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■アベノミクス新第三の矢とは

アベノミクスが”新第三の矢”である「GDP600 兆円」、「希望出生率 1.8」、「介護離職ゼロ」を目標に掲げる主な理由は、人口減少による経済成長の低下抑止です。働き手がいなくなるわけですから生産できず、またその生産したモノ自体を需要する人口も減少するため経済が停滞してしまうわけです。

この人口減少が原因とした経済対策のために「一億総活躍プラン」は、2016年6月に閣議決定し、現在政府が推進しているものです。具体的には、子育て支援をおこなって第二の矢である「希望出生率1.8」を目指し、社会保障の充実を通じて第三の矢「介護離職ゼロ」の達成を目的とするものです。様々な諸事情によって働いていなかった労働人口を増加させることによって、第一の矢である「GDP600兆円」の実現へと繋げていくシナリオが描かれているのです。
ただし、一見目新しく映る政策なのですが、今まで各省が推進してきた政策とほぼ同じ内容であることに注意が必要です。新たな政策自体を実施するわけではなく、以前までの取り組みをまとめてスローガンとして掲げたにすぎません。

■日本が直面する人口問題と経済成長

たしかに労働人口が増えれば、第一の矢「GDP600兆円」の達成も夢ではないでしょう。
経済の伸び率である経済成長率は、労働者数の増減率と労働生産性の上昇率で決まります。そして、短期的に労働生産性に劇的な向上が発生しないとすると、労働者数の増加は直接的に経済成長を押し上げるためです。

したがって、現在のように労働人口が低下していく日本は、他先進国と比べて経済成長は低い状態のままであり、また今後も低下し続ける可能性も否めません。また、新興国を対象に比較しても、そのほとんどが、先進国より高い経済成長率になるため必然的に日本が世界一経済成長の低い国になってしまうのです。

このような暗い将来像を払拭するために、「一億総活躍社会」は、子育てする女性や介護を理由に働けない人をサポートし、国民全員に働いてもらうことで日本経済の安定を図ろうとしているのです。

■日本の女性は半減する

一方で、「一億総活躍プラン」が中長期で考えた目標だとすると、その達成は非常に困難なものかもしれません。というのは、日本の人口動態から考えると、短期的にはGDPに有効でも、中長期には有効に働かないことがわかるからです。

それは、「一億総活躍プラン」を通じて潜在的労働人口を増やしたとしても、その後の世代が生まれない限りは長期的な経済成長の維持は不可能なためです。
ただし、問題は「子供を増やすような環境づくり」ができていないことではありません。

日本が抱える本当の人口問題とは、今後日本は子供を産める女性が減少していくという点にあります。

「子供を産めるような環境整備をします」と政府が提案したとしても、子供を産める女性の絶対数が少なければ効果は半減することになります。例えば女性100人が2人ずつ子供を産むのと、女性50人で2人ずつ子供を産むのとでは人口動態の側面から大きく変わるでしょう。
国立社会保障・人口問題研究所によると、18歳から34歳までの人口(ここでは子供を産みやすい人口として定義しました)が2060年には2010年時点と比べると半減してしまうと推計しています。

女性人口


一方で、国連が出した同様の統計では、アメリカ、イギリス、フランスでは微量ながらも増加することが予想されています。先進国は総じて、少子高齢化傾向になりがちですが、長期で考えると日本だけが減少してしまう可能性が高いのです。

■今後の対応

日本政府は女性全体の合計特殊出生率を2.07まで上げることを目標としていますが、現在2015年の厚労省の発表では1.46とかなりかけ離れた数字になっています。ただし、この数字はあくまで女性全体であり、既婚女性の出生率は2.0台以上を保っていることに注意をしてください。

今の経済状況やライフスタイルの多様化を考えると、そもそも子どもはいらないという家庭や未婚の女性が増加している中、問題の所在を的確にとらえた環境づくりができるかどうかが長期的な「一億総活躍プラン」達成のカギになると思うのです。


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JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師

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