第24弾写真

ここ最近、所得税の控除関連の見直しについて、多くのニュースが配信されています。所得税はとりわけ個人に直結する税目(税金)であるために、なかなか着手しづらいという側面があります。選挙が近いと票が逃げるため先送りの本命です。しかし、これから当分の間は選挙の予定がなく、内閣支持率も高位安定している理由から今が見直す機会と判断されたのでしょう。


■そもそも税金の種類が多くてその上、複雑すぎる件
所得税以外に、法人税、消費税、相続税などたくさんの税金があります。例示した税金は国税といって国のお財布に入る税金です。一方で地方公共団体のお財布に入る税金として住民税、事業税、固定資産税など挙げたらきりがないくらいの種類があります。

税理士は、税理士になるために税理士試験を受験しますが、上記に挙げた税金を全て勉強するわけではなく、3つの税金だけ勉強して試験に合格すれば税理士となれます(税金の他に会計科目が2つあります)。このため、税理士といえども全ての税金に精通しているわけではありません。

その上、税金は本法と呼ばれる原則法に対して租税特別措置法と呼ばれる特別法が存在します。「本法ではOKなんだけど特別措置法でダメ」とか、「本法ではダメなんだけど特別措置法でいいよ」という例外ルールが氾濫しています。そして、ダメ押しで毎年必ず税制改正が行われます。このため、税理士試験に受かった後も引き続きキャッチアップしないと使い物にならない税理士と化してしまいます。

■やみくもに改正するのではなく、税制改正中期計画が欲しい件
今回やり玉に挙がっている所得税の控除関連の改正については、降って湧いたように金持ち優遇とか専業主婦優遇とか言われるようになりました(所得税、基礎控除見直しへ 政府税調、低所得者の負担減 2016/09/14 産経新聞)。一般の会社で制度化されている福利厚生制度のようなもので、誰もがその立場になれば恩恵に預かれますし、特に基礎控除は誰にでも等しく与えられた控除ですので、急に金持ち優遇と聞くとどこか引っかかります。

ところで、どの会社にも事業計画があるように、国も税制改正について計画というものは持てないものでしょうか。せめて中期計画で、5年ごとに変えるくらいの大きな流れがあると私たち納税者も心の準備ができます。突然に見直し協議が始まると拒絶反応の方が先に出てしまい、それこそ投票に響いてしまう気がします。

税金は社会的な問題の解決や政策誘導、業界団体のお願いなど様々な理由により新たに創設されたり、見直されたり、廃止されたりします。このこと自体は当然だと思われますし、仕方がない部分です。このような要望や改正の動きを、私たちがまったくもって知る由もないかと言うとそうでもなく、各省庁のホームページや業界団体のサイトを見ると事前に知ることができます。

■基礎控除の「基礎」は、とても重要と思う件
所得税の基礎控除は、昭和22年から始まっている制度です。戦後間もないということから容易に想像できますが、憲法第25条の生存権の保障(健康で文化的な最低限度の生活を営む権利)に由来しています。時代とともに控除額は変わっていますが、いつの時代も生活を送る上で認められてきた必要最低限の控除です。

このような基礎部分がいとも簡単に見直されるというのはあまりにも軽んじられていないでしょうか。もしかしたら、配偶者控除を廃止するために、基礎控除の見直しというあまりにも大きなショックを与えておいて、結果的に配偶者控除だけの見直しで済んで良かったと思わせるようなある種のショック療法的に利用されているのではと疑ってしまいます。

■基礎控除は金持ち優遇と言われたことにちょっと違和感を感じる件
所得税には所得控除と税額控除があり、基礎控除は所得控除の1つです。そして所得税は、下記の式で計算されます。

所得税 = 課税所得 × 税率

課税所得は、例えばサラリーマンであれば給与所得から社会保険料を差し引いて、さらに、配偶者控除や基礎控除を差し引いた残額です。この残額に税率を掛けますが、所得税の税率は、超過累進課税制度を採用していて、高額所得者ほど税率が上がっていきます。例えば、課税所得が150万円の人の税率は5%ですが、2,000万円の人の税率は40%です。

基礎控除が同じ38万円としても、課税所得150万円の人の場合は、減額される所得税は19,000円(38万円×5%)となり、課税所得2,000万円の人の場合に減額される所得税は152,000円(38万円×40%)となります。ここが金持ち優遇とされている部分ですが、そもそも高額所得者はたくさんの税金を納めているために、減額される金額が大きいだけです。金持ち優遇のために設計された控除制度ではないので、かなり理論が飛躍しているのではないでしょうか。

そして、基礎控除がなくなると、所得が少ない方も恩恵を受けられなくなります。上記の例では、150万円の人も19,000円の減額があります。基礎控除が見直しとなり、仮に廃止された場合は、単純に増税となりますので、さすがに基礎控除が廃止となっても違う形で減額が行われる可能性は高いです。

■税理士廃業になるくらい簡単にしてしまえ
税金は、憲法で定められた国民の三大義務の1つである納税の義務を果たすために支払うものですが、自分自身に置き換えれば生活、つまり、お財布に直結する問題です。もう少し思いやりをもって議論してほしいと思いますし、やみくもに恩恵に預かれない側に仮想の敵を作ることで改正を正当化するのは好ましくないやり方だと言わざるを得ません。そして何より、もっと税金の仕組みを簡素化することが望ましいです。

税理士が廃業するくらい簡単になれば、金持ち優遇の節税策も必要なくなり、誰でも暗算で納付額が計算できれば「納税感」は高まります。ついには、税金の使われ方に一言モノ申す国民が増えていき、政治への関心も高まるはずです。政権にとっては余計なお世話と言われてしまいそうですが、制度を複雑にしていく議論こそ見直しをしてもらいたいものです。

【参考記事】
■子育て世代直撃! 配偶者控除廃止? 介護保険料徴収? (藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/49467522-20160905.html
■配偶者控除の廃止について、税理士に聞いてみた。 シェアーズカフェ・オンライン編集部
http://sharescafe.net/38791870-20140513.html
■介護保険はやっぱり保険ではなくなった(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/48977075-20160701.html
■介護保険は保険でなはい 「親の介護は老人ホームにお願い」は甘い考え 介護保険を考える(1) (藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/35018841-20131120.html
■介護の問題を絶望にしない秘訣(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/48944579-20160626.html

藤尾智之 税理士・介護福祉経営士

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