71852312

先日17日間の激闘を終え、リオ五輪が閉会。過去最大のメダルを獲ったこともあり、日本中が大きく湧きました。また、初の自動車メーカーとしてトヨタ自動車が東京五輪でのスポンサー契約の最高位であるワールドワイド契約を約3,000億円で結んだとのニュースが流れるなど、スポーツに関するポテンシャルは隆盛しているように見受けられます。そこで、スポーツのビジネスとしての可能性はどれほどあるのかを掘り下げてみました。

■スポーツビジネス市場
日本政策投資銀行が発表した「2020年を契機とした国内スポーツ産業の発展可能性および企業によるスポーツ支援」(2015年5月)によると、2012年時点でのGDSP(国内スポーツ総生産)は、約11兆4千億円。(公営競技(競馬、競輪、競艇、オートレース)を除くと、約7兆円)医療・福祉と同程度の大きさを持つと試算され、GDPの比率は2.4%。なんと、鉄鋼産業(5.6兆円)や輸送機械産業(8.9兆円)より大きい規模を誇ります。

個別のカテゴリーでは、グッズの販売などの小売が約1兆6千億円。学校や施設など教育関連が1兆5千億円。旅行が7,400億円。メディアが4,000億円。10年前の2002年に比べ、全体で約3兆3千億円(公営競技を除くと1兆5千億円)も減少しているそうですが、それでもなお巨大です。

市場の縮小への取り組みとして、新しい形のスポーツビジネスも登場しています。例えば、競技団体と連携したスポーツツアーや地域活性化を目指したスポーツイベントなどです。

市場規模だけを見ると、ビジネスとしてかなり魅力的です。しかし、ある程度の設備投資や先行投資を必要とするほか、独自の慣習や既存プレイヤーによる影響などが容易に想定されるため、十分なシナジーを見いだせる場合を除いて新規参入は難しいでしょう。それは新しい取り組みについても同様です。さきほどのツアーやイベント関係に名を連ねているのは、NTTや近畿ツーリストといった大手が中心だからです。

資本力に制限がある企業が乗り込める可能性は別のところに存在します。従来のスポーツ市場ではなく、数年前に登場し、世界的な拡大傾向にある新しいスポーツビジネスです。

■eスポーツの可能性
新しいスポーツビジネスの名は「eスポーツ」。まだその名を聞いたことがない方もいるかもしれません。eスポーツとはいったいどのようなものなのでしょうか。一般社団法人日本eスポーツ協会(JeSPA)によると、

eスポーツ(e-sports)」とは、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称。


と定義されています。要は、これまで家庭内やゲームセンターなどの狭い範囲で個人もしくは数名で遊ぶ対象であったゲームを、スポーツとして、プロのプレイヤーが参加し、そのプレイを見る観戦者を集め、お金が動くビジネスに昇格させたものと言えます。

そんなものがビジネスになるのかと思われるかもしれません。しかし、日本においてもそれは別の形で証明されつつあります。YouTubeのゲーム実況です。いわゆるユーチューバーと呼ばれる人たちによって行われるゲームのプレイ動画です。チャンネル登録者数がゆうに100万人を超える猛者も登場しており、ライブ実況では、国民的アイドルのコンサートを凌ぐ来場者を毎回獲得しているケースがいくつもあるほどです。

ユーチューバーは視聴による広告収入を得ることができます。年間に数千万円稼ぐ強者もいると言われています。こうしたことからもプロゲーマーの観戦を提供商品としたビジネスが成立する可能性は十分あると考えて差し支えないでしょう。

事実、TMT Prediction2016年度版(デロイトトーマツ)によると、2016年のeスポーツの世界市場規模は、前年の約4億ドルから25%増加し、5億ドルになると予想。また大規模イベントになると観客数は4万人、数千万人のオンライン観戦者を集める人気ぶり。

欧州サッカーの300億ドル、NFLの110億ドルに比べるとまだまだ小さいのですが、2014年の米AmazonによるTwitch買収をはじめ、世界各国で大資本や投資家がこぞってeスポーツ関連企業の買収を進めており、今後さらに拡大していくと見られています。

■参入の可能性を掘り下げる
後発での参入を考える場合、どのような切り口があるのでしょうか。着想の起点は2つ。「ビジネスプレイヤー」と「ビジネスの性質」です。

現在、日本における「eスポーツ」のビジネスプレイヤーは、少なくとも4つ。業界全体を束ねる協会、プロゲーマーを育成する学校、プロリーグ大会主催企業、使用するゲーム機器メーカーなどがあります。

一方の性質はどうでしょうか。ゲームをする人がいて、その対戦を観戦する。これは日本古来からある業界にとても似ています。1000年以上の歴史を持つと言われている「将棋」です。

将棋の場合、日本将棋連盟があり、様々なタイトル戦が新聞社やニコニコ動画などのデジタル・メディアと提携し、開催しています。並行して、奨励会を通じてプロ棋士を育成。将棋盤や駒などの関連グッズも販売。これらの活動には様々な収益が伴い、かつ継続的に発生しています。

将棋と関連付けながら、参入の切り口を考えてみましょう。プレイヤーは「協会」「大会」「育成」「関連商品の販売」の4つです。まず協会から。将棋連盟に相当するeスポーツ業界をまとめる協会はさきほどご紹介した通りです。すでにあるから、と素直に諦める必要はありません。もう一つ創る可能性もあるでしょう。実際、複数の協会や団体が存在する市場はいくらでもあるからです。

次に大会運営。将棋の場合、各新聞社や企業が出資し、運営しています。名人戦など7つのメジャータイトルのほか、近年ではネット対戦の「電王戦」「叡王戦」といった新しいタイトル戦も登場。資金面などの制約条件を十分に考慮することが前提ですが、「eスポーツ」でも複数タイトルを打ち立てられる可能性は否定できません。

3つめの育成。将棋では連盟がその機能と役割を担っています。同じようにeスポーツでも協会がそこへ乗り出すでしょう。直接だけではなく、運営企業に対する会員制なども含みながら。1点異なるのは、外部にプロゲーマー専門の学校が誕生していること。将棋よりもむしろ一般的なスポーツビジネスであるテニスやゴルフに近い印象です。となると、後発参入の余地は十分有り得そうです。

最後の4つめ。関連商品の販売。これは既存のハードウェアベンダーがいるため、あまりオススメできるカテゴリーではありません。なぜなら、市場の拡大ととともに早晩「資金力勝負」になる恐れをはらんでいるからです。もちろん、可能性ゼロではないでしょう。しかし、一般的な耐久消費財と同様、先行者が基本的に有利と考えるのが自然です。

■どれを選ぶべきか
新しいスポーツビジネスである「eスポーツ」への参入可能性をビジネスの性質と「協会」、「大会」、「育成」、「関連機器」の4つのプレイヤーから見てきました。

参入余地の可能性とその需要の連続性で考えると、「育成」にチャンスがありそうです。理由は2つ。1つはネット環境を利用するなど実現手段の多様性が見込めること。そしてもう1つは対象となる将来のプロゲーマーが、継続的に生まれ続ける土壌があること。これは、世界的なゲーム市場が直近の2014年から2015年の1年間だけでも2兆円以上も市場が拡大し、約8兆2千億円以上の規模を有していることがその根拠です。(ファミ通ゲーム白書2016より)

欧米のように、日本では「eスポーツ」が根付かないのではないかとの意見もありますが、関連市場も含め、拡大傾向にある市場はそうそうありません。あらゆるビジネス分野が成熟期にある中、新しいビジネスチャンスとして検討する価値は十分あるのではないでしょうか。


【参考記事】
■新しいビジネスモデルを発想する「6つの視点」(酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://financial-note.com/2016/06/13/six_view_point/
■不動産業に見る「ジャパネットたかた式」ビジネスモデル(酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://financial-note.com/2016/05/21/exsample_0124/
■【【出版不況】書店業界を救う手立てはないのだろうか (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47952603-20160229.html
■【就活で銀行を選ぶな!】 銀行のビジネスモデルが終焉を迎える日 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47617542-20160125.html
■ワタミが劇的な復活を遂げる可能性が低い理由 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47314916-20151224.html

酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト フィナンシャル・ノート代表


この執筆者の記事一覧

このエントリーをはてなブックマークに追加
シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ
シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。
シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。