多様性画像

 昨今、女性活躍の推進を主な旗印に、企業の多様性を求める動きが活発化している。
東証のなでしこ銘柄、経産省のダイバーシティ経営企業100選、経団連の女性の役員・管理職登用等に関する自主行動計画など枚挙にいとまがない。また、ある経済誌でもダイバーシティ企業のランキングを掲載し、企業の多様性推進度合いを比較する。なぜこのように名だたる大企業がこぞって多様性を求めるのか。そしてランキングなるものが示す通り、それら企業の動きに優劣をつける必要があるのだろうか。

■多様性が目指すもの
 多様性を推進する企業の多くは、多様性の推進が自社の成長に寄与するものと謳う。各社が進める女性活用や、働きやすさ改革は確かに人材の定着、離職率の低下、再雇用や休職制度の活用による教育・育成投資の効率化に結び付くという因果関係は容易にイメージが可能だ。しかしながら、これらの施策の結果得られた多様性がどう企業の成長につながるのかの因果関係が語られているケースは多くはない。

確かに上記施策による、人材確保によって、マンパワーの補充はある程度できるであろう。しかし、多様性の目的が人材の確保であるならば、単一でも人数が集まれば良いのであって、多様である必要はない。敢えて多様性が企業の成長に結びつく論理を各社が示すことが、多様性へ投資するための説明責任を果たすことになる。

■多様性と経営戦略
 多様性の捉え方は企業によって様々(性別、年齢、宗教、国籍、言語等々)であろうし、その目的や活用の仕方や効果も千差万別であって然るべきである。重要なことは、多様性というものを自社の戦略の中にどう位置付けて活用していくのか、多様性=成長という安易な公式ではなく、その間に存在する因果関係やメカニズムを明らかにすることである。この目的が明確でない経営者は、社会の大勢に流されるように、社内の力関係や多数派の意見に従うのみとなる。

■選択と集中への挑戦
 多様性を自社の成長につなげるとした企業にとって、多様性が自社の経営戦略にどのような影響を及ぼすのであろうか。日本企業によくあるボトムアップの会社で、多様性は斬新なアイディアをもたらし、自社の行く末に新たな風を呼び込むことを期待し、社長直轄の多様性推進室なる部署を設けた会社をイメージしてみたい。

 この会社がこれまでの自社に合う人材から、多様性を重視した新しい人材を含めたポートフォリオを作り始める。すると、当初の目論見通り、これまでにはない視点での新しい意見やアイディアが社内に出始める。これまでのノウハウを生かし、新たな事業の可能性も見えてきた。ボトムアップの会社であればあるほど、経営者は複数の選択肢を得たことに多様性の成果を感じ、これらのアイディアを採用し進めていくこととなる。また、これまでメインの事業ではなかった部門においても、多様性に新たな期待を抱き、自部門拡大の好機と捉え、予算の拡大を求めてくるであろう。

 この結果、この企業は既存事業、または事業までとはいかないまでも既存のサービスに加え、新しいアイディアに対する経営資源の投下を行うことになる。これが意味するのは資源の分散化である。この企業は、多様性を推進することで、知らず知らずのうちに戦略の基本である「選択と集中」に相反する可能性のある行動を推進することにつながっていくのである。

 万が一、多様性の推進が、選択と集中との対立につながることに気づいたとしても、経営者は難しい立場に立たされるであろう。もしも対外的に多様性をキーワードにその推進を図っていたのであれば、当然ながらその成果を社外に示す必要がある。一方、社長直轄や特別な推進室を作ってまで推し進めた結果生まれたアイディアに、結局投資をしないとなれば、多様性の名のもとに集められた人材は、自社の多様性を単なるパフォーマンスや虚構と見て取り、今後彼らのモチベーションを保つことは難しくなる。このように、経営者としては社内外に対して引くに引けない状況に陥ることとなるのではないだろうか。

 このようなケースを回避するためには、企業は多様性というものがどのような役割を担い、どのような効果を期待するのかを、自社の戦略の中に明確に位置付けなければならない。そして、多様性から生まれたアイディアの取捨選択を行うための基準を持ち、自社の経営は「何をしないのか」を明確にしなければ、成長のために進めた多様性が、際限ない分散投資の道へと突き進むことになる。多様性を安易な人材確保の施策ではなく、経営戦略の一環として捉え、検討することで、自社にとって多様性の本当の要否が明らかになるのではないだろうか。

【参考記事】
■星野リゾートとリッツカールトンの戦略の違いとは(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49185987-20160729.html
■国内LCCの戦略に潜む思惑とは(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48967732-20160630.html
■トレードオフ 優秀な経営者がやらないことを決める理由(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48728741-20160531.html
■日本企業のM&A「対等の精神」に潜む影 「ファミマとユニーの経営統合」(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/47656741-20160129.html
■フェラーリの戦略にみる企業価値経営(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/47203706-20151215.html

森山祐樹

この執筆者の記事一覧

このエントリーをはてなブックマークに追加


シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ
シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。
シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。