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総務省統計局が発表している高齢者人口及び割合の推移では、2025年は人口の3人に1人が65歳以上となり、5人に1人が75歳以上の社会となっています。その2025年まであと9年。医療と介護、そして住まい、介護予防、生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムという仕組みが本格的に始まります。

■地域包括ケアシステムとは地域にある医療や介護サービス等を緊密に連携させた仕組みのこと
地域包括ケアシステムとは、厚生労働省の説明では、「高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるようにした地域の包括的な支援・サービス提供体制」となっています。

これを読んでもわかりにくいので、次の通り分解してみました。
・「高齢者の尊厳の保持」・・・内閣府が行った調査によると高齢者の6割が住み慣れた家で引き続き暮らしたいというアンケート結果がありました。同様に、「万一、治る見込みがない病気になった場合、最期は何処で迎えたいか」という調査に対して、「自宅」の割合が約半数を占めています。これらは高齢者の意思であり、尊厳と考えたようです。

・「自立生活の支援」・・・介護サービスの利用実態調査によると、介護度が軽度の方は在宅サービスの利用が多い一方、介護度が重度の方は施設サービス利用が半数を超えている状況のようです。重度化しても自宅で暮らせることが自立生活の第一歩と考えられます。

・「住み慣れた地域」・・・・自宅と限っていないことから、自宅以外の地域にあるサービス付高齢者住宅などを含めていると考えられます。今まで暮らしていた地域のどこかでということでしょうか。

・「自分らしい暮らし」・・・これはどこでも自分らしく暮らせば自分らしい暮らしと言えるので定義はしづらい部分です。人や物との関係や距離を自分の好きなようにできることが自分らしい暮らしでしょうか。

・「最期まで」・・・死に際です。戦後間もない昭和26年当時、自宅で亡くなる方の割合は82.5%でしたが、平成21年は12.4%となり、代わりに病院のベッドで亡くなる方の割合は78.4%となっています。昔のような自宅回帰が狙いかと考えられます。

以上から、高齢者の介護度が高くなっても、生活が成り立つように医療や介護のサポート、その他生活する上で必要な支援を緊密に結びつけた体制が地域包括ケアシステムだと言えます。

■わざわざ地域包括ケアシステムにする理由
高齢者の介護度が高くなっても、最期まで住み慣れた地域で暮らせるように医療や介護の緊密な体制を構築するだけでしたら、わざわざ地域包括ケアシステムを作る必要はないと思います。しかし、お金の観点から見てみると理由はもっと別なところにありました。

介護保険の予算は、保険制度元年の平成12年は3兆6千億円でした。10年後の平成22年は、倍の7兆8千億円となりました。今年(平成28年)の予算は、9兆6千億円が見込まれています。そしてなんと、10年後の平成37年は18兆円~21兆円と予測されています。また、医療保険は、平成25年の時点で35.4兆円、平成27年の時点で39.5兆円、そして平成37年は54兆円と予測されています。介護保険・医療保険ともにお金が足りない状況です。

このため、介護保険、そして医療保険を含めた社会保障費をどのように削減するかが国の命題となっています。そこで介護と医療を緊密に連携させて、総合的に費用を抑制させる作戦が考え出されました。

具体例として、平成30年4月から入院日数が短くなるような改正が見込まれています。病院で静養できなくなった期間は、自宅ベッドでの静養となります。静養の場所が自宅に変わるだけで、入院基本料が不要となり医療費が抑えられます。入院基本料は病院滞在費(ホテルコスト)とも言われます。全国に100万床以上のベッドがあると考えられていますので、例えば一人1日15,000円の入院基本料かかっていたら単純計算で150億円の医療費が削減できるわけです。

高齢者の場合、要介護認定を受けていれば自宅で介護保険の訪問看護や訪問リハビリなどの医療系介護サービスを受けることができます。このように、社会保障費の削減の観点からも、高齢者の退院後の生活や重度の方の生活を支えるための地域包括ケアシステムが必要となります。

■医療や介護サービス以外の地域包括ケアシステムの支援・サービスとは?
医療や介護サービス以外の支援・サービスとして、例えば、買い物や炊事、文化活動、外出支援等が考えられます。従来、これらのサービスは介護保険の範囲で利用することができました。しかし、今後は介護保険ではなく、老人クラブ、自治会、ボランティア、NPO法人などが行う支援・サービスとして予定されています。介護保険からの軽度者の切捨てと言われている部分です。

1割負担だけでよい介護保険と比べて、介護保険外サービスは10割まるまる負担しなければなりません。つまり国は、必要なサービスはお金を出して買ってくださいと言っています。この形では生活が成り立たなくなる高齢者も出てきます。そこで、自治体は、自治会やボランティアに廉価でのサービス提供を委託します。国に代わって自治体が責任を持って行う事業です。当然に、社会保障費の削減につながります。

介護保険事業者ではないこと、廉価でのサービスだからと言って、安直にサービスの質が低いとは言えませんが、質の担保につながる何かしらの仕組みが必要だと思います。

■それでもまだ手探りの状態の地域包括ケアシステム
地域のことは市町村がなんでも知っているわけではありません。地域に必要なサービスと言われてもそう簡単にアイディアが生まれるわけでもありません。介護事業所、医療機関、町内会や民生委員など地域関係者が意見交換を行って必要なサービスを考え続ける必要があります。

平成29年4月までに全国全ての市町村は、この地域包括ケアシステムを開始していなければいけません。すでに始めている市町村もありますが、手探り状態です。民間レベルで地域包括ケアシステムのアイディア出しをしているところもありますので、官民協力し合って、良いサービスを考え、提供していただきたいと願っています。

【参考記事】
■介護保険はやっぱり保険ではなくなった(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/48977075-20160701.html
■介護保険は保険でなはい 「親の介護は老人ホームにお願い」は甘い考え 介護保険を考える(1) (藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/35018841-20131120.html
■よくある選挙公約「介護施設を増やします」について真剣に考えてみた (藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/49098975-20160717.html
■介護が必要になった!どうする?(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/49045000-20160709.html
■介護の問題を絶望にしない秘訣(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/48944579-20160626.html

藤尾智之 税理士・介護福祉経営士

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