サンシャイン2


「欠点は魅力のひとつになるのに、みんな隠すことばかり考える。欠点はうまく使いこなせばいい。これさえうまくいけば、なんだって可能になる。」

かつてココ・シャネルはそう語った。多くの場合、人は欠点をさらけ出すことを躊躇する。そして周囲に知られる前に、克服しようとしがちだ。

しかしそれは有効なのだろうか。欠点、弱点を克服することは困難である。克服する方法がわかっている場合はまだいい。やりようはあるだろう。だが、「克服する術がわからない」ことのほうが多い。だからこそ、弱点であり続けているのだろう。違う方法を考えたほうがいいのではないか。

過日、水族館プロデューサーで日本バリアフリー観光推進機構理事長の中村元氏のお話をうかがう機会があった。中村さんは、「サンシャイン水族館」や「北の大地の水族館」の再建を手掛け、成功させてきた。さらに、廃業寸前の旅館をバリアフリー対応に改造させることで、集客を20倍にするなど、ユニークな実績をあげてきた方である。

そこに一貫しているのは、「弱点は克服せず。認識して優位に立てるように使う」ということだ。なぜ、そんなことが可能なのか。うかがった具体的な事例から考察してみることにした

■常識を疑え
水族館のメインターゲット層は子供である。子供が「水族館に行きたい」と言い、それに伴って大人たちが来館する。一般的にはそう考えられている。しかし、本当だろうか。

試みに子供に質問してみよう、「動物園と水族館、どっちに行きたい?」。多くの子供は「動物園」と答えるのではないだろうか。子供たちが見たいのは、パンダやキリンやゾウである。

だから本当は逆ではないのか。水族館は大人が子供を連れてくるのではないか。動物園に行きたいという子供を、距離や時間の都合、大人たちの趣味によって水族館に連れてきているのではないか。そう仮説を立てれば今まではと違うマーケティングの施策を打つことができるだろう。

だから、サンシャイン水族館は「デートに使える水族館」であることもアピールし、大人をメインターゲットとしたのである。

■ターゲットは狭く絞り込め
「デートに使える水族館」とは若いカップルをターゲットにしたように見える。事実、そうした客層によって、「平日の夜」といういままで集客が弱かった時間帯にお客様が来てくれるようになった。

しかしそれだけではない。大人たちに魅力をアピールすることで夫婦も来場してくれるようになる。むろん、子供がいれば一緒に家族でやってくる。年間100万人を切っていた集客を224万人まで増やすことができた要因のひとつはこれである。

こうした考えは、バリアフリー観光にも生かされている。

身体障害者は全人口の3%である。たった3%とターゲットにするのは広がりを欠くように思われるかもしれない。しかし、そんなことはないのだ。

たとえばである。現在の小学校では全国平均で0.3%、車いすを利用する子供が普通クラスに就学している。こうした子供はもちろん、修学旅行にも参加する。そうである以上、利用する宿がバリアフリー対応できていなければ、その宿は利用できなくなる。一人ではない。その生徒が所属する学年全体が、である。

さらに、筆者が若いころに比べ、身体障害者の方の社会進出は進んでいる。旅行に行くにも、身体障害者と介護者の関係ではなく、友人同士のプライベートな旅行が増えているだろう。そうした際に選ばれるのもバリアフリー対応ができている宿である。同行者が介護者でない以上、身体障害者の方が自分で自由に動ける余地が大きいほど良いということになるからだ。

実は、バリアフリー対応ができていれば、足腰が弱ったと自覚している高齢者の方にも訴求する。身体障害者の方が使いやすいなら自分たちも大丈夫だろうと考えるからだ。

こうして、狭く絞ったターゲットの向こう側に、もっと大きな市場が広がっているのである。

■弱点を克服せず 利用せよ
サンシャイン水族館は、集客のエリアターゲットを中央線より北、池袋周辺に絞り込んだそうだ。

水族館は海と親和性が高い。海に近いほうがロケーションは優位だし、水も豊富に使うことができる。都心のど真ん中に立地し、ビルの最上階にあり水利用に制約があるサンシャイン水族館は弱点を抱えていたのである。

だから、海沿いにある水族館とは正面からぶつかることはしなかった。都内であれば、「しながわ水族館」などに行きやすいエリアはターゲットから外した。そうした水族館に行くのに手間がかかるようなエリアに住む人々を、池袋に足止めし、サンシャインに引き込もうとしたのだ。

さらに、最上階であることを逆手にとり、“天空のオアシス”をコンセプトとして打ち出した。屋上を緑化庭園に、夏にはビアガーデンを開催した。話題を集めるようになれば、人は集まってくる。こうして集客を伸ばしていったのである。

もうひとつ。北の大地の水族館は、北海道北見市留辺蘂町にある。内陸地にあり、展示しているのは淡水魚だ。海の魚に比べると特徴がなく、見栄えはしない。さらに、冬は露天風呂に入っていると髪の毛が凍ってしまうほどの寒さになる。

こんなところにお客様はくるのか。普通に考えれば弱点だらけの施設である。だが、この悪条件を生かして、世界初、誰も見たことのない凍った川の下を泳ぐ魚たちの様子を見ることができるようにした。こうして年間集客は15倍になり、現在は30万人を突破するまでに成長したのである。

■事実はひとつ、考え方はふたつ
どこに立地しているのか、それがどんな条件なのか。それは変えることのできない事実である。しかし、それをただの弱点だと考えるか、その中にプラスに転じられる要素があるのではと考えるか、考え方は二つある。

すべての弱点には長所がふくまれる。そう思い、それが何かを考え抜くことでイノベーションが生まれてくる。中村さんが示した実例がそれを証明してくれている。

<参考記事>
■創業1年の家電ベンチャーが、37種59製品をリリースできた秘訣 (中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49418238-20160830.html
■「トヨタ」から何を学べばいいのか?~【書評】どんな仕事でも必ず成果が出せる トヨタの自分で考える力/原 マサヒコ(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/47148390-20151211.html
■「町工場の星」に学ぶ 人の育て方、リーダーのあり方~【書評】ザ・町工場―「女将」がつくる最強の職人集団(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48530974-20160506.html 
■仕事に「自己実現」を求めるな! 中郡久雄
http://sharescafe.net/35179535-20131127.html
■「変わっていく力」を小泉今日子さんに学ぶ~(書評)小泉今日子はなぜいつも旬なのか(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49045435-20160711.html

中郡久雄 中小企業診断士

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