり世代がコミュニケーションの不得手を指摘されていたのと同様に、いつの時代も若者は常に年長者から批判される存在であっただけに過ぎない。

個性的であることを求められると同時に、組織人たることを強く求められた世代であり、退社後の飲みニケーションを拒む事など考えられず、時間外に働くのが当たり前でサービス残業という言葉すらなかった、無個性に感じる世代だが、その反面、会社の最前線に出ている年代と明治維新に匹敵すると言われたIT情報革命の時期が重なっているため、まだ戦力化していなかったデジタル世代が台頭するまで、パソコンを使えない団塊世代とのいわばブリッジ役を担った。

■ゆでガエルにならない挑戦心
50歳を超えれば、高度な専門性を有する者でもない限り、役職を外れれば仕事のほとんどは、下の世代に取って代わられるだろう。今後は50代こそが、真の意味での自分探しをしなければならない。それは、会社から与えられるであろう、これまでの業務の続きではない。

年齢に応じた価値のある業務、たとえば顧客クレームの最終解決に立ち会ったり、会社の側にたって労務問題を解決する汚れ役を担ったりすることができる年代だ。

あるいは新規事業の提案にも適している。新しいアイデアは、何も若者の特権ではない。会社のカルチャーと、会社の資産であるヒトモノカネを理解した上で、デジタルにも明るい50代は、実は新規事業の運営構築にはもっとも適している。

少なくとも役職定年をきっかけに老け込むには早い。感覚的には、ゆとり世代を見習うべきである。景気が上向きになる事を期待したり、会社が成長するのに従って自分も引っ張り上げられると考えてきた、これまでの感覚を捨てて掛からなければならない。

現代の50代は若く、人生もまだ先が長い。ゆでガエルのままキャリアを終えるのでなく、もうひと頑張りする最後のチャンスであろう。

【参考記事】
■ビジネス経験豊富なシニアが起業で失敗する理由 (玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/49022518-20160706.html
■三菱自動車の不正問題に見る、下請け企業の自己防衛と金融機関の支援 (玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/48497051-20160501.html
■中小零細企業に必要な「仕事がうまい」人材(玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/48242519-20160331.html
■地方の中小企業経営者が現場から見た「女性活躍」のリアル(玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/48171281-20160323.html
■せっかくの学びが、地方のビジネス現場で役に立たない理由(玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/48339489-20160411.html

玉木潤一郎 経営者 株式会社店舗応援団 代表取締役

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